論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

5月

結腸・直腸癌の切除可能肝転移に対する周術期FOLFOX4化学療法と手術単独の比較(EORTC共同グループ試験40983):無作為化試験

Nordlinger B, et al., Lancet 2008; 371(9617): 1007-1016

 結腸・直腸癌の切除可能肝転移に対する標準治療は外科切除単独とされているが、多くの患者が手術と化学療法の併用を受けている。一方で、化学療法のみを受ける患者や、肝転移巣の切除が可能であるにもかかわらず肝臓外科への紹介を受けない患者もいる。したがって、手術単独よりも化学療法を併用するほうが優れるという明確なエビデンスを見いだす必要がある。本試験では、この問題を検討するため、周術期、すなわち手術前後の化学療法と手術単独の比較を行った。
 2000年10月から2004年7月に登録した患者364例(18〜80歳、WHO PS≦2、切除可能肝転移巣を1〜4個有する組織学的診断を受けた結腸・直腸癌、肝外に腫瘍巣なし)を、FOLFOX4を術前・術後各6コース投与する周術期化学療法群(182例)または手術単独群(182例)に無作為に割り付けた。
 主要評価項目はPFSとした。一次解析はintention-to-treat方式で実施し、感度解析を目的として全適格症例(各群171例)および肝転移切除症例(周術期化学療法群151例、手術群単独152例)を対象とした解析も行った。2007年3月までの追跡期間中央値は3.9年であった。
 手術は周術期化学療法群159例(87%)、手術単独群170例(93%)で実施し、そのうち転移巣の切除を受けた患者はそれぞれ151例(83%)、152例(84%)であった。投与コース数は、術前化学療法を受けた151例で中央値6コース(範囲1〜6)、術後化学療法を受けた115例(63%)では中央値6コース(範囲1〜8)であった。術前化学療法の奏効率はCR 3%、PR 40%、SD 38%、PD 7%であった。
 全例の3年PFSは周術期化学療法群35.4%、手術単独群28.1%で有意差はみられなかったが(HR 0.79、p=0.058)、適格症例では36.2% vs 28.1%(HR 0.77、p=0.041)、切除可能症例では42.4% vs 33.2%(HR 0.73、p=0.025)と周術期化学療法群が有意に優れていた。PFS期間中央値は周術期化学療法群18.7ヵ月、手術単独群11.7ヵ月であった。
 可逆的術後合併症発現率は周術期化学療法群のほうが高かったが(25% vs 16%、p=0.04)、通常の肝転移切除で観察される範囲内の値であった。術後の死亡はそれぞれ1例(1%)、2例(1%)であり、多施設試験によるこの種の肝手術としては極めて低かった。
 このように、PFSを指標とした場合、切除可能肝転移例に対する周術期FOLFOX4療法のHRは1/4低下し、肝のmajor surgeryに匹敵するものであった。全例解析では有意差に到達しなかったものの、適格症例または肝転移切除症例を対象とした解析では、有意なベネフィットが得られた。
 本試験の対象は転移巣の数が4以下という予後が良好な患者であったため、今後は高リスクの症例についても周術期化学療法のベネフィットの検討が求められる。

考察

術前化学療法と術後化学療法のどちらが有効であるかを検証する臨床試験が必要である

 切除可能な肝転移4個以下を有する結腸・直腸癌症例に対して術前・術後にFOLFOX4 6コースを行い、手術単独群に比べてPFS率で有意な改善が認められたとする臨床試験である。周術期の化学療法の有用性を確認したすぐれた論文であるが、術前か術後のどちらが有効なのかは不明である。術前化学療法の有用性を明らかにするためには、手術+術後化学療法との比較が必要である。また、対象の肝転移数が1〜4個と幅があるため、転移個数により術前化学療法の効果が異なる可能性がある。術前化学療法による肝障害、治療期間中の増悪の可能性を考慮すると、治療成績の良い4cm以下の単発例については、術後化学療法のみでも良いのではないかと推察され、今後有効症例の選択が課題となるだろう。一方、切除不能と判断された多発肝転移症例に対して化学療法を行い、奏効例に対して切除を行う試みが国内外で盛んに行われている。治癒を目指す唯一の治療が肝切除とされている現状では、切除率を上げるための術前化学療法の意義は大きい。現在国内で、切除不能と判断された大腸癌肝転移症例に対する術前化学療法に関する2〜3の臨床試験が進行中である。

監訳・コメント:岐阜県総合医療センター 國枝 克行(外科・部長)

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