論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

10月

切除不能直腸癌に対する術前放射線療法と術前化学放射線療法の無作為化第III相試験

Brændengen M, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(22): 3687-3694

 直腸癌に対する術後放射線療法に5-FUを追加すると、術後放射線療法単独と比較して局所制御および生存が改善する。一方、術前化学療法の効果は十分に証明されておらず、限られたエビデンスからは、切除不能直腸癌に対する標準治療は現時点では術前放射線療法と考えられる。そこで本試験では、切除不能直腸癌に対する化学放射線療法の効果を放射線療法単独と比較した。
 1996年3月から2003年11月に、切除不能原発性直腸癌のほか、放射線療法歴がない大手術後の局所再発直腸癌の合計207例を本試験の対象として、化学放射線療法(CRT)群に98例、放射線療法単独(RT)群に109例を無作為に割り付けた。その他の適格基準は75歳以下、WHO PS 0〜2、遠隔転移がないことなどとした。
 両群とも放射線療法として2.0Gy/日を毎週5日間、合計50Gy照射し、最終照射から5〜8週後に手術を行った。CRT群は同時併用化学療法として、5-FU 400mg/m2 bolus投与+LV 100mg投与を2週ごとに2日連続で実施し、術後4〜6週後からは5-FUを500mg/m2とした術後化学療法を8コース継続した。主要評価項目は5年生存率、副次評価項目は再発率、局所制御率、毒性、およびQOLとした。
 両群ともほぼ全例が予定した放射線療法を受け、平均照射線量はCRT群49.6Gy、RT群49.2Gyであった。R0切除率はCRT群84%、RT群68%(p=0.009)、R0+R1切除率はそれぞれ87%、74%(p=0.03)であった。R0+R1切除患者の局所再発率はそれぞれ5%、7%、遠隔転移発生率は26%、39%(p=0.04)、5年局所制御率は82%、67%(p=0.03)であった。病理学的CRはCRT群16%、RT群7%に認められ、CRT群が有意に優れていた(p=0.04)。生存例の追跡期間中央値は61ヵ月で、5年time to treatment failure(CRT群63% vs RT群44%、p=0.003)および5年cancer-specific survival(72% vs 55%、p=0.02)はCRT群のほうが有意に高かったが、5年OS(66% vs 53%)はCRT群が良好であったものの有意差はみられなかった(p=0.09)。
 グレード3/4の急性毒性の発現はCRT群のほうが多く(28% vs 6%、p=0.001)、特に下痢に顕著な差がみられた。毒性による死亡例はなかった。晩期毒性の発現は両群で差がなかった(41% vs 37%)。
 以上のように、切除不能直腸癌に対する化学放射線療法は放射線療法単独と比較して切除率、局所制御率、time to treatment failure、cancer-specific survivalを改善した。CRT群ではグレード3/4の急性毒性が多くみられたが、治療の忍容性は概ね良好であった。今回の試験で、術前放射線療法を長期間実施する場合に5-FUを追加すると、毒性の大幅な増加なしに局所制御が有意に改善したことから、これを基準治療とすべきであるという結論が導き出されるが、依然として最適な治療法は何かという問題は残る。現在、放射線療法と同時併用する薬剤としてcapecitabine、L-OHP、CPT-11や分子標的治療薬などの検討が行われているが、これらと5-FUとの比較を第III相試験で実施する必要がある。

考察

切除不能直腸癌に対する術前放射線単独療法と術前化学放射線療法の効果比較

 切除不能直腸癌に対する術前化学放射線療法と術前放射線単独療法を比較した結果、術前化学放射線療法の方が放射線単独療法よりも、切除率、局所制御率、time to treatment failure、cancer-specific survivalが改善を示したとする無作為第III相試験である。
 欧米の直腸癌に対する標準治療は、TME (total mesorectal excision)あるいはTSME (tumor-specific mesorectal excision)+放射線療法であり、これまでに放射線併用療法の効果に関する様々な無作為第III相試験の結果が報告されてきた。手術単独療法に対して術前放射線療法を行うと、局所再発率が低下するとするもの、術前照射と術後照射を比較すると術前照射の方が有用であるとするもの、放射線単独療法よりも抗癌剤を併用した化学放射線療法の方が有用であるとするもの、などが報告されてきた。しかし、これらの試験は基本的に切除可能な直腸癌を対象とした試験であった。本論文では、切除不能直腸癌に対する術前放射線単独療法と術前化学放射線療法の効果を比較した結果、切除可能症例の場合と同様に化学放射線療法の方が有用性が高い点が示されている。
 本邦では直腸癌、特に下部直腸癌に対する標準治療は、TMEあるいはTSME+側方郭清である。しかし、近年は本邦でも高度進行直腸癌に対しては、側方郭清のみでは十分な局所制御が得られない可能性が指摘され、補助療法として放射線療法の必要性も考慮されている。こういった点から、本試験の結果は本邦においても重要な意義があると考えられる。
 一方、本論文の問題点としては、切除不能直腸癌として切除不能原発性直腸癌と再発直腸癌を対象としているが、切除不能原発性直腸癌の定義が必ずしも明確ではない点がある。実際にCRT群およびRT群にclinical stageでT3症例が、それぞれ13例および11例含まれている。また、再発癌を原発癌と一緒に解析しているが、この点も両者を同等に扱って良いか注意を要する。術後成績に関しては、術後補助化学療法がCRT群で47例に開始されたのに対して、RT群では5例にのみ開始されており、この差が術後成績にどのように影響したか、不明な点である。
 今後の課題に関しては、著者らが指摘しているように、分子標的薬などを含めた新たなregimenによる化学放射線療法の効果を検討する必要があろう。

監訳・コメント:帝京大学医学部 渡邉 聡明(大腸肛門外科・教授)
癌研有明病院 武藤 徹一郎(メディカルディレクター・名誉院長)

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