急性膵炎に対する診断と治療戦略
はじめに / 大腸ポリープの分類とEMRの考え方 / 摘除生検の必要性 / 摘除適応の判断 / おわりに
はじめに
   有茎性の大腸ポリープに対する内視鏡的摘除術(スネアポリペクトミー)が開始されたのはおよそ35年前である。その後、スコープや焼灼器具に改善が加えられ、小さなポリープに対するホットバイオプシー、早期癌を含めた大腸ポリープに対するストリップバイオプシー、内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)へと発展してきた。最近では、ITナイフを応用したEMRも行われ、より大きな病変(LST:lateral spreading tumor:側方発育型腫瘍など、図1)や、いわゆる平坦・陥凹型(Ua、Uc)病変にも積極的にEMR が行われている。 そこで、sm 癌はどこまで局所治療(EMR)が可能なのかという質的適応も含めて、どこまで安全かつ確実にEMRが可能なのかという問題について述べてみたい。
図1 横行結腸Ua病変 EMR:W/D adenocarcinoma(mCa)
茂木健太博士提供
 
@横行結腸LST
A生食注入
BEMR
C切除後
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大腸ポリープの分類とEMRの考え方
  1.大腸ポリープの組織型
 最近では、大腸ポリープに対する内視鏡的摘除の適応が絞られ、非腫瘍性のポリープは摘除されないうえ、腫瘍性であっても癌や癌化のリスクの高いもの以外は摘除されなくなってきている。以前は、「大腸腺腫が大腸癌の前癌病変であるとの認識 (adenoma - carcinoma sequence)」1)で、全ての大腸ポリープを内視鏡的に摘除した時代があった。図2はその時代の成績である。
 内視鏡的に摘除されたポリープの約80%が腫瘍性であり、その内の20%ほどに癌あるいは前癌病変が認められる2)。この傾向は文献的にもほぼ同様であり、およそ10%前後に早期癌が含まれている。 sm癌の頻度は報告者により異なるが、およそ5%前後である(0.2 - 8.3%)。腺腫は腺管腺腫、腺管絨毛腺腫、絨毛腺腫に細分され、その異型度は軽度、中等度、高度に分類される。非腫瘍性ポリープは全体の18.2%を占め、その内訳は化生性、炎症性、若年性、Peutz-Jeghers型ポリープ、その他(平滑筋腫、カルチノイド、脂肪腫、過形成性結節など)となっている。カルチノイドなど特殊なものを除くと、非腫瘍性ポリープの癌化のリスクは無い。したがって、これらを除いた腺腫の癌化率は全体で11.6%となり、m癌は9.2%、sm癌は2.4%となる。このm癌の9.2%が欧米の腺腫に占める前癌病変の頻度であり、一方、我が国の高度異型腺腫を前癌病変とすると、腫瘍性ポリープの12.6%を占めることになる(図2)。
 また、内視鏡的摘除の適応を「中等度異型以上の腺腫・早期癌」とすれば、およそ24.2%となる。また、50歳以上の剖検例を詳細に検討すると、ほぼ全ての例で大腸腺腫が認められたとする報告もある。
図2 内視鏡的摘除ポリープの組織型別頻度(n=1669)(東大1外)
 
  2.大腸ポリープの部位と内視鏡的形態
 大腸ポリープ、腺腫(n=1335)、早期癌(n=157) の部位別頻度を見てみると、腺腫であっても癌であっても、最も頻度が高いのがS状結腸(37.5%、45.9%)であり、次いで直腸(24.0%、33.1%)である。また、腺腫と癌の年齢別頻度を見ると、腺腫が癌よりも10歳前後若年にシフトしていると報告されている3)
 大腸ポリープは有茎性、亜有茎性、無茎性、表面型に分類される。また有茎性を長茎、短茎に分け、更に広基、無茎、平坦、平坦陥凹、表面型に分ける分類もある。大腸早期癌においてはTp型、Tsp型、Ts型、U型に分け、U型は更にUa、Ub、Uc型に細分される。内視鏡的に摘除された腺腫、早期癌を形態別に見ると、腺腫894例では無茎性(31.1%)、広基性(23.5%)、短茎性ポリープ(23.3%)が多く、早期癌104例ではTs 型(37.5%)が最も多く、次いでTsp(32.7%)、Tp(26.9%)の順であった(図3)。
 大きさ別に早期癌の形態をみてみると、実数として最も多いのは10〜20mm(50.9%)の広基性、短茎性であり、無茎性は意外と少ない。しかも、長茎性にsm癌はなく、sm癌の過半数が広基性であることも特徴と言える。
図3 大腸腺腫・早期癌のシェーマと肉眼形態別頻度(%)
 
シェーマ
腺腫
894例
長茎
long stalk
短茎
short stalk
広基
broad based
無茎
sessile
平坦flat
表面隆起
superficial
elevated
平坦陥凹
flat with
depression
表面隆起陥凹
表面陥凹
superficial
depressed
表面平坦
superficial flat
頻度(%) 15.2 23.3 23.5 31.1 0 6.6 0 0
早期癌
104例
T型(隆起型protruded type) U型(表面型superficial type)
IP Isp Is Ua Ua+Uc Uc Ub
頻度(%) 26.9 32.7 37.5 1.9 1.0 0 0

また、工藤らの報告4)によれば、隆起型全体のsm癌化率は1.5%であり、大きさでは10mm以下にsm癌はほとんど無く(0〜1.3%)、大きくなるにつれて頻度が高くなっている。一方、陥凹型では全体のsm癌化率が16.1%と際立って高く、6〜10mmの小さな病変でもsm癌化率が高い(25.8%)ことが分かる(表1)。英国においても陥凹型病変の報告があり、小さくてもsm癌化率の高い病変として注目されている4)
表1 大きさ・形態別sm癌率4) 1985-1995.8
 
Size(mm) <5 6-10 11-15 16-20 21<
隆起型 標本数 5121 1959 425 123 67 7695
sm癌 標本数 0 26 46 24 23 119
0 1.3 10.8 19.5 34.3 1.5
陥凹型 標本数 262 66 24 10 14 378
sm癌 標本数 13 17 17 8 6 61
5.0 25.8 70.8 80.0 42.9 16.1
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摘除生検の必要性
   隆起型病変では、ポリープ表面に癌がある場合を除くと、表面形状(腺孔形態;ピットパターン)により診断することは不可能である。一方、表面型や陥凹型病変では色素拡大内視鏡検査によるピットパターン診断によって、癌であるかどうかと、その深達度(m癌またはsm癌であるのか)までを診断することが可能である。詳細は省略するが、Vsピットは粘膜内癌(m癌)である可能性を示し、XIピットは粘膜内癌(m癌)、XNピットはsm癌である可能性が高いとされている5)
 隆起型腺腫の10%内外に腺腫内癌(m癌)、あるいは早期癌(m癌、sm癌)が認められるが、どの部分に前癌病変や癌巣があるのか、更にはその癌の深達度がmまたはsmであるのかを含めて、内視鏡所見または鉗子生検により正確に診断することは困難である。このため、現段階では全ての腺腫を摘除生検の目的で内視鏡的に摘除し(摘除生検としてのEMR)、組織学的に癌化の有無、組織型、深達度、脈管侵襲の有無、腺腫成分の有無などを検索する方法がとられている。これにより良性腺腫、前癌病変あるいは腺腫内癌(m癌)であれば、治療(局所切除)としての内視鏡的摘除術が完了することになる。
 何らかの方法で確実に腺腫の癌化を否定することが出来れば、その良性腺腫の摘除自体が不要となる。この意味で軽度異型腺腫(62.0%)は内視鏡的に確実な診断法が確立されれば、摘除の適応が無くなる可能性がある(図2)。
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摘除適応の判断
  1. 大きさによる摘除の適応
 現時点では5mm以下のポリープには摘除の適応が無いと考えられている。その理由は5mm以下の隆起型病変が早期癌(m癌、sm癌)である可能性が極めて低いからである(m癌1%以下、sm癌0.1%以下)。
 隆起型腺腫の癌化を左右する因子としては@大きな 腺腫ほど癌化率が高いとされている。実際に大きさ別に腺腫の異型度を見てみると、大きなものほど異型度が高く、癌化率も高いことが分かる。(1cm以下:5.6%、1〜2cm:28.7%、2cm以上:65.7%)大きさ以外の因子としてはA組織型(絨毛腺腫>腺管絨毛腺腫>腺管腺腫)、B形態(無茎>有茎)、C異型度(高度異型>中等度異型>軽度異型)、D性別(女>男)がある2)
 文献からも明らかなように、5mm以下の腺腫ではsm癌の合併はわずか12個(0.1%)に過ぎない。また、m癌は1.0%、前癌病変であるわが国の高度異型腺腫でも6.4%に過ぎない。前癌病変までを摘除の対象としても5mm以下の腺腫ではわずか7.5%のみとなり、残りの92.5%は不必要な摘除ということになる6)
 一方、6mm以上10mm以下となるとsm癌は1.6%に、m癌は約10%、高度異型腺腫(severe atypia)は約20%に認められる。すなわち、6mm以上の腺腫の約30%以上が摘除の対象となることとなり、6mm以上の腺腫は積極的な内視鏡的摘除の対象であると言える。この傾向は他の報告でも同様である(表2)。
表2 ポリープの大きさと早期癌の頻度
 
長径
(mm)
早期癌の頻度(%)
内視鏡学会
関東地方会
集検
アンケート
澤田
村上
  〜5 1.0 1.2 5.6 0.3
 6〜10 8.8 11.6 6.0
11〜20     28.7 25.8
   また、腺腫を大きさ別に累積5年大腸癌化率で検討した報告では、5mm未満0.4%、5〜9mmで1.7%であり、10mm以上の癌化率が12.9%で高いと報告され、5mm未満の大腸ポリープ例では大腸癌累積5年罹患率が低いので摘除自体の適応が無いと結論している7)
 平坦・陥凹型病変における単一管状腺管の水平発育の場合は、病変そのものの表面性状を観察することが可能なので、工藤らの言うピットパターン(Vs、X型)から診断出来る4)。鉗子生検で腺腫と診断されたポリープが、何年かの経過で早期癌や進行癌になったとしても、最初の時点で腺腫内癌であったことを否定することは出来ない。また、腺腫がどの時点で癌化したかを特定することも現段階では不可能である。そこで、摘除されたポリープの癌化の頻度を検索し、どのような形態の病変に癌化率が高いかを検討することになる。また、前癌病変を含む腺腫については、その発育速度の検討から摘除すべき時期や大きさが決められている。

2. とらなくてよいポリープ、とるべきポリープ
 臨床的には、内視鏡的に治療出来る早期癌の段階で診断・治療することが大切であり、癌化のリスクの無い腺腫を全て摘除する必要は無い。最近の検討では、5mm以下の隆起型・表面隆起型ポリープは摘除する必要が無いとする意見が大勢である。その理由として、5mm以下のポリープにsm癌がほとんど無いこと(0.1%)、また、表面平坦・陥凹型病変も極めて稀であることが指摘されている。仮に5mm以下に中等度異型腺腫やm癌(1.0%)があったにしても、その発育速度(倍加速度)を考慮すると、3〜4年後の内視鏡検査で6mm以上になった時点で摘除すれば十分であるとされる。表面性状やピットパターンから腺腫内癌やm癌が確実に診断出来るようになれば、5mm以下のポリープでも選択的摘除が可能となる。しかし、その頻度と発育速度、検査精度や労力等を考慮すると、現時点では極めて効率の悪い検査手技と言わざるを得ない。
 したがって、現段階で大きさと形態から判断するとすれば、5mm以下の隆起型ポリープは放置してよく、6mm〜10mmでも長茎性のポリープは放置してよいと考えられる。また、6mm〜10mmでも平坦・平坦陥凹型病変は積極的に摘除する必要があると言える。更に、11mm以上のポリープは可能であれば全てを内視鏡的に摘除するのが妥当であると考えられる7)
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おわりに
   早期大腸癌に対するEMRの進歩について述べてきた。技術的には3cm近い大きな病変でも安全・確実に内視鏡的に切除(EMR)出来る時代になり、適応もリンパ節転移の無いsm癌(sm浸潤距離1mm以下)にまで拡がってきている。
 今後の課題の一つは、早期発見と積極的な内視鏡治療(EMR)の展開であり、もう一つは、リンパ節転移リスクのある早期癌を正確に鑑別して内視鏡手術(LAC:Laparoscopy-assisted colectomy)等の低侵襲手術によって根治性を確保することである。
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参考文献
 
1) 武藤徹一郎:大腸ポリープ・ポリポーシス―臨床と病理、医学書院、東京, 1993
2) Vogelstein, B., et al:Genetic alterations during colorectal tumor development.
N.Engl. J. Med. 319:525-532, 1988
3) Aaltonen, L., A. et al:Clues to the pathogenesis of familial colorectal cancer.
Science 280:812-816, 1993
4) 工藤進英:陥凹型早期大腸癌―診断と治療の新しい展開.日本メディカルセンター、東京, 1996
5) 山形誠一、他:分子学的立場からみた表面型起源の大腸癌.胃と腸 30:173-177, 1995
6) 澤田俊夫、他:ポリペクトミー・ホットバイオプシー. 胃と腸、29(3):99-106,1994
7) 澤田俊夫、他:大腸ポリープ−切除基準と癌との鑑別−.日本医事新報社、東京, 1996
  2004年11月発行
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