論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2013年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

前治療歴のある遠隔転移を有する大腸癌に対するTAS-102単独療法:第II相二重盲検プラセボ対照ランダム化試験

Yoshino T, et al. Lancet Oncol, 2012 ; 13(10) : 993-1001

 切除不能の遠隔転移を有する大腸癌治療においてはfluoropyrimidine、CPT-11、L-OHP、bevacizumab、cetuximabなどの薬剤により延命効果の改善がみられ、患者の多くは良好な長期PSを得られるが、一方でこれらの薬剤に不応あるいは忍容不能の患者に対する標準療法は存在しない。TAS-102はヌクレオシド系の新規薬剤であり、他の抗癌剤とは異なる作用機序をもつため、様々な抗癌剤に抵抗性の腫瘍に対する効果が期待されている。アメリカで行われたいくつかの第T相試験では25 mg/m2の1日2回経口投与が最大耐用量であったが、その後の日本の第T相試験では35 mg/m2をアメリカと同じスケジュールで投与して延命効果の改善をみた。そこでTAS-102の有効性と安全性をさらに検討するために日本国内で多施設共同第II相二重盲検プラセボ対照ランダム化試験を行った。
 対象は、組織学的または細胞学的に切除不能な遠隔転移を有する大腸腺癌と診断され、2レジメン以上の標準化学療法歴があり、fluoropyrimidine 、CPT-11、L-OHPに不応または忍容不能だった20歳以上の患者(ECOG PS 0〜2)である。
 患者はTAS-102+BSCまたはプラセボ+BSC療法に2:1でランダムに割り付けた。TAS-102またはプラセボは35 mg/m2(15 mg錠と20 mg錠の2錠)を1日2回、食後に経口投与した。投与は5日間投与、2日間休薬を2週間続け、その後14日間休薬する1コース28日のスケジュールで、病勢進行または忍容不能の有害事象が生じるまで行った。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、腫瘍縮小効果、病勢コントロール率(治療開始から6週以上持続するCRまたはPR+SD)、奏効期間、time to treatment(TTF)、KRAS変異の有無別にみたTAS-102の効果、有害事象とし、有効性はintention-to-treat解析、有害事象はper-protocol解析で評価した。追跡期間の中央値は11.3ヵ月である。なお、PFS、腫瘍縮小効果と奏効期間、TTFは独立した外部の委員会による放射線学的評価を受けた。
 2009年8月〜2010年4月に113例がTAS-102群に、57例がプラセボ群にランダムに割り付けられたが、TAS-102群の1例は禁止されていた治療を同時に受けていたため、有効性解析から除外した。患者の背景因子は、術後補助化学療法を受けた患者がプラセボ群の26%に対してTAS-102群で48%と多かったことを除けばほぼ同等であった。両群の年齢中央値は63歳、62歳、男性57%、49%で、両群とも患者の大半が大腸癌治療に用いられるすべての薬剤に不応であった。
 OSのカットオフ日は2011年2月4日で、その時点でTAS-102群75例、プラセボ群48例の死亡が認められた。OSの中央値は9.0ヵ月 vs 6.6ヵ月でTAS-102群で有意な延長をみた(HR 0.56、95%CI 0.39-0.81、p=0.0011)。サブグループ解析でもすべてのグループでTAS-102群が優れていたが、有意差はみられなかった。
 PFSの中央値は独立委員会の評価は2.0ヵ月 vs 1.0ヵ月(HR 0.41、95%CI 0.28-2.59、p<0.0001)、研究者の評価でも2.7ヵ月 vs 1.0ヵ月(p<0.001)、とTAS-102群が有意に延長していた。
 腫瘍縮小効果は、研究者の評価でも独立委員会の評価でもTAS-102群で1例がPRであったが(奏効期間は225日以上)、プラセボ群ではPRに達した患者はいなかった。病勢コントロール率は研究者の評価ではTAS-102群が54%(PR 1%、SD 54%)、プラセボ群が14%(すべてSD)、また独立委員会の評価でも43% vs 11%でTAS-102群が有意に優れていた(両者の評価ともp<0.0001)。
 TTFの中央値は独立委員会の評価で1.9ヵ月 vs 1.0ヵ月(p<0.0001)、研究者の評価では2.7ヵ月 vs 1.0ヵ月(p<0.0001)であった。有害事象のために20%でTAS-102の減量を要し、31%が治療中断を余儀なくされたが、中央値7日間の中断で全例が治療を再開した。データのカットオフ時、TAS-102群99例、プラセボ群56例が病勢進行により治療を中止しており、TAS-102群では4例が治療を継続していた。
 KRAS野生型はTAS-102群55%、プラセボ群48%、変異型はそれぞれ45%、52%であった。野生型群のOS中央値は7.2ヵ月 vs 7.0ヵ月(p=0.191)、変異型群では13.0ヵ月 vs 6.9ヵ月(p=0.0056)でKRAS変異の有無によるOSの有意差はみられなかったが、野生型群に比べ変異型群のほうでよりTAS-102の効果が大きいようであった。
 独立委員会による評価では、PFSの中央値は野生型群が1.9ヵ月 vs 1.0ヵ月(p=0.0004)、変異型群は2.8ヵ月 vs 1.0ヵ月(p<0.0001)、病勢コントロール率は野生型群が41% vs 8%(p=0.0038)、変異型群が47% vs 12%(p=0.0037)であった。
 安全性の評価はTAS-102群では有効性の解析から除外した1例を含めた113例で行った。TAS-102群で5%以上の患者が発症したグレード3/4の有害事象は好中球減少50%、白血球減少28%、貧血17%、リンパ球減少10%、疲労6%、下痢6%であった。プラセボ群でみられたグレード3以上の有害事象は貧血5%、疲労4%、食欲不振4%のみであった。重篤な有害事象はTAS-102群19%、プラセボ群9%でみられた。TAS-102群の8例とプラセボ群の9例は治療開始後12週以内に死亡したが、全例が病勢進行によるものであり、試験中の治療関連死は認められなかった。
 標準治療に不応または忍容不能な遠隔転移を有する大腸癌患者において、TAS-102は投与方法も簡便で忍容性も良好であり、有望な効果を示した。現在、本試験と同じ投与スケジュールでTAS-102とプラセボを比較する国際第III相試験が行われており、TAS-102の効果が検証されるものと思われる。

監訳者コメント

標準化学療法後のサルベージラインに吉報

 近年、切除不能進行・再発大腸癌の化学療法は格段の進歩を遂げており、key drugである5-FU・L-OHP・CPT-11の3剤に分子標的薬であるbevacizumab・抗EGFR抗体薬を併用することにより、生存期間の延長が期待できる。さらに米国では、VELOUR試験で報告されているafliberceptが2012年8月に承認されており、CORRECT試験で報告されているregorafenibも2012年9月に承認されている。そして今回、標準化学療法に不応となった切除不能進行・再発大腸癌を対象にTAS-102での成績が報告された。同じような対象のregorafenibのCORRECT試験と比較しても、OS中央値regorafenib群6.4ヵ月、プラセボ群5.0ヵ月に対しTAS-102群9.0ヵ月プラセボ群6.6ヵ月と良好な成績であった。KRAS変異型患者においてより高い治療効果がみられる傾向もあり興味深い。今後、日本においてもregorafenibが2012年7月に優先審査に指定されており、TAS-102、afliberceptも使用可能な時代になるだろうが、最良の治療アルゴリズム・併用レジメンを確立する研究や個別治療を可能にするバイオマーカーの研究にも期待したい。

監訳・コメント 石川県立中央病院 小竹 優範(消化器外科・医長)

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