論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

11月

結腸癌におけるリンパ節転移状況の評価は各病院で適切に行われているか?:全米病院調査の結果から

Bilimoria KY, et al., JNCI. 2008; 100(18): 1310-1317

 結腸癌のリンパ節転移は術後化学療法の適用を判断するための重要な因子であり、評価するリンパ節数が多いほど生命予後の改善が得られることが、多くの試験で示されている。予後が改善する理由の1つとして、評価リンパ節の増加に伴い正確な病期判定がなされ、術後化学療法の実施例が増加することが考えられる。しかし、より完全なリンパ節郭清に直接的な治療効果があるかどうかについてはいまだ統一見解が得られていない。
 最少でいくつのリンパ節を評価すべきかについても多くの研究があり、6個から40個という様々な見解が示されているが、結腸癌の場合は所属リンパ節12個とするのが合理的とのコンセンサスが得られている。米国でも種々の学会が12個以上の評価が必要であることに同意しているが、全米の病院でのコンプライアンスがどの程度であるかは知られていない。そこで、12個以上のリンパ節評価がなされているかどうかのコンプライアンス調査を実施した。
 National Cancer Data Baseから、1996〜97年および2004〜05年に156,789例の結腸切除術を実施した1,296病院を特定し、各病院でのリンパ節評価のコンプライアンスを両期で比較した。12個以上のリンパ節評価を行った、患者が75%以上の病院をリンパ節評価に対しコンプライアンスのある病院と定義した。さらに、95%信頼区間(CI)の上側信頼限界が75%以上であった場合は、その病院には「統計学的コンプライアンス」が認められるとした。病院はタイプと規模で分類し、タイプ別では米国国立がん研究所包括的がんセンター(NCI-CCC)系列32施設、それ以外の研究病院(academic hospital)231施設、退役軍人病院49施設、地域病院984施設であった。規模別では最大規模(1年間の結腸切除症例数>42例)、大規模(28〜42例)、中規模(17〜27例)、小規模(<17例)に分類し、いずれも324施設ずつであった。
 1病院当たりの評価リンパ節数中央値は、1996〜97年の10個から2004〜05年には12個に有意に増加した(p<0.001)。また12個以上のリンパ節評価実施率は、1996〜97年の39.8%から2004〜05年には53.8%に増加した(p<0.001)。これらの増加はいずれも、病院のタイプと規模とは関係なく認められた。
 リンパ節評価に対しコンプライアンスがあるとみなされた病院数は、1996〜97年51施設(3.9%)、2004〜05年222施設(9.5%)、統計学的コンプライアンスが認められた病院数は、1996〜97年195施設(15.0%)、2004〜05年504施設(38.9%)であった。1期目から2期目にかけて12個以上のリンパ節評価実施病院数は980施設で増加、310施設で減少し、6施設は不変であった。
 1期目から2期目への統計学的コンプライアンスの改善率の絶対値を病院のタイプ別にみると、NCI-CCC系列62.5%、その他の研究病院35.5%、退役軍人病院30.7%、地域病院19.5%、規模別では最大規模21.0%、大規模17.0%、中規模23.4%、小規模15.6%であった。
 統計学的コンプライアンスに影響を及ぼす因子について、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価したところ、病院のタイプが最も強く関連していた。地域病院と比較した場合の相対リスクはNCI-CCC系列2.22、その他の研究病院1.53、退役軍人病院1.90であった(相対リスク>1.0はコンプライアンス率が高いことを示す)。
 今回の研究から、12個以上のリンパ節評価の統計学的コンプライアンスが認められない病院は、2004〜05年の調査期間でも60%以上にのぼることが明らかになった。12個以上のリンパ節評価は結腸癌患者のケアを向上させるものであり、すべてのタイプの病院で実施率の大幅な改善が求められる。

考察

結腸癌のリンパ節転移評価には施設間で大きな格差がある

 大腸癌の予後因子として、以前よりリンパ節転移の有無や転移個数があげられていたが、近年、リンパ節の検索個数自体が重要視されるようになってきた。本邦の大腸癌取扱い規約は、時代と共に改訂されており、2006年に改訂出版された第7版では、転移個数と転移部位との両方を融合させたリンパ節分類を取り入れ、TNM分類との整合性も考慮した分類となった。さらに、TNM分類に準じ、規約第7版には、郭清リンパ節数(総検索個数)は12個以上あることが望ましいと記載されている。このように、検索リンパ節個数が大腸癌の予後に影響を与えることは、全世界でコンセンサスが得られるようになったものの、各施設でリンパ節転移評価が適切に行われているのかどうかについては明らかにされていない。
 本論文は、結腸癌においてリンパ節転移評価が各施設で適切に行われているかどうか、検索リンパ節個数の観点から、米国の1,296施設について、15万症例を超える登録データを用いて解析したものである。その結果、近年でも60%以上の施設では適切なリンパ節転移評価が行われておらず、しかも、病院のタイプにより、適切な評価の実施率が著しく異なることが判明した。
 すべてのタイプの病院で、リンパ節の評価が適切に施行されるように、教育・啓蒙を行うことが、結腸癌の予後の向上に役立つと期待される。

監訳・コメント:熊本大学大学院医学薬学研究部 林 尚子(消化器外科学・助教)

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