監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
切除不能な大腸癌治療における逐次化学療法 vs 併用化学療法(FFCD200-05):第III相オープンラベル無作為化試験
Ducreux M. et al., Lancet Oncol., 2011; 12: 1032-1044
切除不能な大腸癌患者の多くにとって、治療の目的は治癒ではなく、余命の延長とQOLの改善または少なくとも維持、および治療による有害事象を最低限に保つこと、などである。こうした患者にとって過去数十年、5-FUによる治療が唯一の標準治療であり、標的療法到来前の時代においては5-FUにL-OHPやCPT-11を併用する化学療法により生存期間の中央値が最大に延長されていた。そのため実臨床でのfirst-line治療ではこの3剤の併用療法が主流となっている。しかしこの治療法は5-FU単独療法に比べ毒性が強く費用もかかるのが問題である。
本試験では、切除不能大腸癌患者を対象に逐次療法(first-line治療として5-FU+LV[LV5FU2]、second-line治療としてLV5FU2+L-OHP[FOLFOX6]、third-line治療としてLV5FU2+CPT-11[FOLFILI])と併用療法(first-line治療としてFOLFOX6、second-line治療としてFOLFILI)に無作為に割り付け、併用療法でPFSを改善するかを検討した。各ラインの治療コースは2週ごと、PDまたは忍容不能な毒性が認められるまで続行した。逐次療法群のfourth-line以降および併用療法群のthird-line以降は、その都度適格患者のみに対し、治験担当医の裁量で実施を決定した。
対象は18歳以上の切除不能大腸癌患者でWHOのPS 0〜2、転移病変に対する化学療法歴のない症例などとした。L-OHPを除く術後補助化学療法歴は、最終投与が無作為化の6ヵ月以上前なら適格とした。
主要評価項目はsecond-line治療開始以降のPFS(PFS2:無作為化から、second-line治療開始後最初の病勢進行または死因にかかわりなく死亡が報告されるまでの期間)、副次評価項目は奏効率、first-line治療のPFS(PFS1:無作為化からPDまたは死亡が最初に報告されるまでの期間)、third-line治療以降のPFS(PFS3:無作為化からthird-line治療以降最初のPDまたは死亡の徴候が認められるまでの期間、または最後に生存が確認された日までの期間)、OS、安全性、およびQOLとした。追跡期間中央値は36ヵ月であった(切除不能大腸癌に対するbevacizumab使用が認可されたことにより患者登録が激減したため、試験は予定されていた中間解析の前に終了した)。
2002年2月〜2006年2月に410例(各群205例;以下、逐次群、併用群または逐次群 vs 併用群で示す)を無作に割り付けた。患者の主な背景因子は、男性123例 vs 130例、年齢中央値66歳 vs 68歳(70歳以上は72例 vs 87例)、PS2は32例vs 33例などである。転移病変部位数≧2は各群98例ずつであった。
First-line治療はそれぞれ203例ずつ、second-line治療は156例、150例、third-line治療は112例、91例が受けた。
解析時、410例中322例(各群161例ずつ)が死亡していた。PFS1は5.3ヵ月 vs 7.6ヵ月(p=0.0004)、PFS2は10.5ヵ月 vs 10.3ヵ月(イベント数188 vs 190、HR 0.95、p=0.61)、PFS3は13.2ヵ月 vs 12.9ヵ月(p=0.62)、OSは16.4ヵ月 vs 16.2ヵ月、p=0.85)で、PFS1以外は有意差は認められなかった。
OSに関しては転移病変部位が2つ以上の患者、予後不良の患者は併用療法のベネフィットを、病変部位が1つまたは予後良好の患者は逐次療法のベネフィットをより受けると考えられた。
ORR(CR+PR)は、first-line治療が24% vs 58%(p<0.0001)、second-line治療が21% vs 11%(p=0.02)、third-line治療が8% vs 9%(p=0.85)であり、疾患制御率(CR+PR+SD)もsecond-line治療まではORRと同様であったが、third-line治療では逐次群が有意に高かった(47% vs 24%、p=0.0007)。
First-line治療期間中の副作用発生頻度は、グレード3/4の血液毒性(12 vs 83イベント、p<0.0001)も非血液毒性(26 vs 186イベント、p<0.0001)も逐次群のほうが有意に低く、治療全期間を通じても逐次群で有意に頻度が低かった(second-line治療のみは有意差なし)。
治療の副作用による死亡は併用群で6例あったが(first-line4例、second-line2例)、逐次群には認められなかった(p=0.03)。
QOLは逐次群140例、併用群141例で評価したところ、全般的健康状態および身体機能に関する有意差はなかった。
以上のように、切除不能大腸癌患者のfrontline治療において併用療法(FOLFIRI→FOLFOX6)は同剤を使用した逐次療法(LV5FU2→FOLFOX6→FOLFIRI)と比較して優れた効果は認められず、かつ毒性が強かった。標的療法の時代において、5-FU単剤+bevacizumabによるfirst-line治療は安全かつ有効であるが、併用療法が適さないとして受けられない患者が多い。本試験から、first-line治療の強度を軽減しても生命予後に影響を及ぼさないことが示唆されたことから、今後は本試験と同様のデザインで5-FUとbevacizumabなどの新薬をfrontline治療として併用する方法を検討し、多くの患者にこのアプローチを適用することが望まれる。
全ての患者に初回からのintensiveな化学療法が必要なのか?
本試験は逐次化学療法と現時点でのスタンダードである併用化学療法の効果を比較した試験である。本来の目的は併用療法でのPFS改善を期待したものであったが,結果としてfirst lineをLV5FU2で始めた逐次化学療法群においてOSで併用化学療法群に劣らず、副作用が少ない結果となりその有用性を示すものとなった。実臨床において化学療法の効果によって早期の症状改善やconversionを目指す患者は多くはない。であればQOLが維持できてOSが見込める方法は多くの患者にとってメリットとなる。この試験はFOCUS試験やCAIRO試験と共に今後の臨床試験のあり方を示す1つとなりうるであろう。また、逐次化学療法の有用性が示されたことは各々の患者に逐次もしくは併用のどちらを適応するのが良いかの判断の重要さが増すものと思われ、指標となるものも必要と考えられる。このことは現在トレンドとも言うべき個別化医療において色々なバイオマーカーが検討されており、期待したい。さらに、本試験も含め逐次化学療法を検討した試験においてfrontlineでの分子標的治療薬の使用は行われておらず、今後の検討課題であろう。特にbevacizumabは維持療法などでの有用性が報告されており、逐次化学療法においてkey drugの1つとなる可能性がある。
監訳・コメント:市立豊中病院 畑 泰司(下部消化管外科・医長)
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