中村 将人 先生
社会医療法人財団慈泉会 相澤病院 がん集学治療センター化学療法科 統括医長
今回、伝統ある注目度の高い本速報レポートを初めて担当させていただきました。
学会前日の編集会議では、監修、レポーターの先生方、編集スタッフの方々の熱意に圧倒されました。膨大な演題から、どれを選択し、どのように伝えることが日本の癌治療の現場に役立てられるのか。数多くのabstractをレビューし時間をかけて議論しながら演題を選んでいく作業は、その責任の重みを改めて痛感させられるものでした。
学会は50周年記念ということもあり、大変な盛り上がりをみせました。消化器癌領域ではCALGB80405試験がplenary sessionに選ばれましたが、昨年発表された試験の内容をさらに掘り下げる演題も目立ち、いずれも現在の進行再発大腸癌治療を考えるうえで大変示唆に富む内容でした。また、Clinical Science Symposiaでは膨大な量のサンプルの解析から新しい個別化治療への可能性が示唆されました(#3511)。また、日本から大腸癌転移巣の切除について非常に質の高い発表(#3528)があったことも特筆したいと思います。
発表を聴いたすぐ後にレポートをまとめ、ディスカッションし、コメントをいただき、校正をふまえてwebにアップしていくという作業は、監修、レポーターの先生方、編集スタッフの方々の有能さと体力とチームワーク、そして一番は皆さんの情熱のうえに成り立っているのだということを、まざまざと感じました。心から敬意を表するとともに、感謝したいと思います。特に私の書いたレポートを即時にチェックし、的確なコメントをいただきました大村先生には多くのご指導を仰ぎ、大変貴重な経験となりました。
学会は来年以降も開かれます。これを読まれている方で「敷居が高い」と思われている方がいらっしゃったら、来年はぜひ一歩踏み出してもらえたらと思います。現地で「癌との闘いに必ず勝つんだ!」という熱気にふれ、一緒に感動しましょう!
谷口 浩也 先生 愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
今年の米国臨床腫瘍学会年次集会は第50回の記念大会であり、会場にも50年を振り返る展示がされていました。そんななか、plenary sessionでCALGB80405試験の結果が発表されました。日常臨床を大きく変えるインパクトはありませんでしたが、10年前にこの試験を計画し10年という長い年月をかけて試験を完遂したことに感銘を受けました。
また、新規治療としては、BRAF変異大腸癌に対する分子標的薬のtriple combinationが注目されました。BRAF変異陽性メラノーマには著効するBRAF阻害剤ですが、大腸癌には過去にBRAF阻害剤単剤やMEK阻害剤との2剤併用では効果不十分と報告されています。そんななか、基礎研究を重ねて耐性機構を解明し、抗EGFR抗体とのtriple combinationにより治療効果の大きな改善が報告されました(#3514、#3515)。
両者に共通するのは、諦めないという強い気持ちです。この執念が、この50年間の抗がん剤治療の進歩を支えていたと思います。とあるディスカッサントが「All cancer is becoming rare cancer」と述べていました。個別化治療はどんどん進み治療体系が複雑化します。がんのheterogeneityに打ちのめされることも多いですが、諦めずに努力し続けることが今後50年の大きな飛躍につながると思います。諦めない限り敗北はない、と感じられたことが今年の米国臨床腫瘍学会年次集会に参加した一番の収穫でした。
直接ご指導いただいた寺島先生をはじめ、監修の先生方、スタッフの方々に助けられました。この場を借りて深く感謝申し上げます。
坂井 大介 先生
大阪大学大学院医学系研究科 消化器癌先進化学療法開発学寄附講座 寄附講座 助教
今年初めて、米国臨床腫瘍学会年次集会の演題速報レポーターを担当させていただき、とても貴重な体験となりました。私が担当した演題のうち、Bevacizumabのmaintenanceに関する試験(#3503、#3504)では、維持療法の有用性を評価しつつも、“chemo-holiday”も肯定的に捉える監修の佐藤温先生のコメントが深く心に残りました。また、小腸癌に対する化学療法(#3646)や、KRAS G13D変異に対する臨床試験(#3524)、膵癌の2nd-lineにおけるL-OHPの上乗せ効果(#4022)など、日常診療のヒントになりそうな報告を多く担当させていただきました。
今年の米国臨床腫瘍学会年次集会の消化器癌領域で一番の目玉であった、plenary sessionのCALGB80405試験は、報告された内容が少なく解釈に困る結果でした。逆にその分、自分自身の臨床におけるスタンスなどを慎重に考えるきっかけにもなったように思います。今後、詳細なデータが出てくることを期待したいと思います。
発表された内容をできるだけ分かりやすく、かつ迅速に伝えるということに対してプレッシャーに負けそうになりながらも、なんとかやり遂げられたのも、温かくご指導いただきました佐藤温先生をはじめとする監修の先生方、レポーターの先生方、編集スタッフの皆さまのおかげだと思います。この場を借りて御礼申し上げます。
砂川 優 先生 昭和大学横浜市北部病院 内科 助教
今年消化器癌領域で最も注目されていたCALGB80405試験の結果は、蓋を開けてみれば「期待外れの中間解析」に終わりました。世界中のオンコロジストがこの結果に落胆したようです。多くのデータが未開示で、かつRAS 変異情報のない抗EGFR抗体薬関連の試験結果を議論することは時期尚早と思います。しかしながら、抗EGFR抗体薬を併用する最適なプラットフォームレジメン、並びに欧州 vs. 北米の地域差を今後の議論に加えるというヒントを得たのかもしれません。
今学会の「SCIENCE & SOCIETY」というテーマは臨床医、研究者に対する強いメッセージであったと感じました。これは臨床研究に加えてバイオマーカー研究においても実臨床に還元していく時期に来たことを意味すると考えられます。そんななか、大腸癌領域で多施設が参加したコンソーシアムから1つのバイオマーカー研究結果が発表されたことは大きな一歩であると思います(#3511)。各国、自国内の競い合いだけでなく、「国際共同」研究を行うことにより実地臨床で標準化される新規バイオマーカーが確立されることを望みます。また、昨年度学会に引き続き、今年の学会のhot topicはimmune therapyでした。腫瘍免疫機構に関する分子標的治療薬開発・研究はメラノーマで漸進していますが、今年は腎癌・肺癌などの他癌腫でも発表が目立ちました。加えて、治療効果予測因子としての免疫関連機構に関する乳癌研究も発表されていました。癌腫間の免疫機構の役割の違いはあるものの、消化器癌領域において免疫関連研究に遅速の差があることは否めません。さらに今年の学会プログラムはGIオンコロジストにとって他癌腫の発表を聞く機会が大幅に減らされていました。Bevacizumabで分子標的治療薬の臨床応用の先陣を切った消化器癌領域が、今や他癌腫の分子標的治療経験・研究の後を追うという状況に立たされている。これが今学会の自分にとってのtake-home messageでした。
ご指導いただいた小松先生をはじめ、監修の先生方、レポーターの先生方、編集スタッフの方々にこの場を借りて深く感謝申し上げます。