監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
遠隔転移を有する日本人大腸癌患者に対するcediranibとmFOLFOX6併用療法:第I/II相試験のうちの第II相無作為化試験の成績
Kato T. et al., Ann Oncol., 2012; 23(4): 933-941
遠隔転移を有する大腸癌(mCRC)に対し、日本のガイドラインではFOLFOX療法を標準療法として推奨しているが、その毒性を鑑み現在では修正FOLFOX(mFOLFOX)が標準療法とされている。一方、bevacizumabによる血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のシグナル伝達経路阻害もfirst-line治療での5-FUベースのレジメンに併用することで臨床効果がみられる。CediranibはVEGFの3つの受容体すべてを阻害する強力な経口VEGFチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)で、進行癌の早期相における抗腫瘍効果を示しており、海外ではHORIZON II、III試験で未治療mCRCに対する有効性が検討されている。HORIZONで用いられたcediranibの開始用量は20および30 mg/dayであったが、後に用量は20 mg/dayのみに決定された。本試験で用いた用量は、この決定の前に海外の試験に準じて採用したものである。本試験の第I相部分において、いずれの用量もmFOLFOXとの併用で優れた忍容性を示したことから、第II相無作為化二重盲検試験を実施し、first-line治療としてcediranib 2用量+mFOLFOX療法とmFOLFOX単独療法の有用性を比較した。
対象は18歳以上、ステージIV(遠隔転移)、WHO PS 0〜1、RECIST(ver1.0)による1つ以上の転移病変を有する、直腸または結腸癌の日本人患者である。転移病変に対する全身療法歴、VEGFまたはVEGF受容体に対するbevacizumabおよびcediranibを含むモノクローナル抗体療法歴は不適格とした。
2008年1月から2009年1月に、適格患者172例を14日ごとのmFOLFOX+cediranib 20 mg/day療法(c20群、58例)またはmFOLFOX+cediranib 30 mg/day療法(c30群、56例)またはmFOLFOX+プラセボ療法(P群、58例)に無作為に割り付けた。
主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、奏効率、奏効期間、腫瘍サイズの変化、安全性、および忍容性とした。以下、とくに指定がない場合はc20群 vs c30群 vs P群の比較を示す(両側検定p<0.2をもって有意差とした)。
全員が日本人患者で、20%は降圧治療を受けていた。
初回データカットオフ時(2009年10月)のc20群 vs P群のPFS中央値は10.2ヵ月 vs 8.3ヵ月で、HR 0.70(95%CI 0.44-1.11)、p=0.167とc20群が有意に優れていた。c30群のPFS中央値は8.9ヵ月、P群と比較したHR は0.82(0.54-1.31)、p=0.261で有意差はみられなかった。
2回目のデータカットオフ時(2010年6月)の解析でもc20群のPFSはP群と比較して優れており(中央値は10.9ヵ月 vs 8.3ヵ月、HR 0.76、95%CI 0.51-1.15、p=0.0879)、c30群にP群との有意差はみられなかった(c30群のPFS中央値9.8ヵ月、HR 0.96、p=0.429)。PFSのイベント率は81% vs 82% vs 79%、12ヵ月無進行率は40.5% vs 36.1% vs 28.9%であった。
奏効率は53.4%(CR 0%) vs 69.6%(CR 0%) vs 53.4%(CR 3.4%)で、6週以上のSDは41.4% vs 25.0% vs 34.5%であった。腫瘍サイズの最大変化率中央値は-37.3% vs 43.4% vs 40.0%、奏効期間中央値は9.2ヵ月 vs 6.7ヵ月 vs 7.1ヵ月であった。
初回データカットオフ時の死亡は38例(15例 vs 9例 vs 14例)でOSの成績は得られなかったが、2回目のデータカットオフ時(OSの追跡期間中央値19.0ヵ月)には74例(24例 vs 27例 vs 23例)が死亡していた。生存期間の中央値はc20群では到達せず(HR 1.09、p=0.543)、c30群は22.4ヵ月(HR 1.28、p=0.706)、P群は23.3ヵ月であった。
グレード3/4の有害事象発現率は66% vs 75% vs 36%であり、重篤な有害事象発現率は39.7% vs 39.3% vs 19.0%であった。Cediranib投与群ではグレード3/4の食欲不振(c20群19.0%、c30群17.9%)手足症候群(13.8%、21.4%)、下痢(10.3%、21.4%)、高血圧(6.9%、10.7%)などがみられた。有害事象による死亡はなかったが、cediranibまたはプラセボの中止に至る有害事象発現頻度は19% vs 27% vs 0%でc30群が最も高かった。
VEGF値中央値はベースライン時に47〜55 pg/mLであったが、c20群ではday 28までに89 pg/mLに、以降130 pg/mLまで上昇、c30群ではday 28〜84に160〜170 pg/mLに上昇、day 112までに151 pg/mLに低下した。P群では変化はみられなかった。sVEGFR-2値はベースライン時に9,095〜10,126 pg/mLであったが、day 112時点で6,403 pg/mL vs 5,789 pg/mL vs 7,204 pg/mLにそれぞれ低下した。
日本人mCRC患者に対するcediranib+mFOLFOX療法はmFOLFOX単独療法と比較し、cediranibの用量20 mg/dayでPFSの改善がみられた。c30群の奏効率は他の2群に比べ良好であったものの、PFSの延長に結びつかなかったのは、忍容性の差によるものと考えられた。本試験およびHORIZON II、III試験の結果から治療歴のないmCRC管理におけるVEGFR TKIの役割が見えてきており、今後はcediranibが最も効果を示す患者を選択していくことが求められる。
Multi-target TKIの開発では、有効性と安全性のバランスが課題である
この研究は切除不能大腸癌に対するcediranibの有効性を確認する開発試験であり、海外の第III相試験と同時期に日本で行われた第I/II相試験の結果である。Cediranibは3種類すべてのvascular endothelial growth factor(VEGF)抗体を阻害する経口のtyrosine kinase inhibitor(TKI)で、当時の標準療法であるmFOLFOX6に対する上乗せ効果を確認した試験である。結果は20mg群においてPlacebo と比較してHR=0.70と有意な生存期間の延長効果を示したが、30mg群ではHR=0.81であり上乗せ効果を示すことが出来なかった。また有害事象は下痢、高血圧、手足症候群がcediranibで多かった。
一方、非小細胞肺におけるCBDC+PTX併用療法にcediranibを加えた試験(BR24試験、BR29試験)では、cediranib群でPFSの条件を満たさなかったことが判明し、開発が中止された。
以上の結果はcediranibがすべてのVEGFを阻害するTKIであり、複数の標的を阻害したため有害事象が強くなったものと思われる。分子標的薬であっても複数の標的を阻害すると強い有害事象が出現するため、薬剤特性の十分な理解と把握が必要である。
監訳・コメント:関西ろうさい病院 加藤 健志(下部消化器外科・部長)
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