論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

9月

転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療としてのcapecitabine+L-OHP(XELOX)へのcetuximabの追加:Swiss Group for Clinical Cancer Research SAKKの無作為化第II相試験

Borner M, et al., Ann Oncol. 2008; 19(7): 1288-1292

 最近発表された複数の第III相試験の報告から、転移性結腸・直腸癌に対するXELOX療法の有効性と安全性はFOLFOX 4FOLFOX 6に匹敵することが示されているが、XELOXは5-FU静注の代わりにfluoropyrimidine経口剤を使用するため、より簡便性が高いと考えられる。また、cetuximabはCPT-11抵抗性結腸・直腸癌に対して有効であることが示されている。しかしfirst-line治療としてのXELOXとcetuximabとの併用については、現時点ではまだ報告がない。そこで本試験では、転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line療法として、XELOXにcetuximabを追加した場合の有効性と安全性をXELOX単独と比較した。
 2004年6月から2005年10月の間に、切除不能進行・転移性結腸・直腸癌患者74例をXELOX群(37例、年齢中央値63歳、EGFR陽性97%)またはXELOX+cetuximab群(37例、60歳、94%)に無作為に割り付けた。XELOX群はL-OHP 130mg/m2をday 1に静注、capecitabine 1,000mg/m2をday 1〜14に1日2回経口投与し、3週を1コースとして最大6コース繰り返した。XELOX+cetuximab群は、これに加えてcetuximabを初回用量400mg/m2で静注し、その後は週1回250mg/m2を静注した。主要評価項目は奏効率とし、奏効の評価は画像診断により行った。初回評価を実施した9週時に増悪が認められるか、それまでに治療を中止した患者は評価対象から除外した。
 最良効果は、CRはいずれの群にも認められなかったが、PRがXELOX群14%、XELOX+cetuximab群41%、SDがそれぞれ62%、35%にみられた。したがって、奏効率はそれぞれ14%、41%、疾患制御(CR+PR+SD)率は両群とも76%であった。
 Time to treatment failure中央値はXELOX群5.7ヵ月、XELOX+cetuximab群7.2ヵ月、time to progression中央値はそれぞれ5.8ヵ月、7.2ヵ月、OS中央値は16.5ヵ月、20.5ヵ月であった。生存患者の追跡期間中央値は17.2ヵ月であった。
 毒性については、両群で発現率に顕著な相違が認められたのは皮疹のみであり、XELOX群5%、XELOX+cetuximab群65%であった。皮疹による治療拒否はなかった。
 このように、転移性結腸・直腸癌のfirst-line療法としてXELOXにcetuximabを追加したところ、重篤な毒性が増加することなく、効果が改善した。この併用療法は皮膚の重篤な有害事象が懸念されるが、今回の試験では問題になることはなかった。とはいえ、抗EGFR抗体の臨床使用にあたっては、特有の有害事象である皮疹の管理を厳格に行うべきである。XELOX+cetuximabとFOLFOX+cetuximabのどちらの併用を選ぶべきかについては、最近の試験結果からは、効果というよりも好みの問題であると思われる。また、XELOXあるいはFOLFOXの併用薬剤としてcetuximabとbevacizumabのどちらを選択すべきかについては、両剤を直接比較する第III相試験によって回答が得られると考えられる。

考察

Cetuximabの上乗せ効果は?

 転移を有する結腸・直腸癌に対する1次治療として、XELOXに対するcetuximabの上乗せ効果が確認された臨床試験である。FOLFIRIに対するcetuximabの上乗せ効果はCRYSTAL試験、FOLFOXに対するcetuximabの上乗せ効果はOPUS試験で確認されている。わが国でもcetuximabが今年やっと承認され、近日中にも使用可能となることからbevacizumabと共にその上乗せ効果が期待される。しかし使用可能な薬剤が増えるにつれて、1次治療としてbevacizumab、cetuximabのどちらを先に使用すればよいかなどの問題点が現場で生じるであろう。また著者らも最後に述べているが、cetuximabの上乗せ効果はCRYSTAL試験、OPUS試験でK-RAS mutationの患者にはないことが示されており、この点に関しても今後検証する必要があるであろう。注射薬と比べてより簡便な経口薬であるcapecitabineの適応拡大が望まれる。

監訳・コメント:札幌厚生病院 益子 博幸(外科・部長)

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