論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

ステージII結腸癌患者の再発リスク評価に関する定量的多重遺伝子逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法の検証

Gray R.G. et al., J Clin Oncol. 2011; 29(35): 4611-4619

 結腸癌に対する術後補助化学療法によるベネフィットは主に再発のリスクで判断される。ステージIII(リンパ節陽性)の患者については化学療法からベネフィットが得られるというコンセンサスがあるが、ステージIIの場合は、毒性、費用、および煩雑さと見合うベネフィットがあるかどうかは不明である。標準リスクに分類されているステージIIの患者の多くにおけるリスク評価および術後補助化学療法のベネフィット予測のための分子マーカーの研究もいくつか行われているものの、臨床的決定を下すほどの信頼性は確立されていない。そこで、多重遺伝子逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)に基づく遺伝子発現アッセイを用いたアルゴリズムにより、ステージII結腸癌患者の再発リスクと化学療法によるベネフィットを評価した。この方法は、再発に関する7つの遺伝子に基づく再発スコア(RS)、および5-FU/LVの臨床的ベネフィットを予測する6つの遺伝子に基づく治療スコア(TS)について、5つの参照遺伝子と比較して、事前に設定された多重遺伝子RT-PCRの臨床的有用性を検証するものである。
 試験にあたり、結腸癌に対する治癒切除歴を有する患者を対象としたQUASTAR(Quick and Simple and Reliable)試験で術後補助5-FU/LV療法(化学療法群)と手術単独療法(手術群)に無作為に割り付けられたステージII結腸癌患者のうち適格患者1,436例の固定パラフィン包埋原発結腸癌組織からRNAを抽出して検証に用いた。RSとTSは、アルゴリズムを用いて癌関連の13遺伝子(再発関連7つ、治療ベネフィット関連6つ)の発現レベルおよび5つの参照遺伝子から算出し、リスクとベネフィットについてそれぞれlow、intermediate、highに分類した。手術群の再発リスクとRSとの関係、化学療法のベネフィットとTSとの関連は、Cox比例ハザード回帰モデルとlog-rank検定を用いて解析した。
 主要評価項目は再発、副次評価項目はDisease-Free Survival(DFS)、OSとした。
 1,436例の患者背景は以下の通りである。年齢中央値62歳、女性42%、週1回の化学療法を受けた者56%、疾患ステージ4 15%、リンパ管浸潤14%、MMR deficient 14%、再発278例(化学療法群16%、手術群23%、p=0.0005)。
 まず手術群における再発リスクを評価する。単変量Cox回帰解析ではRS(平均33.1)は再発リスクと有意に関連していた(HR per IQR 1.38、95%CI 1.11-1.74、p=0.004)。3年再発リスクはlow-risk群12%、intermediate-risk群18%、high-risk群22%であった(high群のlow群に対するHR 1.47、95%CI 1.01-2.14、p=0.046)。
 RSはDFS(HR per IQR 1.29、95%CI 1.06-1.56、p=0.010)、OS(HR per IQR 1.23、95%CI 1.01-1.51、p=0.041)とも有意に関連していた。
 病理組織学的にはT4ステージ(T4 vs. T3のHR 1.94、95%CI 1.35-2.79、p<0.001、T4が不良)、MMR状態(MMR deficient vs. proficientのHR 0.31、95%CI 0.15-0.63、p<0.001、deficientが良好)が最も強力な予測因子であった。そのほか右側結腸(盲腸、上行結腸)に腫瘍がある場合に再発リスクは低かった(右側結腸vs.その他の部位のp=0.008)。
 Tステージ、MMR状態、転移リンパ節数、腫瘍部位、腫瘍グレード、リンパ管浸潤、および年齢を共変量とした多変量Cox回帰解析でも、RSは有意に再発リスクと関連していた(HR 1.43、95%CI 1.11-1.83、p=0.006)。
 High-risk群はlow-risk群に比べてT4ステージ(20%vs. 14%、p=0.014)、MMR deficient(15%vs. 11%、p=0.034)、右側腫瘍(41%vs. 33%、p=0.007)、腫瘍グレード高(44%vs. 23%、p<0.001)が多くみられた。しかしlog-rank検定による再発リスク比をみると、Tステージ、MMR、腫瘍部位、腫瘍グレードで層別化してもhigh群とlow群の再発リスク比は同等であった。
 次に化学療法についての解析であるが、Cox回帰分析ではTSと化学療法のベネフィットとの間には関連がみられなかった。TSが高いからといって治療のベネフィットも上昇するという傾向はなく(片側p=0.95)、病理学的・分子的マーカー、RSも治療効果との有意な関連は認められなかった。化学療法群では追跡期間を通しての再発リスクとRSとの関連は有意ではなかったが(HR per IQR 1.25、95%CI 0.96-1.61、p=0.11)、手術群での関係とも有意差は認められなかった。両群を合わせるとRSと再発リスクとの関連は有意となった(HR per IQR 1.29、95%CI 1.09-1.52、p=0.003)。
 以上のように、多重遺伝子RT-PCRに基づく遺伝子発現アッセイはステージIIの結腸癌患者の術後再発リスクを評価し、現存の予後因子を超える情報を提供することが明らかになったが、TSは化学療法のベネフィットを予測しなかった。再発の最も強力な予測因子はT4とMMR deficiencyであり、MMR deficiencyは再発のリスクが低く、術後補助5-FU/LV療法のベネフィットはよくて2%である。T4はT3に比べて再発のリスクは2倍であり、RSにかかわらず術後補助化学療法の適用が望ましい。一方、ステージIIの患者の大半(およそ70%)を占めるT3でMMR proficientの患者は標準リスクに分類されることから、RSによるリスク識別の最適群であると言えよう。このように、12遺伝子再発スコアはTステージとMMRの状況を補足して用いるのが臨床的に最も有用性を発揮すると考える。

監訳者コメント

遺伝子解析が病理所見と独立して、ステージII結腸癌の再発を予測する

 遺伝子解析による癌の悪性度診断の歴史は古く、癌遺伝子の発現過剰や癌抑制遺伝子の発現抑制が、発癌や癌の進行に関わっているという報告は今でも枚挙に暇が無い。特に最近ではマイクロアレイを用いた多重遺伝子の網羅的解析により、癌の悪性度を予測出来ることも証明されてきている。今回の研究のポイントは、まず1つには1,436例という多数の患者において、結腸癌の再発に関わる7遺伝子を用いて再発スコア(RS)を算出し、それが病理学的に再発マーカーと考えられるTステージやMMR状態等を共変量とした多変量解析を行っても、独立した再発予測因子であることを証明出来た点である。もう1つは、ステージIIという今まで予後因子が判然としなかった病期において、T4、MMR deficiencyと共に、RSが再発予測因子と言えたことである。残念ながら5FU/LV治療に関わる6遺伝子の解析では、治療効果との関連は認められなかったものの、遺伝子解析が臨床に直に役立つことを示した貴重な研究と考えられる。

監訳・コメント:昭和大学藤が丘病院 日比 健志(消化器外科・教授)

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