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　承認薬剤によるあらゆる標準的な治療を行ってもなお病勢進行した転移性大腸癌患者にはこれ以上の治療オプションがない。しかし、彼らの多くは良好なPSを維持しており、さらなる治療を受けられる状態にあることから、追加治療が求められる。経口マルチキナーゼ阻害薬regorafenibは前臨床試験において大腸癌を含む癌モデルで抗癌作用を示しており、治療歴のある転移性大腸癌患者を対象とした第I相試験でも期待のもてる結果が報告されている。そこで、regorafenibの第III相試験（CORRECT）を行い、その有効性と安全性を評価した。
　対象は、18歳以上、ECOG PS 0/1の大腸腺癌患者で、現在承認されている標準療法の最終治療後3ヵ月以内に病勢進行をみた、あるいは許容しがたい有害事象のために標準療法を中止した症例である。標準療法は、fluoropyrimidine、L-OHP、CPT-11、bevacizumabを、KRAS野生型の場合はcetuximabまたはpanitumumabを含むものとした。
　患者は全例がbest supportive care（BSC）を受け、regorafenib（R）群またはプラセボ（P）群に2：1にランダム化割付された。regorafenibまたはプラセボは160 mg/日を3週間投与、1週間休薬を1コースとして病勢進行、死亡、投与困難な有害事象をみるまで継続した。なお、クロスオーバーは認めていない。
　主要評価項目は全生存期間（OS）、副次評価項目は無増悪生存期間（PFS）、奏効率、病勢コントロール率、安全性とした。
　2010年4月〜2011年3月に16ヵ国114施設から1,052例が登録され、うち適格患者760例が2：1の割合でR群（505例）またはP群（255例）に割り付けられた。データのカットオフは2011年7月21日とした。年齢中央値はR群61歳、P群61歳、男性はそれぞれ62％、60％、KRAS変異例は54％、62％、BRAF変異例は4％、2％であった。遠隔転移診断後の治療ライン数4以上は49％、47％で、全例がbevacizumab投与を受けていた。
　有効性の評価はintention-to-treat解析で行った。
　主要評価項目であるOSの中央値はR群が6.4カ月（IQR 3.6-11.8）、P群では5.0ヵ月（2.8-10.4）であり、P群に対するR群のOSのHRは0.77（95％CI 0.64-0.94、p＝0.0052）でR群で有意に延長した。
　副次評価項目であるPFSの中央値はR群で1.9ヵ月（IQR 1.6-3.9）、P群では 1.7ヵ月（1.4-1.9）であり、P群に対するR群のRFSのHRは0.49（95％CI 0.42-0.58、p＜0.0001）でPFSにおいてもR群が有意に延長していた。
　25項目のサブグループ解析をしたところ、OSにおいては、原発巣が直腸か結腸かの群を除いてすべてR群が優れていた。regorafenibの効果は直腸癌群（HR 0.95）に比べて結腸癌群（HR 0.70）で大きかった。PFSのサブグループ解析では、有意差のみられなかった東欧の患者を除きすべてR群が優れており、OSと同様、直腸癌に比べて結腸癌においてregorafenibの効果が大きくみられた。
　また、奏効率はR群1.0％、P群0.4％（すべてPR）で有意差はなかった。病勢コントロール率（ランダム化後6ヵ月以上の時点で評価したPR＋SD）はR群41％、P群15％で、R群が有意に優れていた（p＜0.0001）。
　安全性の評価はR群500例、P群253例で行った。治療関連と思われる副作用はR群465例（93％）、P群154例（61%）で認められた。頻度の高かった副作用はR群では疲労、手足皮膚反応でそれぞれ47％に、P群では疲労と食欲不振が28％、15％にみられた。多くの副作用は治療初期（1〜2コース）で発生していた。グレード3/4の副作用はR群54％、P群14％で認められた。regorafenib関連では手足皮膚反応（17％）、疲労（10％）、下痢（7％）、高血圧（7％）、皮疹／落屑（6％）が高頻度であった。R群44％、P群40％で重篤な副作用を経験した。
　試験中、R群69例（14％）、P群41例（16％）が死亡したが、大半は病勢進行を死因としており、副作用による死亡はそれぞれ8例、3例のみであった。
　QOLはEORTC QLQ-C30とEQ-5Dで評価したが、QOL低下と健康状態の差は両群間でみられなかった。
　すべての標準治療後に病勢進行した転移性大腸癌患者においてBSC下のregorafenib療法はプラセボに比べて優れた延命効果を示した。また、奏効率は低かったもののSDが40％以上にみられたことから、regorafenibの主な効果は腫瘍縮小ではなく病状を安定させることにあるのかもしれない。ヒト大腸癌に対するregorafenibの作用機序はまだ判明していないが、regorafenibは転移性大腸癌に対する新しい標準療法になりうるであろう。今後、さらなる研究を重ねてregorafenibのbenefitを受ける患者群を特定するバイオマーカーを見つけることが望まれる。

　Regorafenibは、血管新生に関わるVEGFR1-3やTIE-2、間質系に関わるPDGFR-βやFGFR、腫瘍増殖にかかわるRAFなどの受容体チロシンキナーゼを標的とする経口マルチキナーゼ阻害剤である。
　これまでに、切除不能進行・再発大腸癌に対してsunitinibを含めた多くの低分子化合物の開発が行われてきたが、すべて生存期間の延長には寄与してこなかった。そのなかで今回、regorafenibで初めてpositiveな結果が報告されたのは興味深い。おそらくこれまでの試験では、他の化学療法との併用での効果を検証したものであり、副作用のためdose intensityを保てなかったことが影響し、negativeな結果になったと考えられる。
　Regorafenibは、優先審査に指定されていたが、3月25日に厚生労働省より「治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌」の適応症で製造販売承認された。
　Regorafenibは、TAS-102と共に今後のサルベージラインでの治療の一躍を担うと思われるが、グレード3以上の手足症候群、倦怠感、高血圧などを認めるため注意が必要である。2012年の日本臨床腫瘍学会にてCORRECT試験で登録された日本人症例100人の安全性や有効性のサブ解析の結果が報告され、効果に関しては日本人でも同等の効果が得られたが、有害事象に関して手足皮膚反応が日本人で多い傾向にあり、特に注意が必要である。

監訳・コメント：佐野病院　小�� 雅人（消化器センター長）