論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

7月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

切除後ステージIII結腸癌患者の生命予後に対するL-OHP+5-FU+LV±cetuximabの効果

Alberts SR, et al., JAMA 2012; 307(13): 1383-1393

 切除後のステージV結腸癌では、術後補助化学療法による再発リスクの低下が様々な試験結果から確立されている。中でもFOLFOXはかつての標準療法であった5-FU+LVと比較し、無病生存期間および全生存期間で有意なベネフィットを示している。一方、遠隔転移を有する結腸癌のEFGRを標的としたpanitumumabとcetuximab(CET)がFDAの承認を受けており、いずれも単独療法または化学療法との併用による上乗せ効果が認められている。しかしこの効果がみられるのはKRAS野生型の患者に限られている。本試験は、KRAS野生型結腸癌患者の術後補助療法としてmFOLFOX6にCETを併用した場合の上乗せ効果を検討した第III相無作為化比較試験である。
 主な適格基準は、18歳以上、完全切除を受け、組織学的にステージIII結腸腺癌と診断され、ECOG PS 0〜2、病理学的に確認されたリンパ節転移を1つ以上有し、腫瘍は肛門縁から12 cm以上とした。
 患者をmFOLFOX6群(以下、単独群)またはmFOLFOX6+CET群(以下、CET群)に1:1に無作為に割り付けた。単独群にはL-OHP 85 mg/m2(day 1に2時間で静注)、LV 400 mg/m2+5-FU 400 mg/m2(bolus)+5-FU 2,400 mg/m2(day 1-2に46時間で静注)を隔週で12コース実施した。CET群は以上に加えCETを400 mg/m2(1コース目のday 1に2時間で静注)で開始し、維持用量250 mg/m2(1時間で静注)を1コース目のday 8、2〜12コース目はday 1とday 8に投与した。
 主要評価項目は無病生存期間、副次評価項目は全生存期間、無病期間、治療強度、毒性とした。追跡期間中央値は28(範囲0〜68)ヵ月であった。
 2004年2月から2009年11月に単独群は1,337例が、CET群は1,349例が割り付けられた。評価可能症例は、KRAS野生型1,863例(単独群909例:年齢中央値58歳、女性415例;CET群954例:58歳、455例)、KRAS変異型717例(単独群374例:59歳、190例;CET群343例:59歳、161例)である。
 3年無病生存率は、KRAS野生型では単独群74.6% vs CET群71.5%(HR 1.21、95%CI 0.98-1.49、p=0.08)、変異型では67.1% vs 65.0%(HR 1.12、95%CI 0.86-1.46、p=0.38)で、ともにCETの上乗せ効果は示せなかった。KRASBRAFがいずれも野生型のサブグループで解析しても、3年無病生存率のCETの上乗せ効果は認められなかった(HR 1.22、95%CI 0.96-1.56、p=0.11)。
 3年無病率(無再発死亡例は打ち切りとする)はKRAS野生型では単独群76.9% vs CET群74.4%(1.17、0.93-1.46、p=0.18)、変異型では67.9% vs 67.0%(1.07、0.81-1.40、p=0.63)、3年生存率はKRAS野生型87.3% vs 85.6%(1.25、0.92-1.68、p=0.15)、変異型87.9% vs 82.7%(1.27、0.85-1.92、p=0.25)でともにCET併用の有無による有意差はなかった。
 年齢、性別、PS、BRAF変異状態に基づくサブグループ解析でもCET群にベネフィットは認められなかった。予想に反して70歳以上のKRAS野生型の3年生存率では単独群がCET群よりも有意に優れていた(86.2% vs 72.5%、2.00、1.05-3.78、p=0.03)。
 治療強度はKRAS野生型では単独群とCET群の差はみられなかった。しかし、6コース以上完遂率(単独群89% vs CET群80%、p<0.001)および12コース完了率は単独群が有意に高かった(79% vs 67%、p<0.001)。変異型でも有意差は認めなかったが同様の結果であった。
 グレード3以上の有害事象はKRAS野生型では単独群に比べCET群で有意に頻度が高かった(51.1% vs 73.3%、p<0.001)。とくに下痢(9.3% vs 15.9%、p<0.001)、ざ瘡/発疹(0.3% vs 20.0%、p<0.001)の発現率はCET群で有意に高かった。KRAS変異型についてもグレード3以上の有害事象発現率は野生型と同様の結果であった。
 年齢で比較すると、CET群ではグレード3以上の有害事象の発現は野生型で70歳以上の患者が70歳未満の患者と比較して高かった(72% vs 81%、p=0.02)。それは主に下痢、呼吸困難、悪心、疲労、感染症、好中球減少症、口内炎/粘膜炎の頻度が高かったためである。KRAS野生型の若年群ではざ瘡/発疹の頻度が高かった。単独群でも年齢による有害事象の発現頻度では有意差がみられた(p=0.047)。
 KRAS野生型では治療中に単独群4例、CET群10例が死亡し、うちそれぞれ3例と8例が治療関連死と思われた。CET群では70歳未満に比べ70歳以上の死亡率が有意に高かった(0.5% vs 4.2%、p=0.002)。一方単独群では70歳未満0.4%、70歳以上0.9%で差は認められなかった。またKRAS変異型では年齢による死亡率の差はなかった。
 以上のように、ステージIIIの切除後結腸癌患者に対する術後補助療法において、mFOLFOX6に対するCETの上乗せ効果は認められず、KRASBRAFが野生型の症例に限定してもベネフィットは得られなかった。その理由は明確ではないが、KRAS野生型の70歳以上の患者では単独群の78%が12コースを完了しているのに対しCET群では51%に過ぎず、有害事象がCETの上乗せ効果を減じたとも考えられる。KRAS変異型が治療完遂率の差が小さかったことを考えると、CETを含む治療を野生型で完遂させることが今後の課題であろう。本試験で示されたような遠隔転移を有する患者に対する有効性がそのまま術後補助療法のベネフィットにつながるとは限らず、術後補助療法でベネフィットを得られる薬剤を確認する新しいアプローチが求められる。

監訳者コメント

ステージV結腸癌の術後補助化学療法ではcetuximab(CET)の上乗せ効果は認められなかった

  本試験は、ステージVの結腸癌の術後補助療法としてmFOLFOX6にCETを併用した場合の上乗せ効果を検討した第V相無作為化比較試験である。
 結果はmFOLFOX6に対するCETの上乗せ効果はみられなかった。サブグループ解析ではKRAS野生型であっても70歳以上では全生存期間でCET群がむしろ劣っていた。グレード3以上の有害事象はCET群で頻度が高く、その影響で6コース以上完遂率および12コース完了率は単独群より低かった。
 上乗せ効果が証明されなかった理由は、ステージIV転移巣とは異なり術後に残存した微小転移巣にはCETが無効であったと考えられるが、本試験ではCET併用の有害事象のためにmFOLFOX6の投与が十分にできずその結果CETの上乗せ効果が示せなかった可能性も考えられる。
 分子標的治療薬はbevacizumabに続いてCETも無効であった。しかし、乳癌ではtrastuzumab、GISTではimatinibが術後補助化学療法で有効性が証明されている。今後、CET併用で70歳以上の高齢者に起こった様々な有害事象を抑える工夫をして治療完遂率が高まれば、CETの術後補助化学療法での有効性が示される可能性は残っている。
 しかし本試験の結果から術後補助化学療法としてのCETの有効性及び安全性は確立していないためCETの投与はKRAS野生型で治癒切除不能な進行・再発の大腸癌に限るべきである。

監訳・コメント:監訳・コメント 千葉県がんセンター 傳田 忠道(消化器内科・部長)

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