論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

2月

結腸・直腸癌に対するcetuximab療法

Jonker DJ, et al., N Engl J Med. 2007; 357(20): 2040-2048

 Cetuximabはキメラ化IgG1モノクローナル抗体であり、EGFRの細胞外ドメインに結合して抗腫瘍効果を発揮する。結腸・直腸癌に有効であり、特にCPT-11との併用により結腸・直腸癌のCPT-11抵抗性が改善する。本研究は、進行結腸・直腸癌に対するcetuximabの有効性を検討した無作為化試験である。
 EGFR陽性進行結腸・直腸癌で、fluoropyrimidine、CPT-11、およびL-OHPによる治療歴を有するが奏効が得られなかった、またはこれらの薬剤が禁忌である患者572例をcetuximab群(287例)またはbest supportive care単独群(BSC群、285例)に無作為に割り付けた。両群にbest supportive careを実施し、cetuximab群はそれに加えてcetuximabを初回用量400mg/m2、維持療法として250mg/m2を週1回静注した。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、およびQOLとした。そのほか、安全性の評価を行った。
 追跡期間中央値は14.6ヵ月であった。OS中央値はcetuximab群6.1ヵ月、BSC群4.6ヵ月、6ヵ月OSは50% vs 33%、1年OSは21% vs 16%で、cetuximab群が優れていた(死亡のHR 0.77、p=0.005)。PFSもcetuximab群で有意な改善がみられた(増悪または死亡のHR 0.68、p<0.001)。OSおよびPFSにおけるこれらの相違は、Cox比例ハザードモデルにより複数の因子で補正後も統計学的に有意であった。
 奏効率は、PRはcetuximab群8.0%、BSC群0%(p<0.001)、SDはそれぞれ31.4%、10.9%で(p<0.001)、いずれもcetuximab群のほうが有意に高かった。QOLについては、cetuximab群のほうが身体機能の低下(8週時p<0.05、16週時p=0.03)および全般的健康状態の低下(8週時p=0.008、16週時p<0.001)のスコアが有意に良好であった。
 NCI-CTC version 2.0で評価したグレード3以上の有害事象発現率はcetuximab群78.5%、BSC群59.1%で、cetuximab群で有意に頻度が高かった(p<0.001)。Cetuximab群では、皮疹のグレードとOSとの間に強い相関が認められ、皮疹がない患者のOS中央値2.6ヵ月に対して、グレード1の患者4.8ヵ月、グレード2以上の患者8.4ヵ月であった(グレード2以上の皮疹と皮疹がない患者の死亡のHR 0.33、p<0.001)。
 本試験の成績から、cetuximabにより、他の治療が無効であった結腸・直腸癌患者のOS、PFSが改善し、QOLが維持されることが示された。しかし、SD以上の奏効率は39.4%と低く、cetuximabの効果が期待できる患者を予測するためのバイオマーカーを同定する必要がある。皮疹は、その候補の1つである。

考察

Cetuximabの有効例を予測するバイオマーカーのさらなる研究が望まれる

 Cetuximabが承認されると、capecitabineの進行再発への適応やL-OHPの補助化学療法への適応を除けば、大腸癌の化学療法薬のdrug lagはほぼ解消される。本論文では、cetuximabの上乗せは、全体では有意に良好であるが、驚くほどではない。しかし、グレード2以上の皮疹のある患者では、大きな効果を示している。
 Cetuximabを実際に使用する際は、infusion reaction、皮疹、低マグネシウム血症の3点に注意が必要である。キメラ抗体のためbevacizumabよりもinfusion reactionが高く、また特にマグネシウムは通常は検査しない項目である。皮疹の感染や、抗EGFR抗体であるため間質性肺炎にも注意が必要である。
 いずれにしても、早期に承認され、臨床現場で有効例に効果的に使用され、患者さんの利益になることを望む。また今後、有効例を選別するために、K-ras遺伝子などの皮疹以外のバイオマーカーについての研究も期待される。

監訳・コメント:国立病院機構 大阪医療センター 池永 雅一(外科)

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