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大腸癌に関する注目演題
原発巣切除と肝転移の切除
#3507:切除不能遠隔転移を有する大腸癌4試験のプール解析
原発巣切除が生命予後に与える影響
室:ここからは原発巣切除と肝切除に関する話題に移ります。最初は原発巣切除が生命予後に影響を与えるかどうかを検討した報告です。岩本先生、概要をお願いします。
岩本:4つの無作為化比較試験 (RCT) から遠隔転移を有する大腸癌患者1,155例の個別データを抽出し、原発巣切除例と非切除例について生存期間を比較しました。その結果、原発巣切除は生存期間の延長に寄与することが示されました[図6]。CEAの上昇が顕著でなければ、直腸癌であっても原発巣を切除すべきであるという結論になっています。
室:監修された大村先生はどう思われましたか。
大村:同時性肝転移の原発巣切除を考慮する場合などに参考になるデータだと思います。NCCNガイドラインでは、「同時性肝転移や肺転移のある症例で原発巣切除を行うのは、腸閉塞のリスクが迫っている場合と重篤な出血がある場合」と明記されていますが18)、実臨床ではしばしば悩むことがあります。例えばBevの投与中に腫瘍が増大して閉塞が起こるとしばらく中断を余儀なくされ、手術前後に化学療法の空白期間ができてしまいます。
また、翻転部から下に病巣がある高リスクの直腸癌症例では、人工肛門を造設するのみにとどめるのか、多少の侵襲があっても原発巣切除がよいのか迷います。本報告の多変量解析では、CEA高値 (>600ng/mL) の結腸癌以外は、原発巣を切除した群においてOSの延長がみられたので、原発巣切除に踏み切ってもよいと思います。
寺島:「米国のstage IV結腸癌における原発巣切除の状況」というポスター発表 (#3542)19) があり、演者に質問したところ、「理由はわからないが、原発巣切除をしたほうがよいと考える外科医が多く、60%程度は原発巣切除されている」ということでした。最近は原発巣切除が減少傾向にあるそうですが、今回の報告からNCCNガイドラインは変わるでしょうか。
大村:本報告はRCTではありません。原発巣切除が行われた症例は、もともと切除がしやすい症例だと思われるので、ガイドラインに影響は出ないでしょう。
寺島:JCOGでも切除不能大腸癌の原発巣切除のRCTを計画していますね (JCOG 1007試験)20)。日本ではその結果を見て決めることになるのでしょうか。
室:私の印象では、日本では遠隔転移を有する切除不能大腸癌で8割程度は原発巣切除をしていると思います。一方、今回の報告では6割とそれほど多くありません。したがって、少し極端なことを言えば、切除している症例は腫瘍量も少なく余裕のある症例であって、重篤な肝転移で急いで化学療法をしなければならない症例は非切除になっている可能性があります。つまり、biasを排除するべく種々解析方法を工夫したとしても、selection biasは完全には排除しきれないと。
中島:化学療法を急いで行わないといけない人にも、原発巣切除は意味があると勘違いしてはいけないということですね。
吉野:そうですね。ただ、原発巣を切除してもマイナスの影響はなさそうだとは言えると思います。
室:佐藤武郎先生はこのプール解析によって臨床が変わると思われますか。
佐藤 (武):この解析では、原発巣がどの程度だったのかもわかりません。あくまでも観察研究の一部であって、今回の解析結果をそのままもち込むのは危険だと思います。
室:ディスカッサントによると、欧米ではCAIRO4試験21)とSYNCHRONOUS試験22)という2つのRCTが進行しています。JCOG 1007試験とあわせて結果に注目したいですね。
Lessons from #3507
- 切除不能遠隔転移を有する大腸癌患者の原発巣切除は、生存期間の延長に寄与した。
- 本研究では原発巣の状態が明らかになっておらず、状態のよい症例で切除されている可能性がある。
- RCTで検証されるまでは、この結果をそのまま実臨床にもち込むべきではない。