Bevacizumabの治療効果とk-ras、b-raf、p53 ステータスとの関連性
Ince WL, et al., J Natl Cancer Inst. 2005; 97(13): 981-989
最近実施された臨床第III相試験によって、転移性結腸・直腸癌患者のfirst line治療において、LV/5-FU+CPT-11併用療法(IFL regimen)に抗VEGFモノクロナール抗体bevacizumabを追加するとOS中央値が延長することが示された(IFL+bevacizumab群 と IFL/プラセボ群との比較試験)。本試験の参加者を対象として、k-ras、b-raf、p53
の変異状況あるいは核内P53 過剰発現が、bevacizumabの治療効果を予測するバイオマーカーとなりうるかを評価するために後ろ向き解析を行った。
k-ras、b-raf、p53 の変異を同定するために、試験に参加した813例のうち295例からmicrodissectionにより採取した結腸・直腸癌組織検体(原発癌由来274検体、転移癌由来21検体)をDNA配列解析に供した。核内P53 過剰発現は免疫組織化学検査により決定した。Cox回帰解析によりOSのハザード比と95%CIを推定した。
全てのバイオマーカーサブグループにおいて、IFL+プラセボ群に対するIFL+bevacizumab群の死亡リスクのハザード比は1未満であった。k-ras および/またはb-raf の変異は、両群213例中88例(41%)に認められた。野生型k-ras /b-raf を有する患者の死亡ハザード比は、一方または両方に変異を有する患者と比べると、IFL+bevacizumab群で0.51(95%CI 0.28〜0.95)、IFL+プラセボ群では0.66(0.37〜1.18)であった。p53 の変異は両群205例中139例(68%)、核内P53 過剰発現は両群266例中191例(72%)に認められた。p53 の変異と核内P53 過剰発現は、どちらもOSと統計学的に有意な相関を示さなかった。
今回の検討では、転移性結腸・直腸癌患者に対するIFL療法にbevacizumabを追加することで得られるOS中央値の向上と、k-ras、b-raf、またはp53 の変異との間に有意な相関は認められなかった。
分子標的治療薬の効果予測因子
Bevacizumabは癌の血管新生に深く関わっているVEGFをターゲットとした抗体である。大腸癌の悪性化に関係の深いk-ras、b-raf あるいはp53 遺伝子の変異・過剰発現と、VEGFの発現増強との関連性がいくつかの報告で示唆されており、本報告ではIFL±bevacizumab試験での臨床検体を用い、予後との関係について検討を行った。結果として、予後との関連性は見出せなかったが、これまでの報告と同様に、患者さん全体ではk-ras、b-raf の変異があると死亡リスクが高いことが示された。最近、分子標的治療薬の有用性が確立されつつあるが、その治療コストもしばしば問題となっている。とりわけ抗体医薬では高額な薬剤費が問題となっており、その効果予測に基づいた個別化治療が望まれている。Gefitinibやerlotinibで議論されているEGFRの変異と予後との関係など、その研究分野は着実に前進しており、近い将来、bevacizumabに特異的な効果予測因子(バイオマーカー)の発見も大いに期待される。
監訳・コメント:久留米大学医学部医学科 緒方 裕(外科学講座・助教授)