論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

3月

転移性結腸・直腸癌における奏効とは関連しない生存延長効果:N9741試験およびAVF2107試験の比較解析

Grothey A, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(2): 183-189

 腫瘍径の変化は固形癌治療の評価基準としていまだに重要な指標であるが、分子標的治療薬治療を実施した患者では腫瘍縮小とPFS、OSとは関連しない可能性が指摘されている。転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療を検討した2つの第III相試験、N9741とAVF2107gでは、奏効率およびPFS、OSの改善に基づいて、IFLよりそれぞれFOLFOX、IFL+bevacizumabが優れるとされた。しかし、FOLFOXは腫瘍細胞に対する直接的な細胞障害性作用および前アポトーシス作用によって患者の転帰を改善すると考えられるのに対し、bevacizumabはVEGFを標的とした血管新生阻害が作用機序とされている。そこで、FOLFOXおよびIFL+bevacizumabによる生存延長効果は腫瘍縮小と関連するかどうかをレトロスペクティブに検討するため、両試験のOS、PFSの改善を奏効(CR/PR)患者と非奏効(SD/PDまたは評価不能)患者で比較した。
 AVF2107g試験はIFL+bevacizumab、FU/LV+bevacizumab、IFL+プラセボの3群の比較であるが、今回の解析ではIFL+bevacizumab群402例とIFL+プラセボ群(IFL群)411例を対象とした。一方のN9741試験はIFL、FOLFOX、IROXの3群の比較で、今回の解析対象はIFL群385例とFOLFOX群383例である。
 IFL+bevacizumab群のPFS、OSはIFL群と比較して奏効例、非奏効例とも有意に改善し、IFL+bevacizumab群 vs IFL群の増悪のHRは奏効例0.53(p=0.0002)、非奏効例0.63(p=0.0001)、死亡のHRは奏効例0.60(p=0.0136)、非奏効例0.76(p=0.0188)であった。
 また、IFL群と比較したFOLFOX群のPFS、OSも奏効例、非奏効例ともに改善がみられた。しかも、FOLFOX群のPFSの改善は奏効例(HR 0.89、p=0.3166)よりもSD例(HR 0.78、p=0.0795)および非奏効例(HR 0.75、p=0.0029)のほうがやや顕著であった。FOLFOX群のOSの改善は奏効例(HR 0.71、p=0.0047)と非奏効例(HR 0.74、p=0.0030)で同程度であった。
 このように2つの大規模試験の解析から、従来の基準では非奏効と判定される患者であっても、IFLとの比較で優越性が示されたレジメンを用いた治療により、奏効例と同様の生存延長効果が得られることが示された。この結果は、レジメンが化学療法単独(FOLFOX)であっても、血管新生阻害薬との併用(IFL+bevacizumab)であっても変わりはなかった。したがって、転移性結腸・直腸癌の臨床試験では、多くの患者で奏効評価は治療の効果を反映しないため、重視すべきではないことが示唆された。

考察

抗癌剤による腫瘍の縮小効果と患者の生存期間の延長効果は一致しない

 大腸癌化学療法の大規模比較試験を治療反応群(CR/PR)と治療非反応群(SD/PD/評価不能)に分けて検討することで、腫瘍縮小効果は生存延長効果を必ずしも反映しないことを示した論文である。長期のSDが延命につながることは想像に難くないが、PD群においてもFOLFOXおよびIFL/BVで延命効果が示されたのは興味深い。さらに、BV併用群だけでなくFOLFOX群でも同様の結果であった。分子標的薬は腫瘍サイズで判定しにくい可能性が指摘されている。例えば、メシル酸イマチニブが消化管間葉系腫瘍(GIST)に効果を示した場合、腫瘍壊死に伴いCT上腫瘍径がむしろ増大することが知られている。本検討では分子標的薬だけでなく、化学療法単独でも奏効率が有用ではないことが示された。したがって、癌治療の効果判定には現行の腫瘍の形態的変化の測定だけでなく、代謝などの機能的情報(バイオマーカー)を的確かつ簡便に評価する方法の開発と検証が必要になってきたといえよう。

監訳・コメント:国立病院機構 北海道がんセンター 藤川 幸司(消化器科)

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