演題速報レポート American Society of Clinical Oncology 48th Annual Meeting 2012 June 1st-5th at CHICAGO,ILLINOIS

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現地座談会

大腸癌に関する注目演題

原発巣切除と肝転移の切除

#3508:EORTC 40983試験の長期成績

切除可能大腸癌肝転移への周術期FOLFOX4療法は標準治療になり得るか

室:次はEORTC 40983試験23,24)です。岩本先生、概要をご紹介ください。

岩本:切除可能な4個までの肝限局転移を有する症例において、術前および術後にFOLFOX4を6サイクルずつ投与する群 (周術期化学療法:Perioperative chemotherapy) と手術単独群を比較しました。2007年 米国臨床腫瘍学会年次集会の発表で主要評価項目であるPFSの延長が示されていましたが23,24)[図7]、今回はその長期成績です。結果としては症例数が少ないため、OSにおけるFOLFOX4群の優越性は認められませんでした[図8]

室:大村先生はどう見られましたか。

大村:2007年の発表では、3年PFSは手術単独群の28.1%に対しFOLFOX4群では36.2%と、8.1%の向上が報告されましたが23,24)、今回の発表では5年OSの差は4.1%となり、インパクトが小さくなりました。演者も「この結果をもって本治療が切除可能な肝転移に対する標準治療とは言えない」と述べています。PFS曲線を見ると、最初に大きく下がって両群間に8%程度の差がついていますね[図7]。これはR0切除ができた症例と、R1/2切除になってしまった症例の差と考えられます。

岩本:R1/2切除がPDと判断されたわけですね。

大村:また、FOLFOX4群では、原病死以外の死亡がやや多くみられました。

寺島:主要評価項目がPFSということは、investigatorはPFSが延長すればよいと考えたわけで、OSの結果がどうあれ、周術期のFOLFOX4療法は有効だという結論に変わりはないと思います。R0切除率が向上しているので、術前化学療法の効果がみられたと解釈すべきではないでしょうか。その差が最後まで開いたままだったのだと思います。

中島:そうすると、逆に術後補助化学療法は必要ないという解釈もできるのでしょうか?

吉野先生吉野:ヨーロッパを中心としたEORTCのコミュニティでは、本試験のPFSで有意差が得られたら標準治療として動くと決めており、すでに周術期化学療法をreference armとした別の試験を進めています (CRUK/06/031/New EPOC試験25)、EORTC 40091/BOS2試験26))。ただ、今後この治療が他のコミュニティに波及するかどうかは疑問ですね。実際、アメリカや日本では、周術期化学療法をexperimental armとした試験が進行中であり(NSABP C-11試験27)、EXPERT試験)、どちらもこの試験結果を標準治療としては受け入れていません。
 PFS曲線に関して言えば、最初に大きく下がっていますが、統計的にはここで下がれば下がるほど、両群の差が開いてもp値は大きくなります。したがって、この状況下でもPFSに有意差が得られたというのは大きな意味があるとも考えられますし、「開腹後に切除不能と判明した症例数がもっと少なければ、OSで有意差が出たのではないか」とも指摘されています。
 欧米では、PFSで優越性が示されOSで示されなかったのであれば、より強力で長期の治療が必要だろうと解釈して今後の治療戦略を立てていくと思います。一方で、日本の外科医の多くはこのデータを見て、手術単独でよいと解釈されるのではないでしょうか。

室:佐藤先生は外科医としてどう思われますか。手術単独でよいでしょうか。

佐藤 (武)先生佐藤 (武):この試験は、もともとITT解析では両群のPFSに有意差が示されず、適格例の解析で有意差が示されたわけで、厳密にはmetしていない試験ですね。主要結果が報告された当時は、術後のFOLFOX4投与症例が63%と少なかったことから、術後よりも術前に化学療法を行うほうがよいのかと考えていたのですが。
 試験治療後に二次手術などの強力な治療が行われる可能性があり、OSに有意差を出すのが難しいとなると、「無理をして術前に化学療法を行う必要はないのでは」という議論になってくると思います。しかし、外科医としては「切除はできたけれど、それだけで十分なのだろうか」という感覚がどうしても出てきます。切除後のstage IV症例に対する補助化学療法をどのように行うべきかを考え、検証していかなければいけないと思います。

中島:当院では、切除可能な肝転移は術前化学療法を行わずに切除をするのですが、先生方の施設ではどうされていますか。

山﨑:同時性・異時性にかかわらず切除をします。

吉野:当院でも全て切除します。

岩本:当院では同時性転移に関しては術前に化学療法を行っています。

室:ここにいらっしゃる先生方の間は、術前化学療法をせずに切除する施設が大半のようですね。ヨーロッパでは本試験の結果を受け、このまま術前+術後の周術期化学療法が標準治療として進むでしょう。本試験のエビデンスを我々日本人がどう考えるべきかは悩ましいところです。

Lessons from #3508

  • 切除可能な肝転移を有する症例に対する周術期FOLFOX4群は、手術単独群と比べてOSを延長しなかった。
  • 主要評価項目であるPFSはITT解析では有意差が示されず (HR=0.79, p=0.058) 、適格例において有意な延長が示されている (HR=0.77, p=0.041)。
  • ヨーロッパでは周術期化学療法が標準治療となっている一方、米国や日本では検証途中であり、切除後のstage IV大腸癌に対する最適な補助化学療法は定まっていない。
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