2014年 米国臨床腫瘍学会年次集会 現地座談会 non-CRC編

膵癌に関する注目演題

#4022:PANCREOX試験
Gemcitabineを含む化学療法を受けた進行膵癌患者を対象に、2nd-lineとしての5-FU/LV へのL-OHPの上乗せ効果を検討

室:続いて膵癌の注目演題に移りたいと思います。

坂井:PANCREOX試験は、Gemcitabineによる治療を行った膵癌患者に対する2nd-lineとして、5-FU/LVとmFOLFOX6を比較した第III相試験です。

 主要評価項目であるPFSの中央値は、5-FU/LV群2.9ヵ月、mFOLFOX6群3.1ヵ月と有意差は認められませんでした (HR=1.00, p=0.989) (図3)。一方、OS中央値は5-FU/LV群9.9ヵ月、mFOLFOX6群6.1ヵ月であり、有意にmFOLFOX6群が劣っていました (HR=1.78, p=0.024) (図4)

 PFSとOSのサブグループ解析では、70歳未満ではともに5-FU/LV群で良好であり、70歳以上ではmFOLFOX6群で良好と、偏りがみられました (図5)。原因としては、70歳未満におけるmFOLFOX6群でECOG PS 2が有意に多かったことと (2.9% vs. 11.8%, p=0.05)、後治療の施行割合がmFOLFOX6群で少なかったこと (23.1% vs. 6.8%, p=0.015) が指摘されていました。

小松:PSによる層別化はされなかったのでしょうか。

坂井:PSは層別化因子となっていたのですが、70歳で区切った場合に偏ってしまったようです。

室:佐藤温先生、いかがでしょう。

佐藤 (温):膵癌に対する1st-lineとしてFOLFIRINOXが承認されたことにより、L-OHPは膵癌薬物治療のkey drugとしての期待がとても高まっていました。しかし、1st-lineでは、Gemcitabineに対するL-OHPの上乗せ効果を検証する第III相試験が2つ組まれたものの、結果はいずれもnegativeでした1, 2)。また、2nd-lineにおいてもS-1 vs. SOXの国内第II相試験がnegativeであったことを考えると3)、2nd-lineにおけるL-OHP併用の意義は否定的と考えます。L-OHPは1st-lineのFOLFIRINOXとして使用すべきでしょう。

寺島:そもそも膵癌において、2nd-lineは本当に有効なのでしょうか。

佐藤 (温):膵癌診療ガイドラインでは、BSCとの比較結果から2nd-lineが推奨されており、1st-lineに応じてGemcitabineやS-1が使用されています。また、本試験の5-FU/LV群は、2nd-lineとしては好成績が得られています。

坂井:例えば、胃癌では2nd-lineのエビデンスが出る前から日本の実臨床では使用されており、実際に成績も良かったということがありました。膵癌も同じような状況だと言えると思います。

室:Gemcitabine後の2nd-lineとして、5-FU/LVは選択肢になるのでしょうか。

坂井:日本では既に5-FU/LVの代わりにS-1が標準的に使われているので、抵抗はないと思います。

室:高度腹膜播種など経口摂取ができない場合には、5-FU/LVが選択肢になるということですね。

坂井:はい。その場合は、FOLFOXではなく5-FU/LVということになると思います。

佐藤 (温):実際、今回のデータはS-1 vs. SOXの試験と近いです。

寺島:つまり、Gemcitabine後のフッ化ピリミジン系製剤の使用は推奨されるが、そこにL-OHPを併用する意味はないということでしょうか。

佐藤 (温):そう思います。

室:本試験は、第III相試験としては症例数が少ないですね。

坂井:もともと120例程度でPFSを主要評価項目としていることから、デザインとしては無作為化第II相試験の拡大版という認識でもよいかと思います。

室:今後、状態が良い膵癌患者の1st-lineにはFOLFIRINOXが使われるようになると思いますが、その場合の2nd-lineは何が選択されるのでしょうか。

佐藤 (温):まだエビデンスはありませんが、FOLFIRINOXの後はGemcitabineが中心になるのではないでしょうか。FOLFIRINOXが1st-lineで良好な成績が得られているのは、後治療にGemcitabineなどが使用されているからだと思います。

坂井:今年の消化器癌シンポジウムでも、FOLFIRINOX後のGemcitabine + nab-Paclitaxelの報告があり4)、後治療についても良好な結果が出はじめています。

室:それでは、FOLFIRINOX、Gemcitabine、Gemcitabine + nab-Paclitaxelの3つは、1st-lineとしてどのような位置づけになるのでしょうか。

坂井:PS 0の若年者に対してはFOLFIRINOXが第一選択となると思います。ただ、GemcitabineとGemcitabine + nab-Paclitaxelの使い分けはなかなか難しいです。

小松:FOLFIRINOXは全身状態が良好でなければ厳しいので、国内でもmodified FOLFIRINOXの臨床試験が動きはじめています5)

室:ありがとうございました。

Reference
  • 1) Louvet C, et al.: J Clin Oncol. 23(15): 3509-3516, 2005[PubMed
  • 2) Poplin E, et al.: J Clin Oncol. 27(23): 3778-3785, 2009[PubMed
  • 3) Okusaka T, et al.: ESMO2012: abst #P728
  • 4) Zhang Y, et al.: 2014 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #344
  • 5) 化学療法未治療の遠隔転移を有する膵癌に対するL-OHP+CPT-11+5FU/l-LV併用療法modified regimen (mFFX) の第II相試験[UMIN-CTR
Lessons from #4022
  • 膵癌の2nd-lineにおける5-FU/LVへのL-OHPの上乗せ効果は示されず、OSではむしろ5-FU/LVのほうが優っていた。
  • 既報も勘案すると、Gemcitabineによる治療後のフッ化ピリミジン系製剤は有効だが、L-OHPを併用する効果はないと考えられる。

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