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大腸癌に対する標準化学療法(FOLFOXまたはFOLFIRI)により誘発される間質性肺疾患の臨床像

Clinical features of interstitial lung disease induced by standard chemotherapy (FOLFOX or FOLFIRI) for colorectal cancer
Shimura T, Fuse N, Yoshino T, Minashi K, Tahara M, Doi T, Joh T, Ohtsu A.
Ann Oncol. 2010, 21 (10) : 2005-2010

 大腸癌において化学療法により誘発される間質性肺疾患(ILD)はきわめて稀であるが、その臨床像は明確にされていない。そこで、国立がん研究センター東病院のデータベースより、2005年4月〜2008年12月にFOLFOXまたはFOLFIRIが行われた大腸癌患者734例を同定し、これらレジメンとILDの発症についてレトロスペクティブに解析した。
 この結果、11例(1.5%)でILDの発症が認められ、うち4例(0.54%)が死亡した。ILDはFOLFOXレジメン(10サイクル実施、oxaliplatin投与量850mg/m2[ともに中央値])施行中に6例、終了後137日目に1例、oxaliplatin休止中に1例で発症し、FOLFIRIレジメン施行中に3例で発症した。なお、11例中10例で化学療法施行前において、肺転移以外の肺野の異常陰影が確認された。
 FOLFOXもしくはFOLFIRIレジメンによるILDの発症は稀であるが、致死的合併症といえる。そのため化学療法施行中のみならず、施行後においてもILDに対する十分な留意が不可欠である。

監訳者コメント

 薬剤性の間質性肺疾患 (ILD)はあらゆる薬剤で起こりえる事象であり、化学療法など薬物療法中の患者で、突然の呼吸器症状やレントゲン写真上の肺野異常陰影が出現した際には、時に致死的となる本事象を常に考慮に入れた対応が必要である。ILDの発現に関して、肺癌ではEGFR阻害のチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブがとみに有名であるが、大腸癌の薬物療法においては抗EGFR抗体薬であるセツキシマブやパニツムマブも、ゲフィチニブほどの頻度では無いものの、十分に注意が必要である。また、オキサリプラチンやイリノテカンでも起きることが報告されている。
 本論文は、分子標的治療薬登場前の一施設における、FOLFIRI, FOLFOX療法の大腸癌化学療法を実施した全症例を検討して、ILDの出現状況、治療内容、転帰をまとめたものである。現在では大腸癌患者のほとんどでベバシズマブやセツキシマブ、パニツムマブといった分子標的治療薬が投与されているので、いわゆる抗がん剤だけの治療におけるILD発症のデータとしては貴重な報告である。その中で、肺転移以外の肺野異常陰影が発症のリスクであること、発症の早期発見とステロイドパルス療法の導入が死亡回避に繋がる可能性が示唆された。
 大腸癌化学療法において、ILDは比較的まれな合併症であるが、致死的となることも決して珍しくなく、救命のためには早期発見が重要なポイントとなり得ることから、常にILDを念頭においた留意が必要である。

監訳・コメント:愛知県がんセンター中央病院・薬物療法部 室 圭(部長)

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