監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
大腸癌スクリーニングにおける内視鏡検査vs免疫化学的便潜血検査
Quintero E, et al., N Engl J Med. 2012; 366(8): 697-706
大腸癌を最も正確に早期発見し予防する検査は大腸内視鏡検査であると考えられている。この検査法の大腸癌死亡率に対する有用性を評価した無作為比較試験のデータはないが、間接的なデータや観察研究の結果から、一次スクリーニング法として推奨されている。
便検査では半定量的免疫化学的便潜血検査(FIT)がグアヤック法に比べて正確に大腸癌や進行腺腫を検出できるとして、大腸癌スクリーニングにおける第一選択として推奨されている。FITは大腸内視鏡検査やS状結腸内視鏡検査と比較して腫瘍検出能は低いが、その検出能の低さは内視鏡検査より受容性が高いことによりカバーしうることが示唆されている。
そこで、大腸癌の平均的なリスクを持つ集団に対し、大腸癌死亡率低下に関して、2年に1回のFITが単回の大腸内視鏡検査に対して非劣性であるという仮説を立て、これを検証する無作為試験を行った。本稿ではその中間解析を報告する。
対象は50〜69歳の無症状の男女である。大腸癌、腺腫、および炎症性大腸疾患の既往のある者、遺伝性または家族性大腸癌の家族歴がある者、重度の合併症を有する者、および大腸癌の手術歴を有する者は除外した。スペインでの全国キャンペーンで2009年6月〜2011年6月に登録された適格症例53,302例中26,703例を内視鏡検査群に、26,599例をFIT群に無作為に割り付けた。
主要評価項目は大腸癌による10年死亡率である。評価はintention-to-screen解析とas-screened解析で行った。直径が10mm以上、表面が絨毛状である、または高度異型のものを進行腺腫と定義した。また粘膜下層以深に浸潤する癌を浸潤癌とした。
両群の平均年齢(内視鏡検査群59.2±5.5歳 vs FIT群59.3±5.6歳、p=0.35)および男女比(女性53.5% vs 54.3%、p=0.25)は同等であった。
内視鏡検査群で実際に検査を受けたのは4,953例(実施率24.6%、平均年齢59.1±5.5歳、女性53.4%)、FIT群で実際にFITを受けたのは8,983例(実施率34.2%、59.3±5.6歳、54.4%)であった。内視鏡検査群に割り付けられたのにFITを受けたのは1,628例、その逆が106例であった。実施率、クロスオーバー率ともに両群で有意な差(p<0.001)が認められた。
以下にintention-to-screen解析の成績を述べる。
内視鏡検査群で30例(0.1%)、FIT群で33例(0.1%)の浸潤癌が発見された(内視鏡検査群のオッズ比0.99、95%CI 0.61-1.64、p=0.99)。進行腺腫は514例(1.9%)vs 231例(0.9%)と内視鏡検査群で多く発見され(p<0.001)、非進行腺腫の発見も1,109例(4.2%)vs 119例(0.4%)でやはり内視鏡検査群(p<0.001)で多かった。
大腸癌の発見率を病変部位(近位・遠位)別にみると両群で有意差は認められなかったが、腺腫の発見率は近位・遠位ともに内視鏡検査群で高かった(すべてp<0.001)。とくに近位の進行性腺腫ではその差が顕著であった。
次にas-screened解析の結果を示す。
実際に施行されたスクリーニング法別に検討すると、内視鏡検査は5,059例(内視鏡群4,953例+FIT群106例)、FITは10,611例(FIT群8,983例+内視鏡群1,628例)であった。FITを受けて陽性と判定された患者は767例(7.2%)で、うち663例(86.4%)が内視鏡検査を受けた。
内視鏡検査でされた大腸癌は27例(0.5%)、FITでは36例(0.3%)で有意差は認められなかった(オッズ比1.56、95%CI 0.93-2.56、p=0.09)。進行腺腫の発見率は9.7% vs 2.4%(オッズ比4.32、95%CI 3.69-5.07、p<0.001)、非進行腺腫の発見率は22.1% vs 1.1%(オッズ比25.98、95%CI 21.27-31.74、p<0.001)で、いずれも内視鏡検査が高かった。近位・遠位の部位別に大腸癌の発見率を検討したが、両群に差は認められなかった。腺腫の発見率に関しては近位でも遠位でも内視鏡群で高かった。
1個の大腸癌を見つけるために大腸内視鏡検査群では191例の受診者が必要であった。一方FIT群では281例が必要であったが、そのうちの18例が大腸内視鏡検査を受ければよかった。
合併症は内視鏡群で24例(0.5%)発生した。主な合併症は出血、低血圧、および徐脈であった。FIT群で陽性と判断され、内視鏡検査を受けた10例(0.1%)に同様の合併症があった。
以上のように、大腸癌スクリーニングの実施率は内視鏡検査でもFITでも低かったが、FITのほうが実施を受け入れられやすかった。大腸癌の発見率は内視鏡検査もFITも同等であったが、腺腫は内視鏡検査で多く見つかった。この論文は中間解析の結果を報告したものである。主要評価項目は10年後の大腸癌による死亡率の低下であり、最終的な評価は本試験終了時に行われる予定である。
便潜血検査による検診の受診率の増加が重要
大腸内視鏡検査は大腸癌の罹患率を減少させ、さらにそれによる死亡率も低下させることが示されている。しかし、これを検診として普及させるには費用、人的資源の制限で不可能である。また、本論文で述べられているように受診率も低くなることが予想される。
一方、免疫学的便潜血検査はスクリーニング法として広く用いられている。本研究では、受診率が34.2%と低いが、大腸内視鏡検査よりは受容性が良い。その癌検出率が低い欠点が良好な受容性により補われる可能性が示唆されている。
本研究は2年ごとの便潜血検査による10年後の大腸癌死亡率の減少効果を、1回の大腸内視鏡検査と比較し、非劣性を証明することを目的にしている。もし、それが証明されれば、無駄な検査が省略される。実際、本論文でも1個の大腸癌を見つけるための大腸内視鏡検査がFITでは少なくなっている。
本論文は最初の便潜血検査が行われた段階での中間解析ではあるが、FIT群では今後繰り返し、検査が行われ、さらに大腸癌発見数が増えることが予想され、その非劣性が証明されることが期待される。しかし、そのためには対象者に検査の継続を訴えるのが重要であるが、これが一番困難なのかもしれない。
監訳・コメント:石川県立中央病院 伴登 宏行(消化器外科・診療部長)
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