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悪心・嘔吐  監修:遠藤 一司先生(明治薬科大学)
対策

 各催吐性リスクに準じた予防制吐対策が推奨される。

@ 高度催吐性リスクに対する対策

 ニューロキニン1 (NK1) 受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの3剤併用療法が推奨されている。グラニセトロン等の第1世代5-HT3受容体拮抗薬と第2世代5-HT3受容体拮抗薬パロノセトロンでは、急性期の嘔吐性事象に対する効果に大きな差はなく、医療経済的な面を考慮すると第1世代5-HT3受容体拮抗薬の使用が許容される7)。現在、本邦においてNK1受容体拮抗薬 + グラニセトロン + デキサメタゾン群に対し、NK1受容体拮抗薬 + パロノセトロン + デキサメタゾン群の多施設共同無作為化比較試験が実施されている。遅発期の嘔吐性事象に対する効果を含め、論文化が待たれるところである。

A 中等度催吐性リスクに対する対策

 5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの2剤併用療法が推奨されている。しかしCPT-11等催吐性の高い抗癌剤投与の際には、NK1受容体拮抗薬の追加投与が推奨される。遅発期の嘔吐性事象の予防に対しては、5-HT3受容体拮抗薬もしくはデキサメタゾンの単独使用が併用と同等の効果を有すると示されている。NCCNガイドラインでは、アプレピタントとデキサメタゾンの併用やアプレピタント単剤の有用性が示されており、MASCCガイドラインではパロノセトロンとデキサメタゾンの併用が推奨されている。

B 軽度催吐性リスクに対する対策

 デキサメタゾンの単独投与か状況に応じてドパミン受容体拮抗薬の使用が推奨される。さらにロラゼパムやプロトンポンプ阻害薬等制酸薬の併用も検討されるべきである。

C 最小度催吐性リスクに対する対策

 予防制吐薬は基本的に不要である。

管理のポイント

@ NK1受容体拮抗薬アプレピタント使用時の注意

 アプレピタントは、薬物代謝酵素であるcytochrome P450 isoenzyme 3A4 (CYP 3A4) を軽度から中等度に阻害するため、デキサメタゾンの代謝消失を阻害することが知られており、デキサメタゾンのAUC (濃度時間曲線下面積) が増加することが知られている。そのため、アプレピタントとデキサメタゾン併用時には、デキサメタゾンの減量調整が必要となる。
 高度催吐性リスクに対して、従来の5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの2剤併用療法のおけるデキサメタゾンの推奨用量は、16〜20mg (注射薬13.2〜16.5mg) とされてきたが、アプレピタントとの併用例では、12mg (注射薬9.9mg) へ減量する。ただし、コルチコステロイドを抗癌剤として使用するCHOP療法などでは減量はしない。アプレピタントの投与期間は通常3日間であるが、効果不十分の場合には5日間までの追加投与が可能である。

A コルチコステロイドの用量について

 高度催吐性リスクに対しては、上記に示したように投与初日には、デキサメタゾン12mg (注射薬9.9mg) にする。また、遅発期の悪心・嘔吐に対して、2〜4日目にデキサメタゾン8mgを経口投与する (図3A)。
 中等度催吐性リスクに対しては、アプレピタント併用例でデキサメタゾン6mg (注射薬4.95mg) を投与し、遅発期の悪心・嘔吐に対して、2〜4日目にデキサメタゾン4mgを経口投与する。なお、アプレピタント非投与例では、デキサメタゾンを12mg (注射薬9.9mg) とし、2〜4日目にデキサメタゾン8mgを経口投与する (図3B)。

図3:催吐性リスク別予防投与薬剤と用量
A:高度催吐性リスク
図3A:催吐性リスク別予防投与薬剤と用量 A:高度催吐性リスク
B:中等度催吐性リスク
B:中等度催吐性リスク
C:軽度催吐性リスク
C:軽度催吐性リスク
D:最小度催吐性リスク
D:最小度催吐性リスク

B 胸焼け、消化不良、悪心に対する薬物治療

 胸焼けや腹満感、心窩部不快感と悪心との鑑別は困難である。そのような場合には、プロトンポンプ阻害薬またはH2ブロッカーの投与を検討する。

C 悪心・嘔吐の関連因子

 悪心・嘔吐には、抗癌剤や放射線治療に伴う治療関連因子以外にも、患者関連因子がある。患者関連因子としては年齢、性別、アルコール摂取量が挙げられ、女性、50歳未満に発現頻度が高く、アルコール摂取量が多いと発現頻度が低いと報告されている8-10)。また、癌患者では、下記に示す病態で悪心・嘔吐を生ずるので注意が必要である。

  • 部分的または完全な腸閉塞
  • 前庭の機能不全
  • 脳転移
  • 電解質異常など(高カルシウム血症、低ナトリウム血症、高血糖)
  • 尿毒症
  • 麻薬鎮痛薬を含む併用薬物
  • 胃不全麻痺 (化学療法による末梢神経障害に伴う胃アトニー)
  • 不安や予期性悪心・嘔吐

D ケースに応じた管理

 一度、重度の嘔吐を経験してしまうと、抗癌剤レジメン治療変更後も嘔吐性事象で苦しむケースが散見されるため、嘔吐が発症する前 (抗癌剤投与前) より、しっかり制吐剤を使用していくことが重要である。
 悪心に対しては、CINV (chemotherapy-induced nausea and vomiting) であるのか、消化管粘膜障害であるのかの見極めが重要になる。後者の可能性が高ければ、プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー等の制酸薬の効果が、制吐剤よりも期待できることがある。
 また、味覚障害、嗅覚障害が食欲不振につながるケースもみられるが、ここでは栄養士による栄養指導が効果的な場合もある。ケースに応じて様々な職種による患者サポートを行うことが非常に効果的であり、推奨される。

Reference

  • 1) Mitchell EP. Semin Oncol. 19(5): 566-579, 1992[PubMed
  • 2) Richardson JL, et al.: J Clin Oncol. 6(11): 1746-1752, 1988[PubMed
  • 3) 山口葉子ら: 腫瘍内科. 5(3): 225-234, 2010
  • 4) Grunberg SM, et al.: N Engl J Med. 329(24): 1790-1796, 1993[PubMed
  • 5) 日本癌治療学会編: 制吐薬適正使用ガイドライン. 2010年5月第1版, 金原出版, 2010
  • 6) Smith IE.: Eur J cancer. 26: S19-23, 1990[PubMed
  • 7) 米村雅人, 秋田賢宏ら: 癌と化学療法. 38(7): 1155-1158, 2011
  • 8) Tonato M, et al.: Ann Oncol. 2(2): 107-114, 1991[PubMed
  • 9) Roila F, et al.: J Clin Oncol. 5(1): 141-149, 1987[PubMed
  • 10) Sullivan JR, et al.: N Engl J Med. 309(13): 796, 1983[PubMed
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