1990年代半ばから2000年代前半にかけて、5-FU/LVにIrinotecan(CPT-11)およびOxaliplatin(L-OHP)を組み合わせたレジメンが次々と開発された(表2)。OSは20ヵ月に到達し、進行再発大腸癌に対する化学療法は大きな進展を遂げた(図2)。
Irinotecan(CPT-11; カンプト®, トポテシン®)は日本で開発されたカンプトテシン半合成誘導体で、I型DNRトポイソメラーゼを阻害することにより抗腫瘍効果を発揮する。
・5-FU不応例に対するCPT-11単剤投与
5-FU不応例に対するCPT-11単剤投与は、best supportive care(BSC)との比較試験において、主要評価項目であるOSで有意に上回った(CPT-11 vs. BSC=9.2ヵ月 vs. 6.5ヵ月, p=0.0001)23)。
また、同様の対象に対するinfusional 5-FUとの比較試験では、主要評価項目であるOS(CPT-11 vs. infusional 5-FU=10.8ヵ月 vs. 8.5ヵ月, p=0.035)およびPFS(各々4.2ヵ月 vs. 2.9ヵ月, p=0.030)において有意に上回った。Grade 3以上の有害事象発生率はCPT-11群で有意に高かったものの(各々69% vs. 54%, p=0.013)、QOLにおいては両群で差がなかった24)。以上の結果より、CPT-11は5-FU抵抗性の大腸癌に対する標準治療と認識された。
・初回治療例に対するCPT-11単剤投与
Saltzらにより、初回治療例に対するbolus 5-FU/LV(Mayoレジメン)およびIFL(bolus 5-FU/LV+CPT-11)との比較試験が行われた。CPT-11単剤投与は、主要評価項目であるPFS(CPT-11 vs. 5-FU/LV vs. IFL=4.2ヵ月 vs. 4.3ヵ月 vs. 7.0ヵ月, p=0.004)および奏効率(各々18% vs. 21% vs. 39%, p<0.001)、OS(各々12.0ヵ月 vs. 12.6ヵ月 vs. 14.8ヵ月, p=0.04)において5-FU/LVを上回らず、IFLがCPT-11単剤および5-FU/LVと比較して有意に良好であった16)。このことより、初回治療例に対するCPT-11単剤投与は行われない。
5-FU/LV急速静注とCPT-11の併用レジメンである。Saltzらにより、初回治療としての5-FU/LV(Mayoレジメン)およびCPT-11に対し、主要評価項目であるPFSおよび奏効率、OSにおける優越性が示された16)(2.1「・初回治療例に対するCPT-11単剤投与」の項参照)。
しかし、その後のIFLを試験アームとした第III相試験(N9741試験、CALGB C89803試験)の解析によって、IFL群の治療関連死亡が他の試験アームと比較して3倍多いことが指摘されたこと25)、IFL、FOLFOX、IROXを比較したN9741試験21)およびFOLFOXとFOLFIRIを比較したV308試験26)の結果より、IFLよりもFOLFIRIの方が抗腫瘍効果および安全性において良好であると認識され、現在では使用されなくなっている。
Douillardらは、初回治療においてCPT-11とinfusional 5-FU/LVの併用であるFOLFIRIを含むレジメンとinfusional 5-FU/LVを比較する第III相試験を実施し、5-FUに対するFOLFIRIの優越性を示した。FOLFIRI群はinfusional 5-FU/LVに対し、主要評価項目である奏効率で上回り(FOLFIRI vs. 5-FU/LV=49% vs. 31%, p<0.001)、副次評価項目であるTTP(各々 6.7ヵ月 vs. 4.4ヵ月, p<0.001)およびOS(各々17.4ヵ月 vs. 14.1ヵ月, p=0.031)においても有意に上回った。Grade 3/4の有害事象は、下痢や好中球減少がCPT-11併用群で有意に多かったが、管理可能であった17)。
その後、Tournigandらが報告したV308試験では、「一次治療にFOLFIRI、二次治療にFOLFOXを用いた群」と「一次治療にFOLFOX、二次治療にFOLFIRIを用いた群」を比較した結果(図3)、奏効率(各々56%, 54%)、PFS(各々8.5ヵ月, 8.0ヵ月)、OS(各々21.5ヵ月, 20.6ヵ月)のすべてにおいて同程度の成績が得られた。また、毒性の特徴は両群間で異なっていたものの忍容可能であり、60日以内の早期死亡率は各々4%、3%と差は認められなかった26)。
以上より、FOLFIRIはFOLFOXとならび標準治療の1つと認識されている。
初回治療例を対象にフッ化ピリミジンとCPT-11併用レジメン(FOLFIRI, IFL, XELIRI)を比較したBICC-C試験では、XELIRI群はGrade 3以上の消化器毒性が最も多く認められた(下痢48%、脱水19%、悪心18%)。この結果を受けて、引き続いて行われたBevacizumabの併用による比較(period 2)では、XELIRIは試験アームから除外された27)。
・AIO 0604試験
ドイツのAIOグループによって行われたXELOX+BevacizumabとXELIRI+Bevacizumabの無作為化比較第II相試験(AIO 0604試験)では、CPT-11およびCapecitabineをBICC-C試験よりも減量したXELIRIレジメンが採用された(CPT-11: 250→200 mg/m2/day1, 3週毎, Capecitabine: 2,000→1,600mg/m2/day/分2, day1夕〜15朝, 3週毎)。その結果、Grade 3以上の下痢の発生率は15%と、過去の報告に比して忍容性は良好であった。効果においても、奏効率55%、PFS 12.5ヵ月であり、標準治療の1つであるXELOX+Bevacizumab(各々54%, 9.9ヵ月)と遜色ない成績であった28)。
・ACCORD 13試験
FOLFIRI+BevacizumabとXELIRI+Bevacizumabの無作為化比較第II相試験であるACCORD 13試験においても、初回治療例に対しCPT-11 200 mg/m2、Capecitabineの投与量を2,000mg/m2/dayとしたレジメンを用い、奏効率(XELIRI+Bevacizumab vs. FOLFIRI+Bevacizumab=54% vs. 59%)、PFS(各々9ヵ月 vs. 9ヵ月)ともに同程度の抗腫瘍効果を示し、Grade 3以上の有害事象発生率についても差を認めなかった(各々61% vs. 60%)29)。
これらの結果より、FOLFIRIをXELIRIに置き換えられる可能性が示唆された。
初回治療不応・不耐、もしくは周術期化学療法終了後24週以内の再発例を対象に、FOLFIRIに対するIRIS(S-1+CPT-11)の非劣性を検証することを目的に行われた無作為化比較試験が、FIRIS試験である。主要評価項目であるPFSはIRIS群、FOLFIRI群でそれぞれ 5.8ヵ月、5.1ヵ月(HR=1.077, 95% CI: 0.879-1.319)と、事前に設定したHRの95% CI上限値1.333を下回り、IRISの非劣性が示された(p=0.039)60)。また、副次評価項目のOSは各々19.5ヵ月、18.2ヵ月(HR=0.909, 95% CI: 0.699-1.181)、奏効率は18.8%、16.7%と両群で同程度であった。
本試験において切除不能進行・再発大腸癌に対するS-1の有用性が報告されたが、既治療例に対する化学療法の主要評価項目がOSではなかったこと、非劣性マージンが1.33と高めであったこと、さらにIRIS群ではFOLFIRI群と比較してgrade 3/4の好中球減少の頻度は低いものの(36.2% vs. 52.1%)、grade 3/4の非血液毒性すなわち、下痢(20.5% vs. 4.7%, p<0.0001)、疲労(8.6% vs. 3.3%, p=0.0242)、発熱性好中球減少症(4.8% vs. 0.9%, p=0.0205)、食欲不振(11.0% vs. 5.2%, p=0.0329)の発生頻度が有意に高かったことが指摘されている。
現在、初回治療例を対象として標準治療であるFOLFOX+BevacizumabまたはXELOX+Bevacizumabに対するS-1+CPT-11+BevacizumabのPFSにおける非劣性および優越性を検証する第III相試験、TRICOROLE試験が行われている61)。なお、S-1+CPT-11の試験治療レジメンはIRIS+Bevacizumab (5mg/kg, day1 and 15, 4週毎) またはSIRB(SIR+Bevacizumab(7.5mg/kg, day1, 3週毎))の二本立てとなっている。
Oxaliplatin(L-OHP; エルプラット®)は日本で開発された第三世代の白金化合物であり,単剤の奏効率は初回治療例で20〜24%30, 31)、既治療例で11%32)と報告されている。IFL不応例を対象とした第III相試験33)において、L-OHP単剤治療はFOLFOXに比して抗腫瘍効果が低く、現在は5-FU既治療例に対しても単剤では用いられない。
・de Gramont, et al.
de Gramontらは初回治療を対象に、当時の標準治療の1つであった5-FU/LV(LV5FU2)をコントロールアームとし、L-OHPを併用するFOLFOXとの無作為化比較試験を実施した18)。OSにおいては有意差がみられなかったものの(FOLFOX vs. 5-FU/LV=16.2ヵ月 vs. 14.7ヵ月, p=0.12)、主要評価項目であるPFSではFOLFOX群が有意に上回り(各々8.2ヵ月 vs. 6.0ヵ月, p=0.0003)、また奏効率もFOLFOX群が上回った(各々50.0% vs. 21.9%、p=0.0001)。ただし、Grade 3以上の有害事象の発生率はFOLFOX群で有意に高かった。
・N9741試験
Goldbergらは、初回治療例に対し、当時の標準治療であったIFLをコントロールアームとしたN9741試験を行った(図4)。その結果、主要評価項目であるTTPにおいてFOLFOX群が有意に上回り(FOLFOX vs. IFL=8.7ヵ月 vs. 6.9ヵ月, p=0.0014, HR=0.74)、副次評価項目であるOS(各々19.5ヵ月 vs. 15.0ヵ月, p=0.0001, HR=0.66)および奏効率(各々45% vs. 31%, p=0.002)においてもFOLFOXの優越性が示された。Grade 3以上の有害事象発生率は、神経障害においてはFOLFOX群で高かったものの、消化器毒性(下痢、嘔吐、悪心)および発熱性好中球減少症はIFL群より有意に低かった21)。
抗腫瘍効果および毒性の面から、FOLFOXは現在のbest regimenの1つとなっている。
AIOレジメン(5-FU/LV)にL-OHPを併用するレジメンである。Grotheyらは初回治療例において、5-FU/LV(Mayoレジメン)に対し、FUFOXの奏効率(FUFOX vs. 5-FU/LV=48% vs. 23%, p<0.0001)およびPFS(各々7.9ヵ月 vs. 5.3ヵ月, p<0.0001)における優越性を示した。重篤な血液毒性の発生率はFUFOX群で低く、非血液毒性は両群で同程度であった20)。
初回治療例に対するXELOXとFOLFOXを比較したNO16966試験は、症例集積中にAVF2107g試験34)でBevacizumabの上乗せ効果が示されたことを受けて、両群にBevacizumabを併用する群と併用しない群を組み合わせた2×2デザインに変更された。
Cassidyらが報告したXELOX±BevacizumabとFOLFOX±Bevacizumabの比較では、主要評価項目のPFSは各々8.0ヵ月、8.5ヵ月(HR=1.04, 97.5% CI: 0.93-1.16, 非劣性マージン HR=1.23)と非劣性が証明され、奏効率(各々47%, 48%)、OS(各々19.8ヵ月, 19.6ヵ月)も同程度であった35)。
有害事象については、XELOX±Bevacizumab群ではGrade 3以上の好中球減少および発熱性好中球減少症が少なく、手足症候群および下痢の発生頻度が高い傾向にあった。
また、これまでに報告されたCapecitabine+L-OHP併用療法とinfusional 5-FU/LV+L-OHP併用療法の比較試験のメタアナリシスでは、奏効率はCapecitabine併用群が低いものの、PFSやOSは同程度と報告され、XELOXは標準治療の1つとして認識されている36)。
5-FUを使用せず、CPT-11とL-OHPを併用するレジメンである。下記の試験結果より、IROXがFOLFOXやFOLFIRIと比較して良好な治療とは言い難く、標準治療とは認識されていない。
・N9741試験
初回治療例に対し、IFLをコントロールアームとして、FOLFOXおよびIROXを比較したN9741試験(図4)では、IROXはIFLと比較し、奏効率(IROX vs. IFL=35% vs. 31%, p=0.34)、TTP(各々6.5ヵ月 vs. 6.9ヵ月, HR=1.02, p>0.50)では差は認めないものの、OS(各々17.4ヵ月 vs 15.0ヵ月、HR=0.81, p=0.04)では有意差を示した。しかし、FOLFOXの方が奏効率(IROX vs. FOLFOX=35% vs. 45%, p=0.03)、TTP(各々6.5ヵ月 vs. 8.7ヵ月, HR=0.72, p=0.001)において有意に上回り、OS(各々17.4ヵ月 vs. 19.5ヵ月, HR=0.83, p=0.09)においても良好な傾向があった。
毒性については、Grade 3以上の好中球減少および神経障害の発生率はFOLFOX群でIROX群よりも高かったものの、IROX群における非血液毒性(悪心、嘔吐、下痢)、発熱性好中球減少症の発生率はFOLFOX群よりも有意に高かった21)。
初回治療に対するIROXとFOLFIRIを比較したFIRE試験では、主要評価項目であるPFSは有意差がなく(IROX vs. FOLFIRI=7.0ヵ月 vs. 8.2ヵ月, HR=1.093)、奏効率とOSでも同程度であった。また、有害事象は両治療群とも許容できるものであった37)。
FOLFOXIRI は5-FU/LV、CPT-11とL-OHPを併用する治療法である。 FOLFOXIRIの第III相試験は、FOLFIRIとの比較試験が2本報告されている。
・Souglakos, et al.
Souglakosらは初回治療例に対し、FOLFOXIRIとして、LV5FU2とCPT-11 150mg/m2およびL-OHP 65mg/m2を併用するレジメンを採用した。
FOLFOXIRI群は、FOLFIRI群と比較して、主要評価項目であるOS(FOLFOXIRI vs. FOLFIRI=21.5ヵ月 vs. 19.5ヵ月, p=0.337)で良好な傾向があったものの有意差はなく、奏効率(各々43% vs. 33.6%, p=0.168)、TTP(各々8.4ヵ月 vs. 6.9ヵ月, p=0.17)でも有意差を認めなかった。また血液毒性は両群で同程度であったが、非血液毒性はFOLFOXIRI群で多く発生した22)。
一方、Falconeらは、初回治療例に対し、Souglakosらのレジメンから5-FU bolusを削除し、infusional 5-FU/l-LV(5-FU 3,200mg/m2, l-LV 200mg/m2)とCPT-11 165mg/m2およびL-OHP 85mg/m2を併用するレジメンを採用した。
その結果、FOLFIRIに対し、主要評価項目である奏効率で上回り(FOLFOXIRI vs. FOLFIRI=66% vs. 41%, p=0.0002)、PFS(各々 9.8ヵ月 vs. 6.9ヵ月, HR=0.63, p=0.0006)、OS(各々22.6ヵ月 vs. 16.7ヵ月, HR=0.70, p=0.032)においても有意に上回った。好中球減少の発生率は有意にFOLFOXIRI群で有意に多かったものの、発熱性好中球減少症の発生率は両群で同程度(5% vs. 3%)であった38)。
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