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大腸がん化学療法 医師指示書(クリティカルパス)の1例 / はじめに
/ 5-FU投与法−持続静注か急速静注か− / 5-FU 急速静注/LV療法 / 5-FU
持続静注/LV療法 / Simplified de Gramontレジメン(sLVFU2)12)の検討
/ 外来での大腸がん化学療法 / おわりに |
大腸がん化学療法 医師指示書(クリティカルパス)の1例 |
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はじめに |
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本邦では進行再発大腸がんに対する標準的化学療法はweekly l-LV/5-FU(急速静注)である。経口剤ではLV/UFT、TS-1などが使用されている。しかし、欧米では投与法が変化し、LV/5-FU(持続+急速静注)を基本レジメンとしたL-OHP、CPT-11併用療法が標準治療法になっている。また、経口剤ではcapecitabinの有用性が報告されるようになっている。2005年2月には本邦でレボホリナート・フルオロウラシル持続静注併用療法が承認となったことをはじめ、今後は本邦でも、欧米で有用とされる薬剤の保険適応承認が予想され、臨床試験による投与法の確立が進むと思われる。大腸がんに対する全身化学療法としては、5-FUが中心的薬剤として使用されることに変わりはないものの、現時点で問題なのはその投与法の変化にあると思われる。その点を中心に大腸がんの化学療法の実際と展望を述べる。 |
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5-FU投与法−持続静注か急速静注か− |
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5-FUの投与は1958年Heidelbergerらによって抗腫瘍効果があることが実証されて以来、米国において主に急速静注(bolus)投与で用いられてきた。
しかし、Lokich1)らの報告以来、time dependentな薬剤である5-FUでは、長期投与が可能な低用量持続静注が最適投与法と言われるようになった。彼らは、500mg/m2急速静注5日間投与と低用量300mg/m2
24時間持続静注を比較し、奏効率では持続静注群が30%と有意に高いことを報告した。最近ではMeta-analysis Group in Cancerが5-FUの投与方法についてのメタアナリシス解析を行ったところ、奏効率で急速静注群は14%、持続静注群(300-750mg/m2)は22%であった。オッズ比は0.55(95%信頼区間:0.41-0.75)となり、有意に持続静注群が優れていることが示された。更に、生存期間についても急速静注群で11.3ヵ月、持続静注群で12.1ヵ月であり、有意に持続静注群が優れていることが示された。毒性の検討では、grade
3以上の骨髄抑制の発現頻度は急速静注群の31%に対して持続静注群は4%で、手足症候群(hand foot syndrome)の発現頻度は急速静注群の13%に対して持続静注群は32%であり有意な差が認められた2)。この結果から、5-FUは持続静注が効果・安全性の面から有用であることが示唆される。
長期低用量(300mg/m2×28日)持続静注と短期高用量(2,600mg/m2/24時間)持続静注の毒性を比較すると、低用量持続静注では口内炎の頻度が高く、高用量では下痢、骨髄抑制の頻度が高い傾向が見られる3)。本邦での高用量持続静注の報告は少ないが、小池ら4)が、5-FU
30mg/kg/24時間の48時間持続静注法(血中濃度が1μg/mlにはならない)を検討し、高用量でも副作用が少なく、延命効果があるとして推奨している。 |
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5-FU 急速静注/LV療法 |
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1980年代に入りBiochemical Modulation(BCM)が主流となり、欧米を中心として大腸がんに対するLV/5-FU療法の臨床研究が始められた。代表的な2つの投与法がある。PetrelliらによるRPMI(Roswell
Park Memorial Institute)レジメン5)は高用量LV(LV 500mg/m2)と5-FU (5-FU
600mg/m2)を週1回、6週間繰り返し、2週間休薬する。もう1つの5日間連続投与法ではLVと5-FUをiv bolusで5日間連続投与し、それを4週毎に繰り返す方法であり、高用量LVのMachoverレジメン6)(LV
200mg/m2、 5-FU 370mg/m2)と低用量LVのO’ConnellらによるMayoレジメン7)
(LV 20mg/m2、5-FU 370mg/m2)がある。本邦の承認用法用量はRPMIレジメンに由来しており、
前期第II相試験において有効率が32.4%と高く、外来投与も可能なことから採用されている。 |
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5-FU 持続静注/LV療法 |
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フランスのde Gramontらはdose intensityを向上する目的で、5-FU急速静注と持続静注を加えたde Gramontレジメン(LV5FU2)(図1)を提唱した。 |
図1 de Gramontレジメン |
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LV 200mg/m2を2時間で点滴後、5-FU 400mg/m2を急速静注、引き続き5-FU 600mg/m2を22時間で持続静注し、これを2日間連続するものである(2週毎)。1988年の報告では、奏効率は54.1%、生存期間中央値(MST)18ヵ月と従来の高用量LV/5-FU急速静注療法より良好な結果が示された8)。その後、de Gramontらによりde GramontレジメンとMayoレジメンとの比較試験が行われ、生存期間に差はないが、奏効率、無増悪生存期間、grade 3以上の副作用発現率においてde Gramontレジメンの有意に良好な成績が認められた9)。もう1つの代表的なものは、ドイツのKöhneらの報告したAIOレジメン10)(図2)である。 |
図2 AIOレジメン |
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LV 500mg/m2を2時間で点滴後、5-FU 2,600mg/m2を24時間で持続静注するものである(1週間毎)。
どちらが有用であるか示されているわけではないが、現在欧米で標準治療とされるFOLFOX411)はde Gramontレジメンを基本レジメンとしてL-OHP 85mg/m2 2時間点滴静注を5-FU投与前に追加投与するものである。 |
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Simplified de Gramontレジメン(sLVFU2)12)の検討 |
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その後、de Gramontらは48時間の5-FU持続静注を用いたbi-monthlyレジメンの有用性を報告した(図3)。 |
図3 Simplified de Gramontレジメン(sLVFU2療法) |
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このレジメンでは5-FUの投与量が多く、本邦での毒性と安全性を検討するため、我々は臨床試験を行った。投与方法はdl-LV
400mg/m2を2時間で点滴静注後、5-FU 400mg/m2を急速静注、その後48時間で5-FUを持続静注するSimplified
de Gramontレジメンであり、2週間毎に繰り返した。2004年4月以降の進行再発大腸がんを対象とし、5-FU持続静注投与量を増量する形で、臨床第I相試験として行った。投与量はレベル1を1,600mg/m2、レベル2を2,000mg/m2、レベル3を2,400mg/m2と規定した。また、個々の副作用の発現と抗腫瘍効果を検討するため、持続静注時間帯における血中DHU(dihydrouracil)/Uracil比、5-FU濃度を第1、2日目に測定した。
2004年11月までにレベル1の3例、レベル2の6例、レベル3の3例と計12例が登録され試験は終了した。症例の転移再発部位は肝7例、肺1例、リンパ節3例、仙骨1例であった。2クール目までの毒性で用量設定を行った。血液毒性は認められず、DLTにあたる副作用はレベル2の1例にみられたgrade
3の下痢のみで推奨用量は2,400mg/m2とした。これは海外の併用療法における投与量と同じである。
投与回数は12クールの投与を目標とすることにし、継続性も評価した。3クール目以降の毒性で、血液毒性としては1例にgrade 3の白血球減少(grade 2の好中球減少)がみられたのみで軽微であった。また、非血液毒性では治療期間中、2,000mg/m2以上の症例で、ほぼ全例にgrade 2までの悪心、食欲不振がみられたが、治療期間を過ぎた在宅時では改善していた。レベル2、レベル3の症例では口内炎が2例(レベル3の1例がgrade 2)、手足皮膚症状が4例、脱毛が3例にみられたが軽微であった。12例中7例が12クールの投与が可能であった。毒性により中止した例は無く、レベル3の2例は7クールを経過し、投与中である。
今回の症例では、DHU/Uracil比から推定されるDPD活性は比較的高いと考えられ、投与の長期続行に問題は無かった。5-FU濃度が高値に保たれるSimplified
de Gramontレジメンは今後本邦でも併用療法に用いられることが予想される。最近、欧米において大腸がんに対して有効であると報告されているL-OHP(FOLFOX613))やCPT-11(FOLFIRI14))との併用療法の基本レジメンとして、この投与法が採用されている。 |
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外来での大腸がん化学療法 |
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最近は、消化器がんの化学療法も外来化学療法室で行われることが多くなっている。大事なことは投与手順、開始減量規定など、安全に決められたプロトコールによって行うこと、また、在宅期間中の有害事象を把握することと思われる。RPMI法は外来での投与に適しており、今後も治療の1つとして選択できる投与法と思われる。我々の施設における実際のSimplified
de Gramontレジメン投与法を示す(一番最初の表)。
末梢からの点滴でも可能であるが、程度の差はあるものの高濃度の5-FUであるため、静脈炎を起こすことが多く、点滴が困難になることもある。そのため、中心静脈からの投与が望ましいと思われる。安全性の確認のため、前述した臨床試験では入院で行っているが、5-FU急速静注までを外来化学療法室で行えば、通院治療も可能である。在宅期間ではIVHポートを用いたインフュージョンポンプの管理法は重要となる。 |
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おわりに |
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今後の本邦の大腸がんに対する化学療法には、経口フッ化ピリミジン系薬剤、分子標的薬(VEGF阻害剤Bevacizumab、EGFR阻害剤cetuximab等)が加わってくるものと思われる。臨床試験が進み、大腸がん化学療法の進歩が期待される。 |
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参考文献 |
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1) |
Lokich J-J. et al:A Prospective randomized comparison of continuous infusion fluorouracil with a conventional bolus schedule in metastatic colorectal carcinoma. A Mid-Atlantic Oncology Program Study. Am J Clin Oncol 17:425-432, 1989 |
2) |
The Meta-analysis Group in Cancer:Efficacy of intravenous continuous infusion of Fluorouracil compared with bolus administration in advanced colorectal cancer. J Clin Oncol 16:301-308, 1998 |
3) |
Leichman C-G:Phase II study of fluorouracil and its modulation in advanced colorectal cancer:A southwest oncology group study. J Clin Oncol 13:1303-1311, 1995 |
4) |
小池明彦ほか:組織学的Stage IV胃癌の絶対治癒切除例に対する5-Fluorouracil 48時間持続静注療法の効果.癌と化学療法17:1309-1314, 1990 |
5) |
Petrelli N, et al:A prospective randomized trial of 5-Fluorouracil versus 5-Fluorouracil and high-dose Leucovorin versus 5-Fluorouracil and Methotrexate in previously untreated patients with advanced colorectal carcinoma. J Clin Oncol 5:1559-1565, 1987 |
6) |
Machover D, et al:Treatment of advanced colorectal and gastric adenocarcinomas with 5-Fluorouracil and high-dose Folinic acid. J Clin Oncol 4:685-696, 1986 |
7) |
O’Connell KJ,:A phase III trial of 5-Fluorouracil and Leucovorin in the treatment of advanced colorectal cancer. Cancer,63:1026-1030, 1989 |
8) |
de Gramont A, et al:High-dose Folinic acid and 5-Fluorouracil bolus and continuous infusion in advanced colorectal cancer. Eur J Cancer Clin Oncol., 24:1499-1503, 1988 |
9) |
de Gramont A, et al:Randomized trial coparing monthly low-dose
Leucovorin and Fluorouracil bolus with bimonthly high-dose Leucovorin and Fluorouracil bolus plus continuous infusion for advanced colorectal cancer. A French Intergroup Study. J Clin Oncol,15:808-815, 1997 |
10) |
Köhne C-H, et al:Effective biomodulation by leucovorin of high-dose infusion fluorouracil given as a weekly 24-hour infusion:result of a randomized trial in patients with advanced colorectal cancer. J. Clin. Oncol., 16:418-426, 1998 |
11) |
Goldberg RM, et al:A Randomized controlled trial of Fluorouracil
plus Leucovorin, Irinotecan and Oxialiplatin combinations in patients with previously untreated metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol, 22:23-30, 2004 |
12) |
Tournigand C, et al:A simplified bi-monthly regimen with Leucovorin(LV)and
5-Fluorouracil (5FU) formetastatic colorectal cancer (MCRC). Am Society of Clin Oncol., Abst #1052, 1998 |
13) |
Goebel FM, et al:Oxaliplatin added to the simplified bimonthly Leucovorin and 5-Fluorouracil regimen as second-line therapy for metastatic colorectal cancer (FOLFOX6). Eur J Cancer, 35:1338-1342, 1999 |
14) |
Andre T, et al:CPT-11(Irinotecan) addition to bimonthly, high-dose
Leucovorin and bolus and continuous-infusion5-Fluorouracil (FOLFIRI) for pretreated metastatic colorectal cancer. Eur J Cancer, 35:1343-1347, 1999 |
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2005年4月発行 |