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転移を有する大腸癌に対する1st-line治療としてのcetuximab+FOLFOX4のバイオマーカー状態による 有効性 : OPUS試験の成績

Efficacy according to biomarker status of cetuximab plus FOLFOX-4 as first-line treatment for metastatic colorectal cancer: the OPUS study.
Bokemeyer C, Bondarenko I, Hartmann JT, de Braud F, Schuch G, Zubel A, Celik I, Schlichting M, Koralewski P.
Ann Oncol. 2011 [Epub ahead of print]

背景切除不能な転移を有する大腸癌に対して、抗EGFR(epidermal growth factorreceptor:上皮細胞増殖因子受容体)モノクローナル抗体であるcetuximabは、標準化学療法との併用により生存期間を延長させることが証明されている。また、こうした患者に対する1st-line治療としてcetuximab+FOLFOX4(infusional 5-FU[fluorouracil]/LV[leucovorin]/oxaliplatin)の有効性は、codon12または13領域のKRAS遺伝子変異状態によって予測可能との結論が第II相無作為試験OPUS(Oxaliplatin and Cetuximab in First-Line Treatment of Metastatic Colorectal Cancer)より得られており、cetuximabの適応はKRAS遺伝子野生型患者に限定されることが明確になっている。
 こうしたなか、KRASの下流に位置するBRAFの遺伝子変異状態が、このような患者での抗EGFR抗体の治療効果および予後を予測することがいくつかの試験のレトロスペクティブ解析より示唆されており、KRAS遺伝子野生型患者にcetuximabを投与するにはBRAF遺伝子変異(V600E)状態についても考慮が必要と指摘される。
 そこで今回、KRAS遺伝子解析例をさらに加えたOPUS試験のデータより、2つの遺伝子変異状態がcetuximabによる治療効果に及ぼす影響を評価した。
対象と方法切除不能な転移を有する大腸癌患者337例を、1st-line治療としてcetuximab(初回用量400mg/m2点滴静注、その後250mg/m2週1回点滴静注)とFOLFOX4(oxaliplatin 85mg/m2点滴静注、LV200mg/m2点滴静注、5-FU 400mg/m2 bolus+600mg/m2持続静注[2週間間隔])併用投与(併用群)またはFOLFOX4単独投与(単独群)に割り付け、病勢進行または忍容性が得られなくなるまで継続した。
 主要評価項目は腫瘍縮小効果(全奏効率)、副次的評価項目は無増悪生存(PFS)、全生存(OS)および安全性とし、これら項目とKRAS 遺伝子変異状態(全例中315例で評価可能)およびBRAF遺伝子変異状態(315例中309例で解析可能)との関連をレトロスペクティブに解析した。
結果KRAS遺伝子解析可能例のうち179例(57%)が野生型であった。KRAS遺伝子野生型患者において、単独群(97例)に対し併用群(82例)で全奏効率(オッズ比[OR]2.551、p=0.0027)およびPFS期間(ハザード比[HR]0.567、p=0.0064)の有意な改善が認められた。また、OS期間についても併用群で改善したが、単独群 との有意差はなかった(HR 0.855、p=0.39)。一方、KRAS遺伝子変異型患者(136例)においては、単独群(59例)に対し併用群(77例)で全奏効率の低下(OR 0.459、p=0.0290)およびPFS期間の短縮(HR 1.720、p=0.0153)が認められ、OS期間も単独群との差はないものの併用群で短縮した(HR 1.290、p=0.20)。
 併用群においては、KRAS遺伝子変異型患者(77例)に対し野生型患者(82例)でOS期間の有意な改善が認められたが(HR 0.632、p=0.013)、単独群では変異状態による差はみられなかった(HR 0.928、p=0.70)。
 BRAF遺伝子変異は309例中11例(4%)で検出された(併用群6例、単独群5例)。KRASおよびBRAF遺伝子がともに野生型の164例における有効性はKRAS遺伝子野生型患者における成績と同等で、単独群(92例)に対する併用群(72例)での全奏効率(OR 2.649、p=0.0029)およびPFS期間(HR 0.556、p=0.0083)の有意な改善を認めた。また、KRAS遺伝子野生型/BRAF遺伝子変異型患者11例においては、単独群に対し併用群でOS期間中央値の延長が認められた(20.7ヵ月 vs 4.4ヵ月)
結論KRAS遺伝子野生型の転移を有する大腸癌患者に対する1st-line治療として、FOLFOX4にcetuximabを上乗せした場合の有効性が確認されるとともに、KRAS遺伝子変異状態は効果予測のためのバイオマーカーであることが明確になった。ただし、BRAF遺伝子については変異型患者がきわめて少数であったため、効果予測因子や予後予測因子となりうるかを明確に結論づけることはできなかった。

監訳者コメント

 最近の大腸癌薬物療法の世界では、有力な新薬の登場が無く、もっぱらバイオマーカーによる後方視的研究報告が増えている。2011年のASCOにおいても、その傾向が強かった。本報告もOPUS試験のサブ解析報告と言える。他の報告をみてもKRAS遺伝子は、野生型であれば抗EGFR抗体薬の投与により生存期間に十分な延長がみられ、KRAS遺伝子変異は効果予測のための有力なバイオマーカーであることが示されているが、本報告でも同様な結果が再現されている。
 BRAFに関しては、CRYSTAL 試験の報告からも、BRAFが変異型だった場合、セツキシマブ使用の有無にかかわらず、全生存期間が極めて悪いことが報告されている。しかし、本報告では、全309例のうち11例(4%)にBRAF変異が認められたが、セツキシマブ併用群の2例では奏効であり、全体でも併用群において生存期間の延長が認められたという、CRYSTAL 試験とは異なる結果となってしまった。
 筆者らは、BRAF変異型症例数が少なすぎるため、この結果により予後や効果因子としての可能性を解析するには至らないと結論している。BRAFに関しての他の報告も、いずれも既存の臨床試験の少数のサブ解析による報告であり、それらがいくら報告されても信頼に足る結果には至らない。数的に言えば、多施設共同国際臨床試験により前方視的試験による証明が望ましいが、このような僅かなpopulationの患者効果に対して大規模な試験を実施することは極めて難しいため、他のもっと有効なバイオマーカーを検索することの方が現実的であろうが、これもまた大変困難な事である。今後の様々なバイオマーカー探索研究にも注目して行きたい。

監訳・コメント:北海道大学病院腫瘍センター 小松 嘉人(准教授)

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