論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

8月

ステージIII結腸癌患者の家族歴と癌再発および生命予後との関連

Chan JA, et al., JAMA. 2008; 299(21): 2515-2523

 一親等の親族に結腸・直腸癌の既往歴があると結腸・直腸癌の発症リスクが約2倍に上昇することが、多くの研究から示されている。しかし、すでに結腸癌を発症している患者の再発および生命予後に対する家族歴の影響については見解が一致していない。そこで、本研究ではこの問題を解明するため、米国国立がん研究所(NCI)が主催した術後化学療法の大規模な無作為化試験であるCALGB 89803に参加したステージIIIの結腸癌患者を対象として、前向き解析を行った。
 術後治療中に患者に食生活、ライフスタイル、および家族歴に関する自記式質問票への記入を依頼し、1999年4月から2001年3月に登録した1,264例中1,087例を解析適格症例とした。追跡期間中央値は5.6年で、評価項目は結腸・直腸癌家族歴の有無別にみたDFS、RFS、およびOSとした。
 一親等の親族に結腸・直腸癌の既往歴を有する患者は1,087例中195例(17.9%)であった。再発または死亡は、家族歴がある195例中57例(29%)、家族歴のない892例中343例(38%)に認められた。再発はそれぞれ52例(27%)、316例(35%)に、死亡は43例(22%)、247例(28%)に認められた。家族歴がある患者の補正HRはDFS 0.72(95%CI 0.54〜0.96)、RFS 0.74(95%CI 0.55〜0.99)、OS 0.75(95%CI 0.54〜1.05)であった。
 家族歴がある患者でのリスク低下は結腸・直腸癌の既往歴を有する一親等の親族数が多いほうが顕著であり、DFSを家族歴のない患者と比較すると、既往親族が1人の場合の補正HRは0.77(95%CI 0.57〜1.04)であるが、2人以上では0.49(95%CI 0.23〜1.04、傾向検定p=0.01)であった。再発または癌死亡率は既往親族1人30%、2人以上23%、家族歴なし38%であり、同様の傾向はRFS(傾向検定p=0.03)およびOS(傾向検定p=0.09)でも認められた。
 このような予後の相違は、家族歴を有する患者のほうが癌の早期発見に注意をはらう傾向がある可能性があり、これを検証するため、T3〜4症例のみ、およびN2症例のみを対象とした解析を試みたが、結果に大きな差はなかった。家族歴とDFSとの関連に影響する潜在的な予後因子として性別、年齢、原発巣の位置、術後化学療法レジメンなどの評価を実施したが、いずれも統計学的有意差には到達しなかった。
 さらに、家族歴がある患者のDFS改善は、マイクロサテライト不安定性(MSI)状態およびミスマッチ修復(MMR)蛋白質であるMLH1およびMSH2の免疫組織化学染色の結果とも関連がなかった。
 以上のように、術後化学療法を受けたステージIIIの結腸癌患者では、結腸・直腸癌の家族歴があると、家族歴のない場合と比較して再発および死亡リスクが有意に低かった。このような関係をもたらす機序を十分に解明するために、さらなる研究が必要である。

考察

家族歴が結腸癌の予後因子になりうるのか

 補助化学療法の大規模無作為試験であるCALGB 89803に登録されたステージIIIの結腸癌患者を対象とした前向き解析で、大腸癌の家族歴のある結腸癌患者では、家族歴のない場合と比較して再発・死亡のリスクが有意に減少することが示された論文である。
 本邦でも1978年から1987年の大腸癌研究会の癌登録症例15,369例において、大腸癌の家族歴を有する群が有意に予後がよいことが報告されており、(Jpn J Clin Oncol. 1993; 23: 342-349)本論文内容と一致している。また大腸癌の既往歴を有する親族数が多いほど再発・死亡のリスクが低下するという興味深い結果は、家族歴と予後の関連性を強く疑わせる裏づけとなると思われる。
 さて、誰しもが関心を持つ関連性の機序については本研究では明らかにされていない。年齢、性別、占居部位、転移リンパ節個数、さらにマイクロサテライト不安定性(MSI)やMLH1、MSH2のミスマッチ修復(MMR)遺伝子の変異など遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)との関連強い因子との関与はなかったとしているが、statistical powerによって有意差がでなかったのか、もしくは本研究では検討されていない脈管侵襲の程度といったその他の因子が関連しているなどの可能性が考えられる。Borisらは、18番染色体の欠損と結腸癌補助化学療法後の予後との関連が明らかにされているため、次の機序解明のステップとして、18番染色体の欠損との関連性を検討することを提言している(JAMA. 2008; 299(21):2564-2565)。
 今後、更なる研究を重ね、機序の解明が待たれる。将来、大腸癌の家族歴が大腸癌の予後因子となる日が来るかもしれない。

監訳・コメント:大阪府立急性期・総合医療センター 松田 宙(外科・医長)

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