StageIIおよびIIIの大腸癌における予後予測を改善するための遺伝子発現サイン
Salazar R, Roepman P, Capella G, Moreno V, Simon I, Dreezen C, Lopez-Doriga A, Santos C,
Marijnen C, Westerga J, Bruin S, Kerr D, Kuppen P, van de
Velde C, Morreau H,
Van Velthuysen L,
Glas AM, Van't Veer LJ, Tollenaar R.
J Clin Oncol 2011; 29(1): 17-24.
背景
これまで数多くの臨床試験が実施されてきたにもかかわらず、StageII大腸癌患者に対する術後補助化学療法の有益性はいまだ議論の余地があると考えられており、このような化学療法を推奨する明確なガイドラインは存在しない。一方、StageIII大腸癌患者に対しては、各種ガイドラインにて術後補助化学療法が広く推奨されているため、StageII B例よりもStageIII A例で生存期間のより有意な延長が認められるといった事態招いている。したがって、StageII例に対して術後補助化学療法を施行するか否かの判断に際しては、患者の予後をより正確に予測することが重要となるが、現在までのところStageII例における再発リスクの重要な予測因子としては数種類の臨床病理学的パラメータが、そして分子マーカーとしては、マイクロサテライト不安定性(MSI)が唯一示されているに過ぎない。
こうしたなか、マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析の進歩により、遺伝子発現プロファイルが患者の予後予測に役立つことが明らかにされつつある。そこで本検討では、遺伝子発現解析によって早期大腸癌患者での再発リスクをより的確に層別できる新規ツールの開発および検証を行うこととした。
対象と方法対象は、1983〜2002年においてオランダの3施設などで手術が行われた大腸癌患者188例である。年齢の中央値は67.9歳、男性が44.7%、StageIIおよびIIIがそれぞれ53.2%および29.8%、術後補助化学療法未施行が78.7%を占め、観察期間の中央値は65.1ヵ月であった。これら患者より得られた新鮮凍結腫瘍組織について、Agilent社の44K Oligonucleotide Arrayを用いて遺伝子発現プロファイルの変化を検出・解析し、大腸癌との関連が示唆される遺伝子を同定するとともに、これら遺伝子によって再発リスクを層別するツール
“ColoPrint”を開発した。
そして、このツールの有用性について、1996〜2004年においてスペインの施設で手術が行われたStageT〜III大腸癌患者206例(年齢中央値69歳、男性64.1%、StageII55.3%およびIII30.2%、術後補助化学療法未施行60.7%)をサンプルに検証した。
結果大腸癌患者の生存と関連する18の遺伝子が同定され、これらを用いて“ColoPrint”を構築した。その結果、検証用サンプルにおいて患者の60%が低リスク、40%が高リスクに分類され、5年無再発生存(RFS)率は低リスク例で87.6%(95%信頼区間[CI] 81.5〜93.7)、高リスク例で67.2%(95%CI 55.4〜79.0)となり(p=0.003)、低リスク例で有意に高値であった(ハザード比[HR] 2.5[95%CI 1.33〜4.73]、p=0.005)。なかでもStageII患者におけるリスク層別化において“ColoPrint”が有用であることが確認された(90.9% vs 73.9%[p=0.012]、HR 3.34[p=0.017])。
また、多変量解析からも“ColoPrint”によるリスク層別化は再発を予測する有意な因子の1つであることが示され(HR 2.69[95%CI1.41〜5.14]、p=0.003)、なかでもStageII患者においてその有用性が確認された(HR 3.29[95%CI 1.24〜8.83]、p=0.018)。
さらに、StageII患者における“ColoPrint”によるリスク層別化は、術後補助化学療法の施行前にMSIの検査を実施することなく再発リスクを予測するASCO(American Society of Clinical Oncology)
の評価基準と比べてより優れていることが示された。
結論遺伝子発現プロファイルに基づく“ColoPrint”は、StageII/III大
腸癌患者に対する既知の因子による予後予測精度の顕著な改善をもたらすことが示唆された。現在、“ColoPrint”の有用性を明らかにするためのさらなる検証が世界規模にて進行中であるが、本ツールは術後補助化学療法を施行せずとも良好な予後が得られるStageII患者の同定を容易にする可能性がある。
大腸癌の病期分類はT・N・M因子で分類されてきた。TNMを組み合わせたstageはもっとも予後を推定する臨床病期分類として国際的にも評価されているが、治療方法の選択において、必ずしも境界領域をクリアに規定することができない場合がある。ハイリスクStage IIというグループであり、これらの予後は、より進行期に分類されるStage IIIの一部よりも予後が不良であることが知られている。術後補助療法の適応を検討する上で、この境界領域をどのように取り扱うかは、治癒可能な術後補助療法の対象であることから大きな問題である。
今回のColoPrintは、遺伝子発現プロファイルにより予後予測を行なう方法であり、ハイリスク群に対して積極的に補助療法を実施するという治療戦略を構築する上で重要な知見である。従来のMSI検査に加えて、あるいは単独で、対象症例の絞り込みが可能となれば大きな治療成績向上を期待することができる。今回の検討はオランダとスペインの手術例の後方視的解析結果であり、今後手術成績の異なる国内においても前向きに検証する価値があると考える。
監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 島田 安博(消化管内科・科長)
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