論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

9月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

局所進行直腸癌に対する放射線化学療法+CAP vs 5-FU : 多施設共同非劣性第III相ランダム化試験

Hofheinz R-D et al., Lancet Oncol., 2012 ; 13 : 579-588

 ドイツをはじめとする欧米諸国では、5-FUをベースとした周術期放射線化学療法(CRT)がステージII〜IIIの直腸癌の標準療法だとされている。OSやDFSの改善を目標として種々の周術期5-FU療法が研究されているが、放射線療法中の5-FU静注を除いてbolus投与より優れることはない。いっぽうcapecitabine(CAP)はステージIII結腸癌の術後補助療法として5-FU+LVと同等の効果を示し、また転移を有する大腸癌のfirst-line治療におけるL-OHPとの併用療法は5-FU静注と比べて非劣性である。CAPを直腸癌の周術期併用療法として研究している第I相、II相試験はあるが、局所進行直腸癌において周術期5-FU療法と比較したランダム化試験はないことから、この問題に関する非劣性第III相オープンラベルランダム化試験を行った。本稿ではその最終報告をする。
 対象は18歳以上、WHOのPS 0/1、原発癌に対する直腸全間膜切除(TME)または部分切除(PME)を受けたステージII/IIIの局所進行直腸癌患者(肛門縁から<16cm)として、試験開始当初(2002年3月)はCAPベースまたは5-FUベースの術後補助CRTを比較する予定であったが、ドイツの試験における術前補助CRTの好成績を受けて2005年3月以降は術前補助CRTを受けた患者も対象に含めた。
 術後補助療法としてのCAP療法は、CAP 2,500 mg/m2/日の2週投与、1週休薬を1コースとして、CRTの前に2コース、CRT後に3コース行った。CRT中のCAPは1,650 mg/m2/日に減量した。5-FU療法は、500 mg/m2/日 day1〜5を4週ごとに2コース投与した後にCRTを行い、CRT後に再び2コース実施した。CRT中の5-FUは225 mg/m2/日で連日投与した。CRTの合計線量はどちらも50.4Gyで5〜6週実施した。
 術前補助療法のCAP療法はCRTは術後補助療法と同じ要領で行い、術後にCAP 2,500 mg/m2/日の2週投与、1週休薬を1コースとして5コース実施した。5-FU療法はCRT中は1,000 mg/m2/日をday1〜5とday29〜33に投与し、術後は500 mg/m2 day1〜5を4週ごとに4コース投与した。
 主要評価項目はOS(CAP群の5-FU群に対する5年OSの非劣性を限界値12.5%として検討)、副次評価項目はDFS、局所再発率(骨盤、腹膜腫瘍)、遠隔転移率、安全性とした。追跡期間の中央値は52ヵ月(CAP群51ヵ月、5-FU群53ヵ月)である。
 2002年3月から2007年12月に登録された401例中、評価可能症例は392例(CAP群197例、年齢中央値65歳、男性65%、術後補助療法59% ; 5-FU群195例、64歳、67%、59%)であり、両群ともT3/4が約80%を占めていた。
 予定された化学療法を完遂したのは術後補助療法でCAP群78%、5-FU群80%、術前補助療法ではそれぞれ46%、40%とほぼ同等であった。
 解析時までにCAP群38例(19%)、5-FU群55例(28%)が死亡した。死亡のリスクはCAP群が有意に低下しており(P=0.04)、癌による死亡は13%、19%でCAP群の癌関連死のリスクは5-FU群に比べて6%の低下をみた。
 5年OSは76% vs 67%(5-FUのCAPに対するHR 1.5、95%CI 1.00-2.28、P=0.0004)でCAP群の非劣性が示された。探索的解析では5年OSはCAP群が有意に優れていた(P=0.05)。また術前補助療法コホートでは66% vs 61%、術後補助療法コホートでは81% vs 71%とどちらのコホートでもCAP群のほうが良好であった。
 局所再発率は6% vs 7%で同等であったが、遠隔転移は19% vs 28%で5-FU群に高率にみられた(P=0.04)。
 DFSについても3年DFSは75% vs 67%(P=0.07)、5年DFSは68% vs 54%とCAP群のほうが優れていた(HR 1.4、95%CI 1.02-2.02、P=0.035)。DFSでも術前術後補助療法にかかわらずCAP群のほうが良好であった。
 病理学的CR(ypT0N0)率はCAP群が高い傾向にあり(14% vs 5%、P=0.09)、両側検定でCAP群における腫瘍縮小効果が認められた。
 有害事象はCAP群では疲労(全グレードで28% vs 15%、P=0.002 ; グレード3/4は0% vs 1%)、直腸炎(16% vs 5%、P<0.001 ; <1% vs <1%)、手足症候群(31% vs 2%、P<0.001 ; 2% vs 0%)が、5-FU群では白血球減少症(25% vs 35%、P=0.04 ; 2% vs 8%)が有意に高頻度にみられた。もっともよくみられたのは両群とも下痢であった(53% vs 44% ; 9% vs 2%)。化学療法中の下痢は両群で同程度にみられたが、CRT中の下痢はCAP群が有意に高頻度であった(45% vs 32%、P=0.009)。
 CAP群の手足症候群発症例は非発症例に比べてOSとDFSが良好であった(3年DFS 83% vs 71%、P=0.03 ; 5年OS 91% vs 68%、P=0.0001)。非発症例の3年DFSは5-FU群とほぼ同様であった(71% vs 67%)。
 以上のように、局所進行直腸癌に対する術前または術後補助療法としてCAP療法6コースを5-FU療法5コースと比較したところ、5年OSに関するCAP療法の非劣性が明らかになった。本試験は非劣性試験としてデザインされたものであるが、CAPによる予後の改善が示された。治療のアドヒアランスや局所再発率はCAP群も5-FU群も同等であり、いっぽうCAP群では遠隔転移の頻度が低下しDFSが改善したことから、CAPの効果は5-FUのbolus投与に優るものと考えられる。有害事象は両群とも軽度であった。CAP群で手足症候群を発症した患者の生命予後が発症しなかった患者に比べて良好であったことから、手足症候群は薬力学的予後因子として考えてもよいであろう。CAPは切除不能な局所進行直腸癌の術前術後CRTにおいて5-FUに替わりうることが示された。

監訳者コメント

直腸癌への術前化学放射線療法では, CAPは 5-FUに置き換え可能である

 大腸癌領域においてCAPが5-FUに置き換えられるのかというclinical questionに対して多くの試験が実施されてきている。
 代表的な試験としては、 TwelvesらがStage III 結腸癌の補助化学療法として実施したX-ACT試験、 van Cutsem ら、 Hoff らが進行再発大腸癌で実施したCAP単剤試験、またCassidy らやRothenberg らが実施したXELOX NO16966試験およびNO16967試験、それらを統合解析したArkenauらの報告、Cassidyらの胃癌を含めた6171例の統合解析によりCAPの5-FUとの同等性が証明されている。
 本試験は直腸癌において、German MARGIT study groupが放射線療法と併用するCAPが5-FUに置き換えられるかどうかを検証した試験である。ESMOのGuidelinesでは、標準的術前化学放射線療法として放射線46〜50.4 Gy+6〜10回のLVと5-FU急速静注、あるいは持続静注、あるいは経口CAPあるいはUFT投与が示されている。L-OHP併用は STAR-01、ACCORD 12、NSABP R-04の結果から否定的である。CAPは本論文で5-FUとの同等性が証明されたことに加えて、遠隔転移抑制および 5年DFSが有意に優れており、標準的併用薬としてのエビデンスが示された。また手足症候群を発症した患者の生命予後が発症しなかった患者に比べて良好であったことが注目される。

東海大学医学部付属病院 貞廣 荘太郎(消化器外科・教授)

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