背景と目的
局所進行直腸癌に対しては、術後の局所再発、全身転移を予防することを目的として周術期治療が行われる。発表者であるGerman CAO/ARO/AIOグループは、直腸癌周術期治療を検討するCAO/ARO/AIO-94試験で、5-FUを用いた術前化学放射線療法→手術→術後補助化学療法を行う群と、手術→術後化学放射線療法→補助化学療法を行う群とを比較し、術前化学放射線療法群が局所再発率を有意に改善することを示した (6% vs. 13%, p=0.006)1)。しかし、10年のフォローアップを行った結果、局所制御率には優れるもののOSの改善は認めなかった (59.6% vs. 59.9%, p=0.85) 2)。
そこで、全身の転移を抑制しOSを改善するためには、より強力な治療が必要と考えられたため、L-OHPを用いた第I/II相試験が行われた3, 4)。これらの結果をもとに、進行直腸癌に対する周術期治療におけるL-OHPの上乗せ効果を検証する第III相無作為化試験として、CAO/ARO/AIO-04試験が行われた。
対象と方法
対象は、病理学的に腺癌と診断され、肛門縁より12cm以内の直腸癌患者であり、ECOG PS 0-2、cT3/4 and/or cN+, cM0の症例であった。なお、stagingにはEUSとCTおよび / もしくはMRIを使って評価された。
主要評価項目は、DFS (disease-free survival) であり、3年DFSを75%から82%に上げるとの仮説のもとに、α=0.05、検出力80%として必要症例数は1,200例であった。また、副次評価項目として、毒性、コンプライアンス、R0切除率、pCR率、腫瘍縮小、再発率、OSが設定された。
標準治療には、German CAO/ARO/AIOグループにおけるベストレジメンである、CAO/ARO/AIO-94レジメンがそのまま設定された。術前放射線50.4Gy + infusional 5-FU (1,000mg/m2, day1-5, 29-33) の後にTMEを行い、術後補助化学療法としてbolus 5-FU (500mg/m2, day1-5) を4週毎に4サイクル投与した (5-FU群) (図1)。
一方、試験治療としては、第I/II相試験の結果をもとに、術前放射線50.4Gy + infusional 5-FU (250mg/m2, day1-14, 22-35) + L-OHP (50mg/m2, day1, 8, 22, 29) 施行後にTMEを行い、術後補助化学療法としてinfusional 5-FU (2,400mg/m2, day1-2) + Leucovorin (LV) (400mg/m2, day1) + L-OHP (100mg/m2, day1) を2週毎に8サイクル投与した (5-FU/L-OHP群)。
図1
結果
2006年7月~2010年2月までに1,265例が登録された。5-FU群637例、5-FU/L-OHP群に628例が無作為に割り付けられ、5-FU群623例、5-FU/L-OHP群613例が適格と判断され解析の対象となった。なお、両群の臨床病理学的背景に有意差を認めなかった。
両群ともに99%に術前化学放射線療法が行われ (図2)、grade 3以上の有害事象は、5-FU群20%、5-FU/L-OHP群24%であった。内容は主に消化管毒性であり、神経毒性を含むその他の毒性に差はなかった。放射線を予定線量投与された症例は、5-FU群96%、5-FU/L-OHP群95%であり、化学療法を予定量投与された症例は、5-FU群79%、5-FU/L-OHP群85%であった。
5-FU群の615例 (99%)、5-FU/L-OHP群の596例 (97%) で手術が行われた。術前化学放射線療法から手術までの期間は両群ともに42日と同等であった。また、術式、術後合併症、術後死亡率は両群で差を認めなかった。
リンパ節郭清個数は5-FU群15個、5-FU/L-OHP群14個であり、手術の質は高かったと考えられる。病理学的に確認されたR0切除率に差はなく、pCR率はそれぞれ13%、17%と、5-FU/L-OHP群で有意に良好であった (p=0.038)。
術後補助化学療法は両群とも76%に投与された。術後補助化学療法が行われなかった理由としては、術後合併症が最も多く、患者拒否、腫瘍進行などが続いた。
図2
術後補助化学療法におけるgrade 3以上の有害事象は、両群ともに36%であり、血液毒性、消化器毒性に差を認めなかったが、grade 3以上の神経毒性は5-FU/L-OHP群で高率であった。なお、投与量の減量を含め、予定されたサイクル数を投与された症例は5-FU群83%、5-FU/L-OHP群79%であった (表1)。
表1
観察期間中央値50ヵ月の時点において主要評価項目であるDFSについて検討を行った。R2切除となった症例は5-FU群10例、5-FU/L-OHP群5例、R0/1切除となった後の局所再発率はそれぞれ23例、12例、遠隔転移はそれぞれ149例、115例であった。
3年DFSは5-FU群71.2%、5-FU/L-OHP群75.9%、5年DFSはそれぞれ64.3%、68.8%であり、5-FU/L-OHP群で有意に良好であった (HR=0.79, 95% CI: 0.64-0.98, p=0.030) (図3)。
図3
事前に計画されていたDFSのサブグループ解析では、61歳未満の若年、男性、cN0症例で5-FU/L-OHP群が有意に良好であった (図4)。
図4
術前化学放射線療法を行った後の切除標本の病理学的所見によるDFSのサブグループ解析では、全体的に5-FU/L-OHP群で良好であったものの、ypT0-1、ypN2、pCRでは不良な傾向にあった (図5)。
図5
遅発性の有害事象については、grade 3以上の有害事象が5-FU群22%、5-FU/L-OHP群26%であり、両群に有意差を認めなかった (表2)。なお、1年以上経過後の5-FU/L-OHP群の神経毒性は5%であった。
表2
OSの検討では、3年OSは5-FU群88.0%、5-FU/L-OHP群88.7%、5年OSはそれぞれ78.3%、78.0%であり、両群に有意差を認めなかった (HR=0.96, 95% CI: 0.72-1.26, p=0.752) (図6)。
図6
結論
L-OHPを併用した、局所進行直腸癌に対する術前化学放射線療法 + 術後補助化学療法は、忍容性、コンプライアンスともに良好であり、pCR率の増加を認めた。治療の質は維持され、76~77%でTMEが行われ、リンパ節郭清個数は14~15個であった。また、L-OHPの投与量は良好であり78%の症例で術後補助化学療法が導入され、そのうち79%の症例で規定されたサイクル数を完遂できた。
主要評価項目であるDFSは、観察期間中央値50ヵ月の時点で3年DFSが71.2% vs. 75.9%と、L-OHP併用により有意に良好な結果であった (HR=0.79, p=0.03)。
コメント
直腸癌の術前 (化学) 放射線療法については多くの臨床試験が行われている。その結果をみると、術前 (化学) 放射線療法には局所再発の抑制効果は認められるものの、いわゆるSwedish rectal cancer trial以外では全生存期間の延長効果はみられていない (座談会参照)。
今年の米国臨床腫瘍学会年次集会では、直腸癌に対する術前化学放射線療法と術後補助化学療法の効果を検討した研究結果の報告が4題あった (下表)。本演題はその1つであるが、両群の術前化学放射線療法と術後補助化学療法における5-FUの投与量と投与法が異なっている。特に術後補助化学療法については、5-FU群が5-FU単独のbolus投与であるのに対し、5-FU/L-OHP群ではinfusional 5-FUにLVとL-OHPが投与されている。純粋にL-OHPの上乗せ効果をみるのであったら、少なくとも5-FU群の術後補助化学療法をinfusional 5-FU/LVにするべきであっただろう。本試験で5-FU/L-OHP群に認められた3年DFSの改善は、#3501の結果と合わせ術後補助化学療法の差によってもたらされたものと考えられる。
演題 | 標準治療 | 試験治療 | setting | 症例数 | 期待値 (3年DFS) |
結果 (3年DFS) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
標準治療 | 試験治療 | 標準治療 | 試験治療 | HR | p値 | |||||
#3603 | Capecitabine or 5-FU + RT | L-OHP併用 | 術前 | 1,284 | 64.2% (5年DFS) |
69.2% (5年DFS) |
0.34 | |||
#3500 | 5-FU + RT | L-OHP併用 | 術前後 | 1,236 | 75% | 82% | 71.2% | 75.9% | 0.79 | 0.03 |
#3501 | Capecitabine + RT | L-OHP併用 | 術前後 | 898 | 65% | 72% | 74.5% | 73.9% | 1.04 | 0.78 |
#3502 | FL | L-OHP併用 | ypStage II/IIIの術後 | 321 | 70% | 78% | 62.9% | 71.6% | 0.63 | 0.032 |
(レポート:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)
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