MRIによる下部直腸癌の長期予後に関する予測因子
MRI Predictive Factors for long-term outcomes of low rectal tumours.
Shihab OC, Taylor F, Salerno G, Heald RJ, Quirke P, Moran BJ, Brown G.
Ann Surg Oncol. 18 May 2011; Epub ahead of print.
背景直腸癌のなかでも特に下部直腸に認められる腫瘍は、局所再発率が高く、予後不良とされている。こうしたなか、直腸癌患者を対象としたプロスペクティブな大規模多施設研究から、MRIによる術前評価によって切除縁における腫瘍の有無を高い精度で予測できることが証明されている。
切除縁陽性は局所再発の最も重要な因子であるため、術前におけるMRI画像診断が局所再発の回避を目的とした術前治療の決定に有用であることが明らかとなっている。なお、MRIは欧州の多くの施設で直腸癌の病期診断に用いられているが、下部直腸では解剖学的な理由により通常のMRIでは正確な病期診断を下すことが困難との指摘がある。しかし、こうした課題は体幹用/骨盤用のphase-array coilを利用したMRIのT2強調画像による描出により、正確かつ明確に診断することが可能とされている。
したがって、このような高分解能MRIにより、切除縁における腫瘍の有無、局所における腫瘍の進展範囲、術前補助療法に対する治療効果の程度、腫瘍の詳細な位置の観察が可能で、こうした所見が予後因子として有用であるとしたら、より適切な術前治療を選択することができ、肛門括約筋温存手術の施行率増加をもたらすと考えられる。
そこで今回、高分解能MRIにより得られた各種因子の長期予後予測における有用性を評価するプロスペクティブな大規模多施設研究を実施した。
対象と方法 対象は、腫瘍の下縁が肛門縁から5cm以内に存在する下部直腸癌患者101例である(年齢中央値68歳[範囲29〜88歳])。
これら患者に体幹用/骨盤用のphase-array coilを用いたMRI(T2強調画像)検査を実施し、集学的治療チームの治療方針決定、手術方法、病理組織所見および長期予後に関する情報についてブラインドされた熟練放射線専門医が画像データを解析した。そして、解析データから得られた切除縁1mm以内の腫瘍の有無、肛門挙筋または括約筋部位の腫瘍の最大進展範囲(MRI low rectal stage[1;「内肛門括約筋の筋層に浸潤なし」〜4;「外肛門括約筋、肛門挙筋に浸潤±隣接臓器に浸潤」の4段階に分類])、術前補助化学療法による腫瘍縮小グレード(MRI TRG[1;「放射線学的完全奏効」〜5;「無効」の5段階に分類])などの5年再発率および生存率との関連についてCox回帰モデルを用いて評価した。
結果手術方法として70例で腹会陰式直腸切除術(APE)、31例で低位前方切除術(LAR)が施行された。また、術前治療としてAPE施行例中45例で放射線化学療法が、LAR施行例中10例で放射線化学療法(6例)または短期放射線療法(4例)が行われた。なお、長期にわたる術前補助化学療法が行われた51例のうち治療前後にMRI検査が実施され、MRI TRGの解析が可能となったのは36例であった。
単変量解析において、より進行したMRI low rectal stage 3〜4は早期のstage 1〜2と比較し、5年再発(p=0.005)、局所再発(p=0.026)、遠隔再発(p=0.020)および死亡(p=0.020)と有意に関連し、また、不良なMRI TRG 4〜5は良好なTRG 1〜3と比較し、5年再発(p=0.003)、遠隔再発(p=0.004)および死亡(p=0.003)と有意に関連していた。また、切除縁1mm以内の腫瘍ありは腫瘍なしと比較し、5年再発(p=0.026)、局所再発(p=0.023)、遠隔再発(p=0.046)と有意に関連していた。
多変量解析において、術前および治療前ではMRI low rectal stageが再発および遠隔再発の予測因子となり、術前および治療後ではMRI TRGが再発、遠隔再発および死亡の予測因子となった。また術後では、病理学的な切除縁1mm以内の腫瘍の有無が再発、局所再発、死亡の、病理学的T病期が再発、遠隔再発および死亡の、病理学的N病期が再発および遠隔再発の予測因子となった。
結論本研究は、MRI TRGと長期予後との関連を明らかにした初めての報告であり、高分解能MRIが術後再発リスクの高い下部直腸癌患者の予後予測に有用であることが証明された。今後さらなる検証が必要である。
直腸癌の予後は遠隔転移もさることながら、局所再発が重要な要因を占めている。この局所再発をいかに早期に、範囲を含めて検索、検出するかが治療の効果と予後を左右する。
これまで時にPET、CT、MRIなどの画像診断による有用性がいわれていたが、本論文では、高分解能MRIの登場によりプロスペクティブな予後予測を初めて示したもので、患者にとって福音の一つとなろう。
監訳・コメント:三沢市立三沢病院 坂田 優(院長)
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