論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

6月

Fluoropyrimidineの認容性プロファイルの地域差

Haller DG, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(13): 2118-2123

 Capecitabineはfluoropyrimidineの経口プロドラッグであり、転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療で良好な成績を示している。安全性についても優れていることが明らかにされているが、承認用量(1,250mg/m2、1日2回、day 1〜14、3週ごと)での認容性については、欧州と米国の臨床医の間に意見の相違がみられる。すなわち、欧州ではこの用量の認容性は良好とされ、広く用いられている一方、米国ではこれより低用量の1,000mg/m2が投与される傾向にある。
 論文データは少ないものの、fluoropyrimidineの認容性には地域差があると考えられる。本稿では、この問題を解明するため、3つの第III相試験の安全性データを後向きに解析した。
 解析対象とした試験は、SO14796、SO14695、およびNO16968である。前2試験は転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療としてのcapecitabine(596例)vs 5-FU/LV bolus投与の Mayo Clinicレジメン (593例)、 NO16968試験はステージIII結腸癌に対する術後補助化学療法としてのcapecitabine+L-OHP(XELOX 、938例)vs 5-FU/LV bolus投与のMayo Clinicまたは Roswell Parkレジメン(926例)を検討している。この3試験はすべて、米国人患者と非米国人患者の比較を実施しており、NO16968試験ではさらに、米国を東アジアおよびこれら以外の国々(主に欧州)と比較している。安全性パラメータと地域差との関連を明らかにするため、ロジスティック回帰を用いた多変量解析により、これらのデータを解析した。
 転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療の試験(全1,189例)では、米国人患者のほうが非米国人患者よりもグレード3/4の有害事象(RR 1.77、p<0.001)、用量減量(RR 1.72、p<0.001)、治療中止(RR 1.83、p<0.001)が多かった。この差は主に好中球減少関連イベント(RR 1.51、p<0.044)および消化器障害(RR 1.72、p<0.001)によるものであった。
 同様に、結腸癌に対する術後補助化学療法の試験(全1,864例)でも、米国人患者のほうが非米国人患者よりもグレード3/4の有害事象(RR 1.47、p=0.012)、グレード4の有害事象(RR 2.12、p=0.009)、治療中止(RR 2.09、p<0.001)が多かった。
 さらに、非米国人を東アジアとその他の国々に分けて同様の解析を実施したところ、グレード3/4の有害事象、グレード4の有害事象、グレード3/4の消化器障害、グレード3/4の好中球減少関連イベント、および治療中止のRRは東アジアが最も低く、米国が最も高かった。好中球数と用量減量には有意差はみられなかった。
 以上の解析により、fluoropyrimidineの認容性プロフィルには地域差があることが判明した。複数の要因がこの地域差に関与していると考えられるが、その要因の1つとして、食事からの葉酸摂取量とfluoropyrimidineによる毒性との関連を示唆するデータが存在し、動物またはヒトを対象としたいくつかの研究から、葉酸摂取量または血清葉酸レベルが高いとfluoropyrimidineの毒性レベルが上昇することが報告されている。今後は、進行中の臨床試験で、このような地域差の評価を行い、それぞれの地域住民に適したレジメンを確立すべきであり、また後向き試験により地域差が生じる原因を検討すべきである。

考察

Fluoropyrimidine 認容性における地域差の確認

 Capecitabineの有害事象に関して地域差が存在することを示した、大規模比較試験のデータを利用した後ろ向きの研究である。大腸癌術後補助化学療法の適応での日本におけるcapecitabine の投与量は、欧州での臨床試験を受け高用量での承認となっており、日本での承認前には多少この高用量による有害事象を危惧していた。しかし、実際に投与を行ってみると、危惧したほど問題となる有害事象が発生していないと実感しているが、このことが、これらのデータで裏付けがなされた感がある。
 さてその地域差が生ずる要因であるが、食事からの葉酸摂取量が上げられており、このことは重要な要因と考えられる。このような認容性の差は、地域間だけではなく、民族間、人種間、さらには個人の間にも存在するはずであり、この個人差については、CPT-11におけるUGT1A1 のような、遺伝子の差として認識されるはずと考えられるが、遺伝子が関連するかどうか、どの遺伝子が関連するか等は全く判明していない。これらの研究が進歩し、オーダーメード医療へと結びつくことを期待する。

監訳・コメント:新潟県立がんセンター新潟病院 瀧井 康公(外科・部長)

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