論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2012年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

ステージIIおよび高齢(70〜75歳)の結腸癌患者に対する5-FUとL-OHPを用いたアジュバント療法 : Multicenter International Study of Oxaliplatin, Fluorouracil, and Leucovorin in the Adjuvant Treatment of Colon Cancer Trialのサブグループ解析

Tournigand C., et al., J Clin Oncol, 2012 ; 30(27) : 3353-3360

 結腸癌の術後補助化学療法としてL-OHP+5-FU+LV(またはcapecitabine)の併用がステージIIIの患者の標準療法となっているが、ステージIIの患者に関しては議論が多く、NCCNでも現時点ではステージIIの結腸癌患者に対するルーチンの術後補助療法は推奨していない。高齢患者に対する術後補助化学療法についても5-FUをベースとした治療から若年患者と同等のbenefitを受けたという報告もあれば、L-OHPをベースとした治療からはbenefitが得られなかったとするメタアナリシスもあり、問題は解決されていない。
 そこで、術後補助化学療法におけるFLとFOLFOX4を比較し、L-OHPの上乗せ効果を示したMOSAIC試験から、とくにステージIIと高齢患者に関してL-OHPの役割を検討した。
 対象は18〜75歳、完全切除術を施行したステージII(T3/4、N0、M0)またはステージIII(Tはいずれも可、N1/2、M0)の結腸癌患者で、ステージIIはT4、結腸穿孔、腸閉塞、低分化癌、静脈浸潤、検索リンパ節数10以下のいずれか1つでもあればhigh-riskとし、まったくないものはlow-riskとした。
 主要評価項目はDFSで、他にtime to recurrence(TTR)、OS、重篤な有害事象、再発後の治療、2次癌を評価した。追跡期間の中央値はDFSとTTRが63ヵ月、OSは80ヵ月であった。
 まずステージIIの患者に関する解析結果を示す。
 MOSAIC試験の登録患者2,246例(FOLFOX4群1,123例、FL群1,123例)中、ステージIIは899例(FOLFOX4群451例、FL群448例)で、うち569例がhigh-risk(FOLFOX群282例、FL群287例)、330例がlow-risk(169例、161例)であった。
 FOLFOX4群のFL群に対するDFSのHRは0.84(95%CI 0.62-1.14、p=0.258)で有意差はみられなかった。high-riskについてもFOLFOX4群がFL群に比べて優れることはなかった(HR 0.72、95%CI 0.51-1.02、p=0.063)。リスクと治療の相互関係を調べたところ、low-riskのFL群に対し、high-riskのFL群はHR 2.50(95%CI 1.51-4.14)、low-riskのFOLFOX4群1.36(0.76-2.45)、high-riskのFOLFOX4群1.8(1.07-3.02)で、DFSに関してリスクと治療の相互関係はなかった(p=0.066)。FOLFOX4群 vs FL群の5年DFSをリスク別にみると、low-riskでは86.0% vs 89.3%(HR1.36、95%CI 0.76-2.45、p=0.305)、high-riskでは82.3% vs 74.6%であった(HR 0.72、95%CI 0.51-1.01、p=0.062)。
 FOLFOX4群のFL群に対するTTRのHRは 0.70(95%CI 0.49-0.99、p=0.045)であった。FOLFOX4群 vs FL群の5年TTRをリスク別にみると、low-risk群では90.8% vs 90.5%(HR 1.01、95%CI 0.50-2.05、p=0.972)で有意差はなかったが、high-riskでは86.8% vs 78.8%でFOLFOX群で有意な改善をみた(HR 0.62、95%CI 0.41-0.92、p=0.002)。またlow-riskの FL群に対し、high-riskのFL群はHR 2.45(95%CI 1.39-4.32)、low-riskのFOLFOX群1.01(0.50-2.05)、high-riskのFOLFOX4群1.52(0.84-2.76)で、TTRに関してリスクと治療の相互関係はなかった。
 OS についてもやはり両群で有意差は認められなかった(FOLFOX4群のFL群に対するHR 1.00、95%CI 0.70-1.41、p=0.986)。FOLFOX4群 vs FL群の6年OSをリスク別にみると、low-risk群では90.2% vs 93.0%(HR 1.36、95%CI 0.67-2.78、p=0.399)で有意差はなく、high-risk群でも85.0% vs 83.3%で有意差はみられなかった(HR 0.91、95%CI 0.61-1.36、p=0.48)。low-riskの FL群に対しhigh-riskのFL群はHR 2.36(95%CI 1.28-4.34)、low-riskのFOLFOX群1.35(0.66-2.76)、high-riskのFOLFOX4群2.14(1.16-3.98)で、OSに関してリスクと治療の相互関係はなかった。
 重篤な副作用はFOLFOX4群38例、FL群30例で発症したが両群に有意差は認められなかった(p=0.26)。
 次に高齢患者の解析結果を示す。
 本試験における70〜75歳の高齢患者は315例(FOLFOX4群155例、FL群160例)、70歳未満の若年患者1,931例(FOLFOX4群968例、FL群963例)で、年齢中央値は72歳であった。
 DFSについて年齢と治療の相互関係を調べると、若年のFL群に対するHRは高齢のFL群1.16(95%CI 0.87-1.45)、若年のFOLFOX4群0.78(0.66-0.92)、高齢のFOLFOX4群1.06(0.80-1.42)で、相互関係は認められなかった(p=0.418)。FOLFOX4療法によるDFSの改善はみられなかった(HR 0.93、95%CI 0.64-1.35、p=0.71)。高齢患者の5年DFSはFOLFOX4群69.1%、FL群65.8%であった。
 若年のFL群に対するTTRのHRは高齢のFL群1.05(95%CI 0.77-1.44)、若年のFOLFOX4群0.74(0.62-0.88)、高齢のFOLFOX4群0.71(0.50-1.02)で、TTRについても年齢と治療の相互関係はなかった。FOLFOX4療法によるTTRの改善もみられなかった(HR 0.72、95%CI 0.47-1.11、p=0.140)。高齢患者の5年TTRはFOLFOX4群78.8%、FL群69.9%であった。
 OSに関する治療と年齢の相互関係は、若年のFL群に対する高齢FL群のHR 1.17(95%CI 0.85-1.61)、若年FOLFOX4群0.80(0.66-0.97)、高齢FOLFOX4群1.27(0.93-1.74)で、相互関係はみられなかった(p=0.180)。また高齢患者における6年OSは75.8% vs 76.1%で、FOLFOX4療法はOSの改善も示さなかった(HR 1.10、95%CI 0.73-1.65、p=0.661)。
 重篤な有害事象はFOLFOX4群30例、FL群15例でみられた(p=0.018)。FOLFOX4療法の忍容性およびdose intensityは高齢群と若年群で同等であった。
 以上のように、ステージIIの結腸癌患者のうちlow-risk例についてはL-OHPの上乗せ効果は認められず、high-risk例ではTTRは改善されたもののDFS、OSに対するL-OHPの効果はみられなかった。また、高齢患者に関してはDFS、TTR、OSすべてでL-OHPから得られるbenefitはなかった。本解析は探索的解析であり、高齢患者は症例数が少ないこと、年齢が75歳までに限定されていたことなど、結果の解釈には注意が必要ではあるが、L-OHPの上乗せ効果がステージIII、若年患者に比べて低かったことを考えると、とくにhigh-riskステージIIの患者と高齢患者に対する安全で有効な術後補助療法の決定は今後も引き続き究明されるべき問題であろう。

監訳者コメント

ステージII high-risk、高齢者に対する結腸癌補助化学療法にL-OHP は必要か?

 本試験はFOLFOX療法が結腸癌術後補助化学療法として有用であることを証明したMOSAIC試験のサブ解析として、ステージII low-risk、high-riskおよび高齢者(70〜75歳)について検討されている。NCCN、ESMOのガイドラインでは結腸癌ステージII high-riskの定義は、慣習的に定義されたもので、根拠はないが、今回の結果からは、ステージII high-riskに対してL-OHPの上乗せ効果は、TTRのみ認められたが、DFS、OSには認めらなかった。また、本試験は年齢の上限が75歳であるため、高齢者を70〜75歳と定義し検討を行っているが、高齢者に対するDFS、TTR、OSすべてにおいて上乗せ効果は認められなかった。しかし、高齢者の40%がステージII、FOLFOX群で2次癌の発生頻度とその死亡症例が多いなど、2群間に偏りが認められることを考えると、本結果をもって、ステージII high-risk、高齢者にFOLFOX療法は必要ないと結論づけはできないと考える。MOSAIC試験でも報告されているが、L-OHPによる末梢神経障害が治療中止後長期にわたり持続するといった問題もあり、L-OHPにより本当にbenefitを得られる患者を選択していくことが今後の課題と考える。現在MOSAIC試験、C07試験からL-OHPによるbenefitに関するpredictive factorの検討が進行中であり、その結果を待ちたい。

監訳・コメント 埼玉医科大学総合医療センター 石橋 敬一郎(消化管・一般外科・准教授)

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