転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療としてのL-OHP+fluoropyrimidineレジメン±bevacizumabの安全性と有効性:TREE 試験の結果
Hochster HS, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(21): 3523-3529
進行・転移性結腸・直腸癌に対して、3種類のL-OHP+fluoropyrimidineレジメンを評価するためにThree Regimens of Eloxatin Evaluation(TREE)-1試験が2002年11月に開始され、続いて2003年10月、これらの化学療法にbevacizumabを加えたTREE-2試験が開始された。本稿では、この2つのオープンラベル無作為化試験の成績を報告する。
対象は転移性または再発結腸・直腸癌で、転移または再発病変に対する治療歴のない患者とした。TREE-1試験では150例を50例ずつmFOLFOX 6群、bFOL群、およびCapeOx群に無作為に割り付けた。TREE-2試験では223例をTREE-1試験の治療法にbevacizumabを併用した群に割り付けた(mFOLFOX 6+bevacizumab群75例、bFOL+bevacizumab群74例、CapeOX+bevacizumab群74例)。
各治療群の投与法を示す。mFOLFOX 6:L-OHP 85mg/m2およびLV 350mgを2時間かけて静注、5-FU 400mg/m2 急速静注および5-FU 2,400mg/m2を46時間かけて持続静注(2週ごと)。bFOL:day 1、15にL-OHP 85mg/m2静注、day 1、8、15にLV 20mg/m2を10〜20分かけて静注後に5-FU 500mg/m2を静注(4週ごと)。CapeOx:L-OHP 130mg/m2をday 1に静注、capecitabine 1,000mg/m2をday 1〜15に1日2回経口投与(3週ごと)。BevacizumabはmFOLFOX 6およびbFOLと併用する場合は5mg/kg静注(2週ごと)、CapeOxと併用する場合は7.5mg/kg静注(3週ごと)。TREE-2試験ではcapecitabineの1回用量を850mg/m2に減量した。
主要評価項目は治療開始12週までのグレード3/4の治療関連有害事象発現率(TREE-2試験)、副次評価項目は治療開始12週までの有害事象(TREE-1試験)、治療開始30日以内の全有害事象、奏効率、time to treatment failure(TTF)、time to progression(TTP)、およびOSとした。
治療開始12週までのグレード3/4の有害事象発現率は、TREE-1試験ではmFOLFOX 6群59%、bFOL群36%、CapeOx群67%、TREE-2試験では対応する各群で59%、51%、56%であった。30日以内に発現した有害事象として、TREE-1試験のCapeOx群でグレード3/4の下痢が31%、グレード3/4の脱水が27%にみられたが、TREE-2試験のCapeOx+bevacizumab群ではそれぞれ19%、8%であった。毒性プロファイルの改善は、capecitabineの1日用量がTREE-1試験の2,000mg/m2
からTREE-2試験では1,700mg/m2に減量されたことによると考えられる。Bevacizumabを追加しても、毒性に大きな影響を及ぼすことはなかった。
奏効率はTREE-1試験でそれぞれ41%、20%、27%、TREE-2試験で52%、39%、46%であったが、両試験ともに治療群間に有意差はみられなかった。TTF中央値はTREE-1試験ではmFOLFOX 6群が最も長かったが有意差はみられず(それぞれ6.5、4.9、4.4ヵ月)、TREE-2試験では各群でほぼ同等であった(5.8、5.5、5.5ヵ月)。TTP中央値はTREE-1試験でそれぞれ8.7、6.9、5.9ヵ月、TREE-2試験で9.9、8.3、10.3ヵ月、OS中央値はTREE-1試験の全群で18.2ヵ月(各群でそれぞれ19.2、17.9、17.2ヵ月)、TREE-2試験で23.7ヵ月(26.1、20.4、24.6ヵ月)であった。
以上のように、転移性結腸・直腸癌に対してL-OHP+fluoropyrimidineレジメンにbevacizumabを追加するfirst-line治療は忍容性が良好であり、全体的な毒性プロファイルを大きく変えることはなかった。さらにCapeOxにbevacizumabを追加し、capecitabineを減量するレジメンにより、忍容性と有効性が改善した。TREE-2試験の全群のOS中央値は約2年であったが、これは転移性結腸・直腸癌の前向き無作為化試験の報告としては最長のものである。
L-OHP+fluoropyrimidineにbevacizumabを上乗せしたレジメンは標準治療の一つとして推奨される
転移性結腸・直腸癌に対する化学療法は分子標的治療薬の登場により著しく進歩してきた。本試験はL-OHPにfluoropyrimidineの3つの異なった投与法(持続静注、急速静注および経口投与)のレジメンにさらにbevacizumabを併用して、これらを比較検討したものである。この結果、bevacizumabを上乗せしても安全性には問題なく、生存期間の延長効果も認められた。これまでも複数の大腸癌に対する代表的なレジメンを対照とした比較試験において、bevacizumab併用群の延命効果が示されており、今回のTREE試験はこの結果を裏付けているものと思われる。わが国でも2007年6月からbevacizumabが使用可能となり、切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法のfirst-lineは、海外と同様にbevacizumabを併用したレジメンに移行していくものと考えられる。
監訳・コメント:日本海総合病院 鈴木 晃(外科・部長)