稀少変異の遺伝子診断ネットワーク、LC-SCRUM-Japan
土原:続いて、現在の肺癌における臨床開発について、西尾先生から解説をお願いします。
西尾:肺癌領域では、稀少融合遺伝子であるALK 、RET 、ROS1 に対するコンパニオン診断薬の開発が進み、マルチプレックス診断によりこれらの遺伝子変異を検査することが開発の中心になっています。
ALK 融合遺伝子は非小細胞肺癌の約5%に認められますが、RET 融合遺伝子は1%程度であり、これまで同定されたドライバー変異のうち、EGFR 以外の変異率は5%未満です。これらの稀少変異を検出するために、日本では国立がん研究センターの後藤功一先生が主導して2013年に全国規模の遺伝子診断ネットワーク、LC-SCRUM-Japan (Lung Cancer Genomic Screening Project for Individualized Medicine in Japan) が立ち上がりました。LC-SCRUM-Japanは、ALK 、RET 、ROS1 などの遺伝子異常のスクリーニング、および臨床試験への橋渡しを目的としており、RET 融合遺伝子陽性例は、医師主導によるVandetanibの第II相試験、LURET試験12)に登録されます。また、先ほどの登先生のお話にもあるように、この段階からコンパニオン診断薬の開発も同時に行うことが求められています。
肺癌領域では薬剤耐性も課題になっており、例えば、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の耐性克服を目指し、現在、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の臨床試験が進んでいます。ここで重要なのは、いかにして耐性化に伴う遺伝子変化を早期に検出し、次の治療へと結び付けていくかです。
頻度の少ないドライバー遺伝子変異や獲得耐性に関わる変異をもつ稀少フラクションに対する臨床開発のアプローチに欠かせないのは、被験者を集積するシステムです。これまでに日本でも多くの臨床研究グループが組織され、優れた業績をあげており、その経験をもとに全国規模のLC-SCRUM-Japanが生まれたとも言えます。このような優れた組織力を活かせば、日本から世界に先駆けたチャレンジができると考えています。
ただ、患者の集積には成功しているものの、それに対するコンパニオン診断薬開発の基盤は整っていません。やはり、診断開発に対するインセンティブが必要だと考えられ、そこが肺癌における今後の課題と言えると思います。
土原:ありがとうございます。肺癌領域では、稀少なドライバー変異が多く見つかったことにより、マルチプレックス診断と、大規模なスクリーニングシステムが必要になりました。RET 融合遺伝子は日本で同定された遺伝子であり、体外診断薬の開発も進められています。世界初の肺癌におけるRET 阻害剤の承認が得られるチャンスであり、これを契機としてコンパニオン診断薬開発の制度も整えていかねばなりません。
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