瀧内:ここで他の新薬、CPT-11やtaxaneなどに話題を移していきたいと思います。この二つの薬剤の位置づけに関して、先程も分化型や未分化型など、効きやすい腫瘍に関してお話も出ていました。
馬場:私自身の経験では、CPT-11に関しては、second line以降で主としてmitomycin
Cとの併用、あるいは単剤で使用していました。これは外来治療も十分できますし、症例を解析してみたところ、生存も延長していました。先ほども、どの薬剤をfirst
line、second line、third lineのどこに、どのように位置づけるかということが話題になっていますが、確かに非常に難しい問題です。ただ、胃癌の治療全体を考えると、5-FU系抗癌剤を主体に、新規抗癌剤を幾つか組み合わせ、何らかの形で治療を継続することが生存の延長につながると考えています。taxaneに関しては、私どもの関連施設で、weekly-paclitaxelをsecond
line以降の治療として、約70例に使ってみました。その結果、奏効率は20%弱ぐらいでしたが、生存が延びたことと、腹水症例で腹水のcontrol率が40%強で、低分化型腺癌に対しては効果が期待できるのではないかという感じをもちました。それに外来でも非常に使いやすいregimenです。
瀧内:新規抗癌剤によって、second line以降の治療が非常によくなったということと、従来はなかなか効果が認められなかった腹膜播種に対し、効果が期待できるようになったことですね。この二つは、非常に大きなメリットですが、JCOGでも、腹膜播種に対する治療戦略としてphase
III(JCOG0106)を始めましたね。従来は、胃癌をトータルとして捉えて臨床試験を組まれていましたが、腹膜播種症例に絞ってphase
IIIを開始したことのコンセプトをお話いただけないでしょうか。
大津:ご承知の通り、腹膜播種は低分化型腺癌です。腹膜に播種し、肝・リンパ節転移はなく、評価がなかなかできない。日本ではphase
IIの結果をもって抗癌剤を承認していますので、今までこうした症例は新薬の治験対象から除かれていました。従ってdocetaxel、paclitaxelに関しても、腹膜播種例に対して効くという手ごたえを感じたのは承認後のことであり、治験段階ではわかっていません。腹膜播種例では、腸閉塞をおこしたり尿管閉塞をおこしたり、薬剤の排泄障害が予想されますから、ちょっと間違えれば薬によって痛い目にあう可能性もあります。これまで評価されずにいたこれらの症例に関して、なんとかそれを評価するためにphase
IIIを計画したわけです。すでにJCOG0106は中間解析が終わっています。その後second lineとしてのweekly paclitaxelを評価することになっています。世界的にもこうした症例を対象にphase
IIIを行った例はありません。実際、日本では腹膜播種症例は多いですから、やはり日本できちんと評価する必要があるだろうと思います。
瀧内:現時点では、CPT-11やtaxaneはsecond lineとしての位置づけであるとのことですが、second
line化学療法における薬剤の選択についてどのように考えていますか。
小寺:second lineを受ける患者さんが、非常に元気な場合と、first lineをfailureして状態が悪くなっている場合とでは当然事情が異なります。患者さんの状態がよければどんな治療でも可能ですが、胃癌は進行が早い病気ですから、first
lineがfailureしている間に患者さんのPSがどんどん悪くなってしまうこともままあります。私の場合は増悪の判断がなかなかつかなくてfirst lineをかなり引っ張ってしまうケースがあるのかもしれませんが、second
lineに移行はできるが、どんな薬でも使える状態ではないということがよくあります。こうした状況では、正しい使用法ではないのかもしれませんが、やはりweekly
paclitaxelのような楽な治療に進まざるを得ません。この薬も含めて、今後はsecond line settingでの臨床試験も推進し、その場合での効果に関するデータもきちんと出していくべきだと思います。しかし、現在このような臨床試験を実際に組もうとして苦しんでいるところです。どの段階でsecond
lineとしての臨床試験に登録可能にするかという問題ひとつをとっても、例えばPDを確認した段階で登録可能にするとなると、そこまで待って試験に登録するのも主治医の先生にとってストレスかもしれませんし、何かと難しいですね。いずれにしても、second
lineを考える際には、どんな治療でも可能な状態の患者さんばかりではないことも問題です。これらをどのように考えていけばよいのか、ぜひmedical oncologistの先生方にいろいろと教えていただきたいと思います。
瀧内:確かにsecond lineにいくべきかどうかも迷う症例もありますし、またtaxaneでいくべきか、CPT-11でいくべきか、症例によっていろいろなお考えがあると思いますが、小泉先生、medical
oncologistとしてどうされてますか。
小泉:first lineがS-1あるいはS-1+CDDPということでphase IIIを現在行っていますが、second
lineの選択は、やはり未分化型で、腹水があるとかリンパ節転移があるような症例にはweeklyではなく、bi-weeklyのtaxaneを施行しています。これまでの報告によりますと、weekly投与の場合、患者さんのQOLはよくなると言われています。ただ、医療側から言うと大変煩雑になって負担が大きいということがありますので、bi-weeklyに変更してphase
Iを行い、良好な感触を得ています。血行性転移、肝転移、肺転移のような分化型の腫瘍には、CPT-11+CDDPがよいと考えています。ただS-1+CDDPの施行時にCDDPのtoxicityが出ている症例に関しては単独のbi-weekly
taxaneを施行することもあります。患者の病状や腫瘍の未分化型、分化型というbiological behaviorによって変えているわけです。
朴:second lineは厳しいというお話が出ていますが、僕が初診で患者さんを診た際にはthird
lineまで考えることを心掛けています。一番毒性が強いCPT-11をどの段階で使うか、経口摂取ができなくなったらS-1は服用できないなど、いろいろと状況を考え、どのタイミングでCPT-11とS-1を使うかを考慮した戦略を立てます。有効な薬剤を使うチャンスを逸してしまったら、患者さんを治療してあげられなかったことになりますから。third
lineまで含めて考え、もしかしたら効くかもしれないという気持ちでsecond lineにあえてCPT-11+CDDPにし、駄目だったらすぐ引くということもあります。ただ、最近気になっているのはtaxaneの神経毒性で、CDDPとtaxaneの間は期間を空けることに注意しています。今first
lineが決まっていませんから、結局患者さんごとにsecond line、third line、そして、何をどこでどう使うか、どこで使えなくなるのかということを常に考えています。型で決めるのではなく、患者さんごとに次の一手を決めて見てみようというような感じです。
瀧内:そうしますと、先生のお考えではtaxaneの前に、CPT-11は使っておきたい、weekly-paclitaxelはむしろbest
supportive careに移行する前に使いたいということですね。
朴:そうですね。また、second line、third lineの際にはPRはなかなか期待できませんから、SDでも勝てる土俵に患者さんを持っていきたいので、それを考えてfirst
lineを考え、third lineまでいけるために、second lineをどう使うかを考えます。例えばCPT-11をthird lineに使うのは毒性から言って厳しい症例には前に使っておく、third
lineにはweekly-paclitaxelを持ってくると、そういうことを考えています。単剤の効果はたかが知れているし、差があると言っても大した差ではないので、それぞれに使ってトータルで50%近くいければよいという考えです。
小泉:ということは、病型を考えずに、5-FUやS-1にエントリーされた方のsecond lineは、CDDPを使うということですね。
朴:CPT-11+CDDPかCPT-11+mitomycin Cです。
小泉:そしてthird lineにはtaxaneを使うと。
朴:4系統ある薬剤のすべてをthird lineまでに使い切りたいということです。second
lineで終わってしまったら、患者さんに対して申し訳ない。自分の治療方針が間違っていたということになりますから。
馬場:長期生存というところにendpointをおけば、そういう治療戦略が一番生存を延ばせると思います。
瀧内:症例に応じて最初から同時併用でいく場合もあるし、sequentialにうまくつないでいくという場合もあると、そういうことですか。
馬場:はい。ただし、先ほど朴先生が言われましたように、taxaneの神経毒性には十分に気をつけなければならないと思います。CDDPの後にtaxaneが投与された場合、CDDPの総投与量がかなりの量になる場合には重篤な神経毒性が出ますから。その間にCPT-11をはさむというのも一つの治療戦略かもしれません。腹膜播種や腸閉塞があるなど、患者さんの状態いかんではCPT-11は使いづらくなりますから、難しいところです。
小泉:最近、S-1+CDDPが効くからといって長期間続けることは避けるべきだとも言われます。4コース程度までに限定し、次にくるtaxaneの神経毒性を予防するためにCDDPをfreeにする方法などが提案されています。
瀧内:これも生存が延びたゆえの悩みもあるということですね。 |