BMIと食道癌・胃癌リスクに関する前向き試験
Abnet CC, et al., Eur J Cancer. 2008; 44(3): 465-471
従来のBMIと食道腺癌、胃噴門部腺癌との関連についての調査は、十分な症例数によるコホートが行えず、ほとんどがケースコントロール研究に基づくものであった。いくつかの前向き試験もあるが、喫煙などの交絡因子を処理できていないか、それに関する情報が不足していた。そこで、交絡因子についての情報を十分に有するコホートを行い、BMIと食道腺癌、胃噴門部腺癌、および胃非噴門部腺癌との関連を前向きに検討した。
NIH-AARP Diet and Health Study(1995年から1996年にかけて行われた、食事や健康に関連する活動に対するアンケート調査)への登録者から、登録時点での癌患者や、体重、身長、またはBMIが平均値からさらに四分位範囲の3倍を超える者などを除外した480,475例(男性287,960例、女性192,515例)を対象とした。BMIをWHOの定義に従って<18.5kg/m2(1群)、18.5〜<25(2群)、25〜<30(3群)、30〜<35(4群)、≧35(5群)に分類し、このカテゴリーに基づいて種々の解析を行った。イベントの発生は、ICDコードに基づき同定した。追跡期間は試験登録日から2003年12月31日までとし、BMIと癌の関連をカテゴリーモデル(2群のリスク=1)と非線形モデルで評価した。
その結果、BMI分布は1群0.8%、2群34.4%、3群42.8%、4群15.8%、5群6.2%で、食道腺癌の発生リスクは3群以上で有意に上昇していた。年齢、性別、喫煙、アルコール摂取、教育、果物・野菜摂取、および身体活動で補正したハザード比(HR)は5群で2.27(95%CI: 1.44〜3.59)であった。胃噴門部腺癌のリスクも4群以上で有意に高く、5群の補正HRは2.46(95%CI: 1.60〜3.80)であった。胃非噴門部腺癌では、1群のHRが2.97(1.38〜6.39)で有意なリスク上昇がみられた以外は、BMIとの明確な関連は認められなかった。
BMIの連続データによる非線形モデルからは、BMIと食道腺癌(p<0.0001)および胃噴門部腺癌(p<0.0001)との間には有意な正の関連が示され、非噴門部腺癌とは負の関連傾向が認められた(p=0.057)。さらに、BMIが正常範囲であっても、食道腺癌のリスク増大はBMI高値と関連していた。
BMIのカテゴリカル解析ではBMIと食道腺癌のリスクとの関連は胃噴門部腺癌と同様であった一方で、非線形モデルを用いると、BMI低値では両者は異なるリスク曲線を描くことが示された。食道腺癌と胃噴門部腺癌は隣接しているため臨床的な判別が困難であり、そのリスクファクターも同様であると考えられているが、今回の成績からは、癌の病因研究においてはこれらの癌を区別すべきであることが示唆された。
肥満は食道腺癌の発生リスク
肥満が心臓疾患や糖尿病の発症に関連することは周知の事実だが、肥満が癌の発生リスクであることはあまり知られていない。昨年、米国癌研究協会(AICR)と世界癌研究基金(WCRF)は、レポート “Food, Nutrition, Physical Activity, and Prevention of Cancer” の中で、食道癌、膵癌、大腸癌など比較的一般的ないくつかの癌が肥満と関係することを報告した。また、2008年のLancet誌にも、食道腺癌や大腸癌に加え、多発性骨髄腫やメラノーマといった比較的まれな腫瘍の発生にも相関する可能性が、meta-analysisの解析結果として示されている(Lancet 2008; 371(9612): 569-578)。今回の報告はその流れを汲むもので、やはり食道腺癌の発生リスクが肥満によって上昇することを裏付けるものである。同様に、肥満による胃食道逆流症が関与すると考えられる胃噴門部癌が、食道腺癌と少し異なるパターンを示したことは意外な気もするが、肥満と癌の関係が一元的でないことを示唆するものであろう。わが国ではまだ食道腺癌の発生頻度は低いが、肥満とともに増加していく可能性は否定できず、今後は癌の予防を主眼に置いた肥満対策が行われることを期待したい。
監訳・コメント:神奈川県立がんセンター 長 晴彦(消化器外科・医長)