論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

6月

転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療としてのcapecitabine+L-OHPと5-FU/LV+L-OHPの無作為化第III相試験

Cassidy J, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(12): 2006-2012

 Bolusおよび持続静注による5-FU/LVにL-OHPを併用する2週毎のレジメンであるFOLFOX 4は、転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療として広く使用されている。一方、経口fluoropyrimidineであるcapecitabine単独による転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療やステージ III結腸癌の補助化学療法の成績は、5-FU/LVのbolus投与と同等であることが示されている。そこで、この患者集団を対象として、capecitabineの21日間の間欠投与にL-OHPの3週毎投与を併用するXELOXとFOLFOX 4を比較することを目的として、本試験を実施した。
 本試験は当初、XELOX群とFOLFOX 4群の2群の無作為化試験としてデザインされたが、登録期間中にbevacizumabの第III相試験のデータが発表されたことから、各群をさらにbevacizumabまたはプラセボを投与する群に割り付ける2×2要因配置に変更した。
 対象は組織学的に確認された切除不能転移性結腸・直腸癌患者で、18歳以上、ECOG PS≦1、推定余命3ヵ月以上を適格とした。XELOX群は1コース3週間として、L-OHP 130mg/m2をday 1に2時間かけて静注し、capecitabine 1,000mg/m2を1日2回2週間経口投与した。FOLFOX 4群は常法に従った。プロトコール修正後は、bevacizumabまたはプラセボをXELOX群には7.5mg/kgを3週毎、FOLFOX 4群には5mg/kgを2週毎に追加した。
 主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、奏効率、奏効期間、治療成功期間とした。
 Intent-to-treatの患者数は、プロトコール修正前634例、修正後1,400例、合計2,034例であった。追跡期間中央値17.7ヵ月のPFS中央値はXELOX全群(XELOX、XELOX+プラセボ、XELOX+bevacizumab)8.0ヵ月、FOLFOX 4全群(FOLFOX 4、FOLFOX 4+プラセボ、FOLFOX 4+bevacizumab)8.5ヵ月であり(HR 1.04、97.5%CI 0.93〜1.16)、事前に定義した非劣性の範囲内であった。それぞれの奏効率は47% vs 48%で同等であり、追跡期間中央値29.7ヵ月のOSも19.8ヵ月 vs 19.6ヵ月で差はなかった。
 グレード3/4の有害事象の発現率は両群でほぼ同等であったが、グレード4についてはFOLFOX 4群のほうが高かった(25% vs 12%)。個別の有害事象については、FOLFOX 4群のほうがグレード3/4の好中球減少/顆粒球減少(44% vs 7%)、発熱性好中球減少(4.8% vs 0.9%)の発現率が高く、一方XELOX群ではグレード3の下痢(19% vs 11%)と手足症候群(6% vs 1%)が多かった。治療関連死(最終投与から28日以内の死亡)はXELOX群2.1%、FOLFOX 4群1.7%、XELOX+bevacizumab群2.3%、FOLFOX 4+bevacizumab群1.8%であった。
 以上のように、XELOXのFOLFOX 4に対する非劣性が示された。安全性については、一部の有害事象の発現率には両群で差がみられたが、全般的な有害事象のプロファイルは同等であった。FOLFOX 4は14日ごとに5-FUを22時間持続静注するものであり、カテーテル留置と定期的な通院が必要である。XELOXはFOLFOX 4を簡便化した修正レジメンよりも通院回数が少なく、capecitabineは経口投与であることから、転移性結腸・直腸癌の標準的なfirst-line治療と見なすことが可能であると考えられる。

考察

大腸癌化学療法に経済性、簡便性も考慮すべき時代

 切除不能大腸癌治療に頻用されるFOLFOXと経口剤capecitabineを使用したXELOXの比較試験の結果、XELOXの非劣性が示された論文である。
 FOLFOXやFOLFIRIの登場により切除不能大腸癌の治療成績は着実に延長してきた。またbevacizumabなど新たな薬剤を加えることによりさらなる成績向上が期待される。一方で実際の臨床現場では薬剤投与の複雑化や医療費の高額化が無視できない問題となっている。治療成績が改善して化学療法の必要な患者数が増えれば、FOLFOXを続ける限り中心静脈ポート留置、2日間の持続静注などの負担もますます大きくなる。経口剤がこれに変わるものとなれば医療従事者、患者の双方にとって、時間的、経済的な負担軽減になる。この負担は、実際の医療費以外に通院に要する時間や経費、治療時間、就労中断のための減収なども考慮されるべき項目である。
 Capecitabineはわが国で開発された薬剤であるが、昨年ようやく結腸癌補助化学療法の保険適応となった。補助化学療法では比較的少ない消化器症状に対し、手足症候群がしばしばみられる有害事象であり、グレードに応じた減量や中断にやや手間のかかる感がある。今回の報告でも手足症候群の頻度はXELOXが高かったものの、有害事象全体ではグレード4の発生頻度がFOLFOXの半分以下であったことから安全性の面でも評価できる結果と考えられる。
 治療の簡便性から今後は切除不能大腸癌に対してもXELOXのような経口剤を使用した化学療法の必要性が高まってくることが推察される。

監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 山口 茂樹(消化器外科・教授)

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