論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

転移性大腸癌患者に対する5-FU/LVとirinotecanの併用投与:genotype-drivenアプローチによる第I相試験

Genotype-driven phase I study of irinotecan administered in combination with
fluorouracil/leucovorin in patients with metastatic colorectal cancer
Toffoli G, Cecchin E, Gasparini G, D'Andrea M, Azzarello G, Basso U, Mini E, Pessa S, De Mattia E, Lo Re G, Buonadonna A, Nobili S, De Paoli P, Innocenti F.
J Clin Oncol. 2010; 28: 866-871.

 Irinotecanの代謝酵素UGT1A1の遺伝変異の1つであるUGT1A128を有する患者は、重篤な有害事象を招きやすいことが知られている。今回、UGT1A128/28をホモに持つ患者以外、すなわち1/1および1/28患者での本剤の忍容性は28/28患者よりも良好であると仮定し、その最大耐量(MTD)について1st-line治療のレジメンとしてFOLFIRIを施行した転移性大腸癌患者59例を対象に検討した。
 UGT1A11/1および1/28患者に対し、irinotecanをそれぞれ420mg/m2(3例)および370mg/m2(4例)まで増量すると(開始用量はともに215mg/m2)、用量制限毒性(DLT)が各2例で観察された。一方、370mg/m2および310mg/m2を投与した1/1および1/28の各10例ではDLTは認められず、この用量が各集団のMTDとなった。なお、最も高頻度に認められた有害事象はGrade 3/4の好中球減少と下痢であった。
 以上、FOLFIRIでのirinotecanの推奨用量(180mg/m2)は、28/28患者を除いた場合には相当低いことが示唆され、より高用量でのプロスペクティブな検討が必要と考えられた。

監訳者コメント

 Irinotecanの通常使用量は、欧米では180mg/m2のbiweekly、本邦では150mg/m2のbiweeklyというのが標準投与量であり、各国で行われたdose finding試験により決定されている。しかし、これらの投与量はUGTIAIの遺伝子多型がirinotecanの代謝と関わることが知られる前の臨床試験により設定された投与量である。本試験はその代謝のうち、最も好中球減少にかかわるとされるUGT1A128/28と、28をもたない1/1とヘテロに持つ1/28の患者に対して、irinotecanの投与量を増量する試験を行ったところ、1/1は370mg/m21/28は320mg/m2まで増量投与できた事を報告した。いずれも既存の量を大きく越える投与が可能であるというものであった。 従って、遺伝子多型を調整した高用量でのprospectiveな試験が必要であると結論づけているが、果たしてそうであろうか?表を見ると、少数でもレベル1、2でGrade 3以上の重篤な有害事象が発生しているのも事実であり、誰もが安全に投与ができる標準的治療の投与量として相応しいかどうかは十分に議論を重ねる必要がある。また最低投与量が215mgと標準の180mgを越えたところから開始したstudyであるが、全体の奏効率は49%、TTP が219日(約7ヵ月)とPhase Iであるとはいえ、決して通常量であるV308のFOLFIRIの効果と比べても優れた結果ではない。用量依存的に効果が増えるのであれば、有用な考え方ではあるが、bevacizumab、cetuximab、panitumumabなどの優秀な抗体療法の併用により、それ程の副作用もなく、治療効果の上乗せが期待できる現在、irinotecanの増量試験の妥当性は定かではなく、慎重な計画が必要であると思われる。最大耐用量が至適投与量であるかどうかを良く考える必要がある。

監訳・コメント:北海道大学病院腫瘍センター 小松 嘉人(准教授)

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