久々に登場した本邦発の細胞毒性抗癌剤

 TAS-102は、トリフルオロチミジン (FTD) とその分解を阻害するチミジンホスホリラーゼ (TP) 阻害薬を1対0.5の比率で配合した経口の新規ヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤である。チミジル酸合成酵素 (TS) 阻害に加えて、TK1によるリン酸化によりDNAに取り込まれることで、TS阻害とは別のメカニズムで抗腫瘍効果を発揮する。わが国で行われた第I相試験の最大耐用量ならびに第II相試験の推奨用量は70mg/m2/day、投与スケジュールは1日2回、5投2休、2週投与2週休薬である。

 2011年の日本臨床腫瘍学会のプレナリーとESMOのオーラルセッションにおいて、サルベージラインとしてのTAS-102のプラセボ対照無作為化比較第II相試験の結果を報告した1,2)。筆者も共同研究者の1人だが、OS (overall survival) 、PFS (progression-free survival) 、DCR (disease control rate) ともにプラセボ群に比べ有意に優れており、目立った非血液毒性もみられず、きわめて有望な結果だったといってよいだろう。

 このように大腸癌におけるTAS-102の開発は日本主導で進行している。今回の米国臨床腫瘍学会年次集会では、本邦での無作為化第II相試験の結果を受け、欧米の大腸癌患者における推奨用量を設定する第I相試験の結果が報告された (#3631)3)

欧米での開発失敗から日本での再開発を経て、国際共同試験へ

 実は、欧米におけるTAS-102の臨床試験は今回が初めてではない。本剤の臨床開発の端緒は10数年以上前に遡る。1日2回、5投2休、2週投与2週休薬というスケジュールは欧米で検証・確認されたものだ。2001年の米国臨床腫瘍学会年次集会では、固形癌を対象とした第I相試験の結果が報告され、2ライン以上の治療を受けた消化器癌患者における最大耐用量は70mg/m2/dayであった4)。ところが、2006年の報告では、あらゆる治療を受けた (heavily treated) 転移・再発乳癌の第I相試験において、用量制限毒性であるgrade 3/4の好中球数減少が19例中11例に発現し、最大耐用量はわずか50mg/m2/dayにとどまった 5)

 相次いで行われた日本の第I相試験では、21例すべてが消化器癌、うち18例が大腸癌であった。最大耐用量は70mg/m2/day、DCRは52.3%、PFS中央値およびOS中央値はそれぞれ2.6ヵ月、10.2ヵ月と非常に良好な結果であった6)。 ここで1つの疑問が生じた。両試験の薬物動態データはほぼ同等であり、人種差はみられなかった。薬物動態に差がなければ毒性も同等と考えるのが普通だが、実際は乳癌患者において低用量で用量制限毒性が発現した。この問題は未解決だが、おそらく両者の前治療歴の違い (ライン数や使用薬剤) に起因したものと推測している。

 #3631は、米国の既治療の切除不能大腸癌患者において、70mg/m2/dayが推奨用量となり得るかを確認する用量設定試験である。試験は60mg/m2/dayで開始され (コホート1) 用量制限毒性が認められなかったことから、患者数を増やし(コホート2/拡大コホート)、70mg/m2/dayで治療が行われた。その結果、コホート2で9例中1例に、拡大コホートで14例中2例に用量制限毒性が認められたが、全般的に忍容可能であった。また、70mg/m2/dayを投与された患者における最良治療効果はSD、DCRは59% (13例/22例) と日本の無作為化第II相試験と同等であった3)

 こうして切除不能大腸癌のサルベージラインにおけるTAS-102の効果や毒性に人種差がないことが確認されたことから、70mg/m2/dayを推奨用量とした800例規模の国際共同無作為化比較第III相試験 (RECOURSE試験) がスタートした7)。Co-principal investigatorは米Dana-Farber Cancer InstituteのProf. Robert J. Meyer、ベルギーのProf. Eric Van Cutsem、そして当院の大津敦先生の3人である。TAS-102は久々に登場した本邦発の細胞毒性抗癌剤であり、今後は併用療法やフロントラインの開発にも期待したい。