KRAS遺伝子野生型の切除不能な大腸癌患者におけるcetuximabベース化学療法の有効性の代替マーカーとしての血中マグネシウム濃度の早期低下
Early magnesium modifications as a surrogate marker of efficacy of cetuximab-based anticancer treatment in KRAS wild-type advanced colorectal cancer patients
Vincenzi B, Galluzzo S, Santini D, Rocci L, Loupakis F, Correale P, Addeo R, Zoccoli A, Napolitano A, Graziano F, Ruzzo A, Falcone A, Francini G, Dicuonzo G, Tonini G.
Ann Oncol. 2010 Nov 29. [Epub ahead of print]
背景
EGFR(epidermal growth factor receptor:上皮細胞増殖因子受容体)を標的としたヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体のcetuximabは
、既存の化学療法との併用により転移を有する大腸癌患者に対して優れた有効性を示すことが各種臨床試験より確認されているが、その効果はKRAS遺伝子野生型患者に限定されることが明らかになっている。一方、cetuximabベースの化学療法において、低マグネシウム血症は留意すべき有害事象の1つと考えられているが、cetuximab+irinotecanにて治療した転移を有する大腸癌患者で観察された血中マグネシウム濃度の低下は、KRAS遺伝子変異状態とは無関係に有効性と関連したことから、本剤による治療効果および予後の予測に有用であることが最近の研究によって示唆されている。
そこで今回、こうした見解をより明確にすべく、cetuximabベースの化学療法を施行したKRAS遺伝子野生型の切除不能な大腸癌患者を対象に、早期の低マグネシウム血症が本剤による治療効果および予後の予測マーカーになり得るかどうかを検討した。
対象と方法対象は、oxaliplatinベースおよびirinotecanベース化学療法が無効となり、3rd-line治療としてc e t u x i m a b(初回用量400mg/m2、維持用量250 mg/m2週1回)およびirinotecan(90mg/m2週1回)が投与されたKRAS遺伝子野生型のStageW大腸癌患者143例である。患者の年齢中央値は62歳(範囲31〜83歳)、男性が56.6%を占め、原発部位は結腸91例および直腸52例、転移部位数は1ヵ所56.6%、2ヵ所28%、3ヵ所以上16.1%、転移部位は肝臓60.1%、肺37.1%などであった。
血中マグネシウム濃度は治療開始前、開始初日、開始7、14、21および28日後に測定し、腫瘍縮小効果および病勢進行までの期間(TTP)ならびに全生存(OS)との関連を評価した。
結果血中マグネシウム濃度は治療開始7日後に有意に低下し(p=0.04)、開始28日後に統計学的に最も有意な低下を認めた(p<0.0001)。
治療開始28日後までの血中マグネシウム濃度の低下50%をカットオフ値に患者を2群に分類すると、50%超の低下が認められた患者では50%以下の低下であった患者と比較して有意に高い奏効率が得られることが示された(55.8% vs 16.7%、p<0.0001)。また、TTP中央値はそれぞれ6.3ヵ月および3.6ヵ月(p<0.0001)、OS期間中央値はそれぞれ11.1ヵ月および8.1ヵ月(p=0.002)となり、50%超の低下例で治療効果の有意な改善が認められた。なお、血中マグネシウム濃度の低下を20%未満、20〜50%、50〜70%、70%超に分類した場合、TTPおよびOSは20%未満低下例と20〜50%低下例との間で統計学的な有意差はなく、カットオフ値とした50%は妥当と考えられた。
さらに、cetuximabの特徴的な有害事象である皮膚障害(ざ瘡様皮膚炎)の重症度(grade 0/1/2および3)によって患者を2群に分類すると、grade 3のざ瘡様皮膚炎発現例ではそれ以下のgradeの発現例と比較して有意に高い奏効率が得られた(44.0% vs 38.2%、p=0.012)。また、TTP中央値にも有意差を認めたが(5.7ヵ月 vs4.4ヵ月、p=0.04)、OS期間中央値については有意とならず(10.71ヵ月 vs 9.03ヵ月、p=0.101)、多変量解析より今回の検討集団においては、皮膚障害よりもマグネシウム低下がより強い予後因子であることが示唆された。
結論以上より、cetuximabベースの化学療法を施行したKRAS遺伝子野生型の切除不能な大腸癌患者では、早期の低マグネシウム血症が本剤による腫瘍縮小効果や予後の予測因子になり得ることが示唆された。循環血中マグネシウム濃度の日常的な測定は容易でしかも安価であることから、有用なバイオマーカーの候補として期待される。
抗EGFR抗体薬を使用するに際し、皮膚障害が最も注目すべき障害であり、それに対してさまざまな軟膏療法で治療が行われている。皮膚障害をいかに調整するかが治療の継続に重要なポイントとなっている。一方、低マグネシウム血症も留意すべき合併症の一つとして指摘されているが、皮膚障害ほど強調されていない。低マグネシウム血症により、痙攣や意識障害が出現し、治療中は血中マグネシウムをチェックすることは重要である。本論文では、治療後早期の低マグネシウム血症が治療効果および予後の予測に有用であったことを示した点が注目に値する。
皮膚障害の程度が抗EGFR抗体薬の効果と生の相関を示すことは広く認識されているが、客観的評価は難しい。50%を超える血中マグネシウムの低下が高い抗腫瘍効果を示したことと相関し、さらに多変量解析でも皮膚障害よりも強い予後因子であったことは、治療中の血中マグネシウムのモニタリングが抗EGFR抗体薬の効果を客観的に予測できる可能性が示唆され、大変興味深い。日常の検査で容易に安価で測定でき、その臨床的意識は大きいと思われる。
監訳・コメント:がん・感染症センター都立駒込病院 高橋 慶一(大腸外科・部長)
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