転移性大腸癌に対する2nd-line化学療法としてのirinotecan+S-1(IRIS)と5-FU/LV+irinotecan(FOLFIRI)との比較:第II/III作為化非劣性試験(FIRIS)の結果
Irinotecan plus S-1 (IRIS) versus fluorouracil and folinic acid plus irinotecan (FOLFIRI) as second-line chemotherapy for metastatic colorectal cancer:a randomized phase 2/3 non-inferiority study (FIRIS study).
Muro K, Boku N, Shimada Y, Tsuji A, Sameshima S, Baba H, Satoh T, Denda T, Ina K, Nishina T, Yamaguchi K, Takiuchi H, Esaki T, Tokunaga S, Kuwano H, Komatsu Y, Watanabe M, Hyodo I, Morita S, Sugihara K.
Lancet Oncol., 2010; 11(9):853-860
背景 FOLFOX(5-FU[fluorouracil]/LV[leucovorin]/oxaliplatin)やFOLFIRI(5-FU/LV/irinotecan)といった化学療法は、転移性大腸癌患者に対する標準的な1st-line治療もしくは2nd-line治療として広く用いられている。しかし、静脈内投与によるフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬ベースの治療レジメンは、静注ポートの留置や持続点滴投与が必要となるため簡便な方法とはいえず、また、感染症や血栓症など、カテーテルに起因する合併症を引き起こす可能性がある。
一方、5-FUのプロドラッグであるtegafurにdihydropyrimidine dehydrogenase(DHD)を阻害する5-chloro-2,4-dihydroxypyridine(CDHP)とpotassium oxonateを配合したS-1は、抗腫瘍効果の増強および消化管毒性の軽減を目的に開発された経口のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬であり、転移性大腸癌に対する1st-line治療としてのirinotecan+S-1(IRIS)レジメンを検討した第II相試験から、高い奏効率(RR)および無増悪生存(PFS)期間の延長が確認されている*。
そこで今回、1st-line化学療法が無効であった転移性大腸癌患者を対象に、FOLFIRIに対するIRISの非劣性を検討する第II/III相無作為化試験(FIRIS)を実施した。
対象と方法2006年1月30日〜2008年1月29日にかけて、日本国内の40施設において2nd-line化学療法が必要となった転移性大腸癌患者426例を対象とし、FOLFIRI群(213例)またはIRIS群(213例)に無作為に割り付けた。投与法は、FOLFIRI群ではLV 200mg/m2とirinotecan 150mg/m2に続いてbolus 5-FU 400mg/m2を第1日目に、そしてinfusional 5-FU 2,400mg/m2を46時間かけて投与し、2週間ごとに繰り返した(1サイクル4週間)。IRIS群ではirinotecan 125mg/m2を第1日目と第15日目に投与するとともに、S-1は体表面積に応じて40〜60mgを第1〜14日目に1日2回投与し、4週間ごとに繰り返した。なお、治療は病勢進行が認められる、忍容性が得られなくなる、または患者が拒否するまで継続することとした。
1次エンドポイントはPFS期間であり、Cox回帰分析による許容可能な非劣性の限界値(ハザード比[HR])を1.333とした。また、2次エンドポイントは全生存(OS)期間、RRおよび安全性とした。
結果 FOLFIRI群、IRIS群の年齢(中央値)はそれぞれ63.0歳および61.0歳、oxaliplatinによる前治療歴の割合は60.1%および60.6%であった。また、転移部位2ヵ所以上の割合はそれぞれ56.3%および58.2%と両群間に差はなく、ECOG performance statusや組織型といった背景にも群間差は認められなかった。なお、観察期間中央値は12.9ヵ月、治療サイクルの平均値はFOLFIRI群4.7サイクル、IRIS群4.9サイクルとなった。
FOLFIRI群、IRIS群のPFS期間中央値はそれぞれ5.1ヵ月および5.8ヵ月となり、FOLFIRI群に対するIRIS群の補正HRは1.077(95%信頼区間[CI] 0.879〜1.319、p=0.039)となった。OS期間中央値はそれぞれ18.2ヵ月および19.5ヵ月、補正HRは0.909(95%CI 0.699〜1.181)となり、RR(CR+PR)はそれぞれ16.7%および18.8%となった。
なお、oxaliplatinによる前治療歴の有無により層別した場合、前治療歴のある患者におけるPFS期間中央値はFOLFIRI群の3.9ヵ月に対してIRIS群で5.7ヵ月となったが(補正HR 0.876[95%CI 0.677〜1.133])、治療歴のない患者ではそれぞれ7.8ヵ月および6.0ヵ月となり(補正HR 1.490[95%CI 1.079〜2.059])、OSに関しても同様の傾向が認められた。
FOLFIRI群、IRIS群で高頻度に認められたgrade 3/4の有害事象は好中球減少(52.1% vs 36.2%[p=0.0012])、白血球減少(15.6% vs 18.1%[p=0.5178])、下痢(4.7% vs 20.5%[p<0.0001])であった。
考察 転移性大腸癌に対する2nd-line治療としてのIRISレジメンは、PFSに関してFOLFIRIレジメンに劣るものでなく、同等の治療効果が得られることが確認された。したがって、投与法がより簡便なIRISレジメンは、転移性大腸癌の2nd-line治療における選択肢の1つになりうると示唆される。
本試験は、わが国国内施設で行われた大腸癌化学療法におけるはじめての第III相試験で、しかも成功した報告である。これまでは第II相試験が主体で、それ以上の進展をみていなかったが、5-fluorouracilの経口剤を開発してひろく頒布させた責任上、静注薬剤と比較試験はぜひとも必要であった。
IRISはこの状況下に考案されたS-1とCPT-11を組み合わせるもので、第II相試験の結果では奏効率53%、無増悪生存320日と良好な成績を収めていた。経口剤を用いることで、ポート留置や48時間の拘束などから開放されることは、QOLの維持の一助となるものと考えられたのは当然である。
持続静注を基本とするFOLFIRIと同等であるということを証明するのはきわめて重要な課題であった。そこで組まれたこの試験は1st-line の不応例に対する2nd-lineでのIRIS、FOLFIRIの非劣勢を40施設から426例の集積を得て検討している。その結果、それぞれの投与法で有害事象、副作用の出現に固有の差はあるが、primary endpointであるPFSは非劣勢が証明された(p=0039)。
このことから、今まで欧米諸国でcapecitabineだけで証明されてきた5-fluorouracilの経口剤の有用性が、わが国ではS-1で証明されたことになる。今後は1st-lineでの試験が待たれる。
監訳・コメント:三沢市立三沢病院 坂田 優(院長)
*Yuki S, et al.: ASCO-GI cancers symposium 2009, abst #463
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