論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

3月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

ステージIII結腸癌に対するL-OHP併用 vs L-OHP非併用術後補助化学療法の効果の比較

Sanoff HK. et al., J Natl Cancer Inst. 2012; 104(3): 211-227

 1990年以降ステージIII結腸癌の標準的な術後補助化学療法はLV+5-FUであったが、2004年のMOSAIC試験および2007年のNSABP C-07試験の報告から、LV+5-FUにL-OHPを加えた併用療法が新たな術後補助化学療法の標準となってきている。しかし両試験の患者群は一般住民における癌患者に比べて若く健康状態が良好で、人種および民族的な多様性が少ない。さらに、L-OHPは投与量により消化器毒性が発現する場合があり、用量により薬剤の忍容性と有効性が異なってくるため、一般住民のステージIII結腸癌患者でもL-OHPのベネフィットが得られるかどうかは不明である。本試験では、一般住民コホートと無作為化臨床試験で受けた患者とのLV+5-FU+L-OHP療法を比較し、L-OHPの上乗せ効果を検討した。一般住民のデータはSEER-Medicare、NYSCR-Medicaid(患者年齢は65歳未満)とNYSCR-Medicare(年齢65歳以上)、NCCN Outcomes Databases、CanCORSから、臨床試験登録患者のデータはACCENTのうち1999年以降に患者登録を行い追跡データが完全な5試験(XACT、PETACC-3、C89803、MOSAIC、C-07)から抽出した。
 解析対象は、75歳未満、組織学的にステージIII結腸(直腸は含まず)腺癌と確認された患者で、診断から90日以内に切除術を受け、切除術から120日以内に術後補助化学療法を受けた症例とした。SEER-MedicareとNYSCR-Medicareについては、保健維持機構に登録されている場合、および診断から6ヵ月以内にMedicare Parts AおよびBに継続的に登録されていない場合は除外した。一般住民コホート(2004〜2009年に診断された4,060例:SEER-Medicare 2,458例、CanCORS 272例、NYSCR-Medicaid 290例、NYSCR-Medicare 446例、NCCN 594例)では初回化学療法実施から30日以内にL-OHPに関する請求・記録がある者をL-OHP群、その他を非L-OHP群とした。臨床試験コホート(8,292例)ではC-07およびMOSAIC試験のL-OHP/5-FU群をL-OHP群、5-FU群およびその他の試験の全群を非L-OHP群とした。主要評価項目はOSである。なお、一般住民コホートはデータにばらつきがあるため統合せずに並列した。
 年齢中央値は臨床試験コホート60歳、SEER-Medicare 69歳、CanCORSデータなし、NYSCR-Medicaid 54歳、NYSCR-Medicare 69歳、NCCN 56歳で、患者年齢、人種はコホート間でばらつきがみられた。
 L-OHP投与状況をみると、臨床試験コホート18%、SEER-Medicare 59%、CanCORS 54%、NYSCR-Medicaid 23%、NYSCR-Medicare 51%、NCCN 94%が投与を受けていた。住民コホートでは、大半がL-OHP投与を受けたNCCN以外は結腸癌の診断が2004〜2007年に集中しており、L-OHP投与には診断の時期が強く関連しているものと思われる(NCCNの診断年は2005〜2009年)。
 またL-OHP投与率は年齢が上昇するにつれ低下した。70〜74歳の患者群ではSEER-Medicare 53%、CanCORS 37%、NYSCR-Medicare 48%がL-OHP投与を受けていたが、65〜69歳の患者と比較すると投与率は低く、70〜74歳の患者のうち82%がL-OHP投与を受けていたNCCNでも60〜69歳の投与率96%と比較すると低かった。人種とL-OHP投与との間には一定の関連性はみられなかった。
 3年OSはいずれのコホートでもL-OHP群が優れていた。コホート別に3年OSを非L-OHP群と比較すると、臨床試験コホートでは86% vs 82%(死亡の補正後ハザード比0.80、95%CI 0.70-0.92、p=0.002)、SEER-Medicare 80% vs 74%(HR0.70、95%CI 0.60-0.82、P<0.001)、CanCORS 88% vs 78%(HR 0.82、95%CI 0.50-1.32、p=0.41)、NYSCR-Medicaid 82% vs 81%(HR 0.68、95%CI 0.28-1.63、p=0.38)、NYSCR-Medicare 79% vs 69%(HR 0.58、95%CI 0.38-0.90、p=0.02)、NCCN 86% vs 75%(HR 0.35、95%CI 0.12-1.04、p=0.06)で、一般住民コホートではL-OHP群の3年OSはほぼ同様であった。
 住民コホートでも臨床試験コホート同様、L-OHPの延命効果がみられるが、SEER-MedicareとNYSCR-Medicareを除いては95%CIの上限が1を超えていた。
 L-OHPによるOS改善についてサブグループ解析を行ったところ、70〜74歳の高齢患者群においてSEER-Medicareでは有意な改善が(HR 0.66、95%CI 0.52-0.84)、NYSCR-Medicareでは改善傾向が(HR 0.62、95%CI 0.36-1.07)認められた。CanCORSではベネフィットは得られなかったものの、有害な影響も認められなかった。
 そのほか、Charlson Comorbidity Index(CCI)による合併症を2つ以上有するSEER-Medicareの患者では改善が認められ、ACE-27による重篤な合併症を有するCanCORSの患者では生存は不良であった。人種別では、一般住民コホートのうち3つで、黒人において白人と同等か白人以上の死亡率の低下が認められたが、制限として、人種・民族に関するサブグループ解析は全体的に例数が少ないという点がある。
 以上のように、無作為化比較試験で明らかにされているステージIII結腸癌の術後補助化学療法におけるL-OHPの上乗せ効果は、様々な治療環境にある一般住民でも認められた。本解析ではサブグループ解析の症例数が少ないこと、コホートによる追跡期間の違いといった問題に加え、患者選択に基づく交絡因子を除外できなかったという限界もあるが、75歳未満で診断された患者であればL-OHPによる生命予後改善が期待できることを地域の臨床医に認識していただければと考える。

監訳者コメント

国内での検討とともに国際共同試験への参画も

 2つのRCT(MOSAIC試験とNSABP C-07試験)の結果により、ステージIII結腸癌術後補助化学療法におけるL-OHPの上乗せ効果が確認され、欧米ではL-OHPを使用したステージIII結腸癌術後補助化学療法が標準治療として位置づけられている。
 本論文は、年齢や人種が異なる、様々な治療環境下の一般住民コホートでもL-OHPの上乗せ効果があるかどうかを検討したものである。その結果、一般住民コホートにおいても、2つのRCTの結果と同様、75歳未満の患者ではL-OHPによる3年OSの上乗せ効果がみられると結論している。
 一方、本邦の大腸癌治療ガイドラインでは、結腸癌手術治療成績が欧米よりも良好であるため、L-OHPの上乗せは有害事象や医療コストを含めて適応を吟味する必要があるとして、明確な位置づけをしていない。ただ、世界では、すでに、L-OHPを含む術後補助化学療法の短縮化を目指して、至適継続期間を評価する国際的なプロジェクト(IDEA)が行われている。本邦では術後補助化学療法でのL-OHPの使用について今後も検討していくことが必要であるが、一方で、国際共同試験へ参画することも重要と思われる。

監訳・コメント:福井県立病院 道傳 研司(外科・主任医長)

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