監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
KRAS野生型で標準的な化学療法に抵抗性の遠隔転移を有する大腸癌患者に対するpanitumumab+CPT-11併用療法:有効性、忍容性、translational molecularを評価したGERCOR試験
Andre T. et al. Ann Oncol., 2013 ; 24(2) : 412-419
遠隔転移を有する大腸癌のEGFR分子標的薬として現在cetuximabとpanitumumabが承認されているが、KRAS変異を有する患者では両剤の効果は低い。KRAS野生型の場合、cetuximabおよびpanitumumabの単独療法でBSC(best supportive care)に比べ奏効率もPFSも優れると報告されているものの、奏効率は20%未満であることを考えると、他の遺伝子変異も予後予測に関連していると思われる。そこで、濃厚な前治療歴のある、KRAS野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者に対するCPT-11+panitumumab併用療法によるthird-line治療の有効性と安全性を評価し、かつ予後予測に関連する遺伝子変異を検討する多施設共同第II相シングルアーム試験を行った。
適格症例としては、CPT-11、L-OHP、fluoropyrimidine±bevacizumabによる治療に対して抵抗性を示し、遠隔転移を有するKRAS野生型(各施設において判定されたcodon 12、13のKRAS変異状況に基づく)大腸癌患者である。その他の適格基準は18歳以上、ECOG PS 0〜2、余命>3ヵ月、抗EGFR抗体治療歴のないこと、などとした。
適格患者にpanitumumab 6mg/kgをday 1に60分で静注、その直後にCPT-11 180mg/m2を90分で静注した。これを1コースとして14日ごとに、病勢進行または忍容不能な副作用をみるまで実施した。
主要評価項目は奏効率(mRECIST基準)、副次評価項目はPFS、OS、安全性、サブグループ別の有効性とした。データカットオフは2012年1月、追跡期間の中央値は25.6ヵ月である。
2008年7月〜2010年10月に登録された69例のうち適格症例は65例であった。標本が提供され、遺伝子変異の評価を中央のラボで行うことが可能であった 60例について変異状況を再解析したところ、施設における評価と異なり、codon12におけるKRAS変異が6例に認められた。他に稀なKRAS変異が4例、BRAF変異が4例、NRAS変異が5例認められた。以上から、KRAS codon 12、13(以下、KRAS野生型群)は54例であり、KRASを含む何らかの変異型群(以下、変異型群)は19例、何の変異もない全野生型群は41例と分類された。
EGFR増幅状況を調べたところ、評価可能50例中FISH陽性(増幅またはポリソミー)は19例、陰性は31例で、陽性の19例中4例でとくに高度な増幅がみられた。
全65例の奏効率は29.2%(CR4.6%、PR24.6%)、SD、PDは双方ともに33.8%であった。PFSとOSの中央値は5.5月(95%CI 3.7-7.6)、9.7ヵ月(95%CI 6.6-15.8)であった。
遺伝子変異の有無別にみると、奏効率はKRAS野生型群では35.2%(CR5.6%、PR29.6%)、全野生型群では46.3%(7.3%、39.0%)、変異型群では0%、SD/PDはそれぞれ31.5%/31.5%、34.1%/17.1%、21.1%/73.7%、PFSは6.3ヵ月(95%CI 3.7-8.7)、8.7ヵ月(95%CI 5.5-10.4)、1.9ヵ月(95%CI 1.5-2.4)、OSは11.9ヵ月(95%CI 6.8-18.2)15.8ヵ月(95%CI 9.5-25.1)、4.6ヵ月(95%CI 3.3-7.9)であった。CRに達した3例にEGFR増幅はみられなかった。EGFRコピー数の多かった4例中3例は全野生型であり、そのうちの2例は奏効例であったが、PFSとOSの改善は認められなかった。
グレード3/4の治療関連有害事象は55.3%にみられたが、重篤な副作用または副作用による死亡はなかった。グレード3/4の副作用で頻度が高かったのは皮膚疾患(32.3%)、好中球減少(12.3%)、下痢(15.4%)で、panitumumab関連のinfusion reaction(グレード3/4)はみられなかった。
以上のように、標準的化学療法不応の遠隔転移を有するKRAS野生型大腸癌患者に対し、panitumumab+CPT-11併用療法は簡便かつ安全に実施可能で、新たなthird-line治療のオプションとなりうると考えられた。奏効率は遺伝子変異状況によって異なり、KRAS野生型および全野生型患者で高い奏効率がみられたことから、分子バイオマーカー測定の重要性は明らかである。今後はcodon 12、13以外のKRAS、BRAF、NRASなどの遺伝子変異の有無を調べることによって、個別化医療を推し進め不要な治療を避けられる可能性がある。
CPT-11+panitumumab併用療法によるthird-line治療における有効性と安全性、ならびに遺伝子変異の影響
5-FU、L-OHPおよびCPT-11の治療後に病勢進行が認められたKRAS遺伝子野生型の切除不能進行・再発大腸癌症例に対する抗EGFR抗体とCPT-11の併用療法は、すでに同グループより第II相試験の結果がASCO 2011で発表されている1。今回の成績は奏功率、PFS、OSともに少し劣るが、ほぼ匹敵するものある。
注目すべき点は、各施設におけるKRAS変異の判定と中央ラボにおける判定の相違が10%もの症例で見られたことである。このようなことから、遺伝子検査の判定については、1ヵ所の中央ラボで再解析を行うことが望ましいのではないかと問題提起している。
抗EGFR抗体薬は遺伝子多型により効果に差があり、KRASについては周知である。その下流にあるBRAFやNRASについての報告は限られている。CetuximabにおいてLauent-PuigやDe RoockらがKRASやBRAF、NRASのいずれかに変異がある場合、効果が悪かったと報告している2。本研究で、PanitumumabにおいてもKRASやBRAF、NRASに変異がある場合、効果が悪いことが示唆された意義は大きい。遺伝子検索に基づいて、効果が期待できない人への投与を控えることにより、個別化治療を推し進める手助けとなると考えられる。
監訳・コメント:京都逓信病院外科 徳永 行彦(外科部長)
1 B. Chibaudel, et.al. Phase II study of panitumumab with irinotecan for patients with KRAS wild-type metastatic colorectal cancer (MCRC) refractory to standard chemotherapy: A GERCOR study (abst#3573). American Society of Clinical Oncology 47th Annual Meeting, Chicago, IL, USA, Jun 2011
2 De Roock W, et.al. Effects of KRAS, BRAF, NRAS, and PIK3CA mutations on the efficacy of cetuximab plus chemotherapy in chemotherapy-refractory metastatic colorectal cancer: a retrospective consortium analysis. Lancet Oncol. 2010 Aug; 11(8): 753-62.
GI cancer-net
消化器癌治療の広場