Bevacizumab vs. 抗EGFR抗体薬
#LBA3:CALGB80405試験
KRAS 野生型切除不能大腸癌に対する1st-lineとしてのCetuximab併用療法とBev併用療法の直接比較
室:最後に、今年の米国臨床腫瘍学会年次集会の消化器癌領域において最も注目を集めたCALGB80405試験を取り上げたいと思います。
谷口:CALGB80405試験は、KRAS codon 12, 13野生型の切除不能大腸癌の1st-lineにおけるCetuximab併用療法とBev併用療法の第III相試験です。2004年から開始されたのですが、途中でKRAS 遺伝子が抗EGFR抗体薬の負の効果予測因子であること、CetuximabとBevの併用が不良であることがわかったため、2009年から現在の試験デザインで再開されました。
OS中央値の期待値をBev群22ヵ月、Cetuximab群27.5ヵ月と仮定し、必要症例数は1,140例となっています。そして、15%のイベントが起こると想定される6ヵ月おきに中間解析を行う予定になっており、11回目の中間解析で無効中止が決定しました。
患者背景は情報不足ですが、年齢中央値が59歳と若めであり、通常はみられない項目である「palliative intent」は全体で84.4%でした。なお、併用化学療法はFOLFOXが3/4、FOLFIRIが1/4です。
主要評価項目であるOSの中央値は、Bev群29.0ヵ月、Cetuximab群29.9ヵ月と有意差を認めませんでした (HR=0.925, p=0.34) (図10)。PFSの中央値はそれぞれ10.8ヵ月、10.4ヵ月で、同様に有意差を認めませんでした (HR=1.04, p=0.55)。
併用化学療法別のOSサブグループ解析では、FOLFOXではBev群26.9ヵ月、Cetuximab群30.1ヵ月と、有意差はないもののCetuximab群で良好な傾向がみられました (HR=0.9, p=0.09) (図11)。一方、FOLFIRIでは、Bev群33.4ヵ月、Cetuximab群28.9ヵ月と、逆の傾向がみられています (HR=1.2, p=0.28) (図12)。なお、全体の11% (124例) でdisease-freeが得られ、これらの症例のOS中央値は66.3ヵ月と非常に良好でした。
治療中止理由は、両群ともにPDが30%程度と、他の試験と比べて非常に低く、有害事象や治療変更などによる中止が55%程度あります。QOLはBev群のほうがやや良好ですが、奏効率、dose intensity、術後補助化学療法、後治療、RAS 解析など、未発表のデータが多いので、今後追加報告されるということです。
室:寺島先生、いかがでしょうか。
寺島:FIRE-3試験の結果が再現されるかどうかが最大の関心事でしたが、残念ながら1st-lineにおけるCetuximabの優位性は証明されませんでした。いろいろな解釈があると思いますが、今後、さまざまな解析結果が出てくると少しずつその理由が明らかになっていくと思います。DiscussantのTabernero先生は、全RAS 野生型に絞ればハザード比が0.85~0.87になると予想されていましたが、全RAS 野生型に限ればCetuximabの優位性が証明される可能性は高いと考えられます。したがって、今後は抗EGFR抗体薬がOSをどれくらい延長すれば1st-lineとして使用するかという臨床側の判断になるだろうと思います。
また、OS中央値が29ヵ月と長かったので、年齢が若いこと、切除できた症例が多かったことが寄与していると考えられます。こうした集学的治療が積極的に行われるようになれば、切除不能大腸癌の予後はさらに向上すると思われます。
室:Grothey先生に聞いたところ、アメリカではBevが中心のため、本試験には抗EGFR抗体薬に慣れていない施設も多数参加していたようです。ただ、OSの成績は悪くないので、試験の質が悪いのではなく、適切なマネジメントができたかという細かい部分かもしれません。
佐藤 (温):それでもOSは29ヵ月も得られているのですね。
寺島:やはり患者背景がいいというのも大きいと思います。CALGBはアカデミアが多いようなので、高収入の患者が多いという背景もOSに影響するでしょう。
室:米国では、高い確率で3rd-line、4th-lineまで行われており、実際に本試験の後治療移行率も高いので、その影響もあると思われます。
大村:Disease freeが得られた11%は、R0切除を受けた症例ということでしょうか。
寺島:そうですね。患者背景のpalliative intentが約85%だったので、15%は最初からresectableだったと考えられます。R0切除されてdisease freeになった症例が11%で、そのOS中央値が66.3ヵ月だったのでしょう。
佐藤 (武):今回の報告は、切除率などの情報もなく、外科医としては解釈に苦しみます。
室:確かにデータが少なすぎですね。追跡期間も24ヵ月とFIRE-3試験の36ヵ月と比べて短いです。ただ、興味深いデータが出ているのも事実で、併用療法のサブグループ解析は予想と大きく異なる結果だったと思います。
小松:これまでCOIN試験、NORDIC VII試験と、CetuximabはL-OHP併用では有効性を示せず、逆にFOLFIRI併用のFIRE-3試験ではBev群に対してOSで有意差を示していました。本試験では逆に、FOLFOX併用でCetuximab群が良好でFOLFIRI群でBev群が良好なのは説明が難しいです。
室:特にRAS 変異型では、PRIME試験でもFOLFOXにPanitumumabを併用することで不良な結果だったことを考えると、minor RAS 変異も含まれている本報告でCetuximabが良好というのは意外でした。逆に言うと、minor RAS 変異を除いたRAS 野生型であれば、今よりも大きな差が開くことも考えられます。
本試験では併用療法で分けると4群が設定されていますが、FOLFIRI + Bev群だけはOS中央値33.4ヵ月と既報と比べても非常に成績が良好です。他の3群は既報と差はないので、FOLFIRI + Cetuximab群が悪かったわけではなく、FOLFIRI + Bev群がやけにいいです。その理由としては、FOLFIRI + Bev群のKaplan-Meier曲線の最後が伸びていることから、切除例が多く入ったなどが考えられると思います。また、FOLFIRIを併用している症例は、術後補助化学療法でFOLFOXを投与している可能性が高いことも関連しているかもしれません。ただ、いずれにしても情報不足ですね。
小松:今回、6ヵ月ごとに計11回も中間解析を行っていますが、なぜこんなに多いのでしょうか。
室:統計家の先生にお聞きしたところ、この中間解析は恐らく、データクリーニングをせずに毒性の状況や死亡イベント数などを研究者間でシェアする、定期モニタリングのようなものをもとに解析されているのではないか、とのことでした。 今回は無効中止という判断だったので、検定の多重性はそれほど問題にならないとのことです。ただ、少なくとも一般臨床家の立場から、11回も行う意義があるのか、という点が大いに疑問です。
本試験はRAS 解析もありませんが、現時点で治療方針への影響についてはどうお考えでしょうか。
小松:現時点では、従来の治療方針を変える必要はないと思います。ただ、WJOG4407G試験の結果も合わせると、FOLFIRIを先に使うことも考慮していいのではないかと思います。
大村:本試験はまだimmatureなので、FIRE-3試験、PEAK試験の結果を無視することはできないと思います。したがって、OSの延長という面では、抗EGFR抗体薬が少し優位に立っているという状況だと思います。
佐藤 (温):1st-lineにBevを使用する場合は、BBP (Bev beyond progression) を使って2nd-lineでもBevを継続することが多いため、抗EGFR抗体薬を使用するのは3rd-lineが多くなります。しかし、今回の結果を見て、抗EGFR抗体薬をしっかり使ったほうがいいのではないかと改めて考えました。私は1st-lineで使用する薬剤でOSが決まるという考え方にはまだ懐疑的なのですが、確かに1st-lineであれば抗EGFR抗体薬を長く使えます。2nd-lineでもマネジメント次第で長く使うことができますが、3rd-line以降ではあまり使用できないため、抗EGFR抗体薬の有効性を活かしきれないのかもしれません。RegorafenibやTAS-102等3rd-line以降に有用な薬剤が登場してきた現状においては、1st-lineは抗EGFR抗体薬を使用して、2nd-lineからBevをBBPとして使用するか、1st-lineはBevで、2nd-lineに抗EGFR抗体薬を使用するといった、front-lineで抗EGFR抗体薬のうま味を最大限に引き出すことを考えるべきなのかもしれないと感じました。
室:やはり本試験の解釈は分かれるところですね。
小松:本試験のように十数年も続く場合は、時代背景が大きく変化しています。試験開始当初は抗体薬があまり使用されていない時代ですし、それをまとめて結論づけることは無理があるのかもしれません。
室:確かに大事なポイントです。2009年には試験デザインがamendされていますし、時代ごとにサブ解析を行えば、また違った結果が出る可能性がありますね。
それでは最後に、大村先生から今年の米国臨床腫瘍学会年次集会について、まとめのお言葉をいただきたいと思います。
大村:今年の米国臨床腫瘍学会年次集会は始まる前からCALGB80405試験が注目演題でしたが、abstractを見たときには正直、期待はずれという印象でした。しかし、発表を聞き、議論を深めるにつれ、興味も深まった気がします。また、今日の座談会でディスカッションした演題以外にも、興味深い発表があったので、本サイトの演題レポートを見ていただくと役に立つと思います。
室:ありがとうございました。
Lessons from #LBA3
- KRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineにおいて、Bevacizumabに対するCetuximabの優位性は証明されず、FIRE-3試験などの結果と乖離がみられた。その要因については、今後の解析によって明らかになっていくと考えられる。
- RAS 野生型に限定すれば、より差が大きくなると予想される。