監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
大腸癌の可能性がある症状を有する患者の検診におけるコンピュータ断層撮影コロノグラフィvs 大腸内視鏡(SIGGAR): 多施設共同ランダム化試験
Atkin W. et al. Lancet, 2013 ; 381(9873) : 1194-1202
大腸内視鏡(以下、内視鏡)は大腸癌の可能性がある症状の検査法としてゴールドスタンダードであるが、高齢者や合併症を発症している患者には負担が大きく、代替検査法のほうが好ましい場合がある。その1つの選択肢であるコンピュータ断層撮影コロノグラフィ(CTC)は内視鏡に比べ侵襲度が低く、より安全で患者にも受け入れられやすいと考えられる。しかしCTCでは、診断確定のために追加の検査が必要となることがある。系統的なレビューではCTCと内視鏡は大腸癌および大きなポリープを検出する感度の点で同等であるとしているが、大腸癌の症状を有する患者においてこの2つを比較したランダム化試験はない。そこで、CTCと内視鏡検査について、診断確定のための追加検査実施率を比較するランダム化試験を行った。
対象は、家庭医からの照会により英国国内21施設で大腸癌検査に登録された癌の遺伝的素因のない55歳以上の患者で、内視鏡検査適応症例とした。患者は内視鏡群またはCTC群に2:1でランダムに割り付けられた。内視鏡もCTCもガイドラインに基づいて実施し、CTCは少なくとも二次元画像での解析が求められた。
主要評価項目は追加検査必要率、副次評価項目は大腸癌または大きなポリープ(最大径10mm以上)の検出率、その他の大腸疾患発見率、大腸癌見逃し率、他臓器癌診断率、全死亡率、重篤な有害事象発生率である(大腸癌見逃し率と有害事象発生率は割り付けられた検査を実際に受けた症例のみで解析、その他はITT解析)。大腸癌の見逃しは、内視鏡またはCTCでは発見されなかったものの、ランダム化後36ヵ月以内にNHS Information Center(NHSIC)で大腸癌と判定された症例とした。
2004年3月〜2007年12月に登録された8484例のうち、本試験の適格患者1580例を内視鏡群1047例、CTC群533例に割り付けた。
主な患者背景は、年齢中央値68歳、女性55%、頻度の高かった症状として排便習慣の変化、直腸出血、腹痛がみられた。割り付けられた検査を実際に受けたのは内視鏡群92.4%、CTC群94.4% だった。CTC群の8例は割り付けられた検査の前にS状結腸検査鏡(FS)を受けていた(内視鏡群のFSはなし)。
追加の検査は内視鏡群8.2%(86例)、CTC群ではその約3倍の30.0%(160例)で実施された(相対リスク:RR 3.65、95%IC 2.87-4.65、p<0.0001)。
内視鏡群で追加検査を必要とした理由は、不完全な検査6.9%(72例)、大腸癌またはポリープ疑いの検証1.2%(13例)、症状遷延1例であった。
一方、CTC群の追加検査は15.6%(83例)が大腸癌疑いまたは10mm以上のポリープの検証のためであり、9.2%(49例)が10mm未満のポリープ、5.3%(28例)がCTC不完全または臨床的不確実性によるものであった。追加検査で29例に大腸癌、26例に10mm以上のポリープが発見されたが、大腸癌の29例全例およびポリープの26例中22例では初回CTCで大きな病変が検出されていた。
男女別に追加検査の必要性をみると、男性で追加検査を必要としたのは内視鏡群5.7%、CTC群36.2%と約6倍の差がみられたが、女性では10.3% vs 24.9%で差は約2倍であった(男女差のp=0.0002)。年齢による差はなかった。
大腸癌または10mm以上のポリープ検出率は内視鏡群11.4%(うち0.3%は代替検査にて検出)、CTC群10.7%(うち0.2%は代替検査、0.4%はFSにて検出)で、検出率(FSによる検出は除く)に差は認められなかった(RR 0.94、95%CI 0.70-1.27、p=0.69)。
癌以外の大腸疾患検出率に関しては、憩室炎はCTC群が高く、大腸炎は内視鏡群で高かった。
大腸癌の見逃し率はCTC群が3.4%、内視鏡群では見逃しはなかった。
追跡期間(中央値)5.2年で、内視鏡群14.7%、CTC群11.8%が死亡した(有意差なし)。
追跡期間3年の間に内視鏡群56例、CTC群27例で原発性他臓器癌が認められたが罹患率に両群で有意差はなかった(罹患率比 0.94、95%CI 0.59-1.49、p=0.79)。
内視鏡群12例、CTC群6例が予期せぬ30日以内の入院となった。そのうち内視鏡検査が原因と考えられるのは3例(腹痛1例、直腸出血1例、下痢・嘔吐1例)であった。CTC後内視鏡検査を受けた1例は穿孔が疑われて直ちに入院したが、穿孔は認められず翌日退院となった。1例はCTCで発見された大腸癌手術により30日以内に死亡した。
本研究は、大腸癌と疑われる症状を示す患者の検査において大腸内視鏡とCTCを比較した初の解析である。CTCは追加検査の必要性が内視鏡に比べて高かった。追加検査は患者の不安を増し、費用もかかる。しかし、多くの患者に関してCTCは内視鏡と同等の感度を示し、内視鏡に代わる低侵襲度の検査法である。とくに女性の場合、内視鏡検査の不完全度が高く、男性に比べポリープも少ないことからCTCが適していると考えられる。今後はCTC施行についてのガイドラインが整備されれば、first-lineの検査としてCTCが更に普及できると示唆される。
大腸癌が疑われる患者においてCTCが初期検査になりうるか
大腸内視鏡は苦痛を伴いやすい検査であるため、より非侵襲的であるCTCは代替え検査として注目される。臨床的に重要な大腸癌や10mm以上のポリープの検出では、CTCは大腸内視鏡検査と同等の感度であると報告される。しかし追加検査が必要になること、検査費用の増大、CTCの大腸外病変の指摘など多面的な評価すべき要素がある。大腸癌を疑う症状を有する患者を対象として、大腸内視鏡とCTCを多面的に比較した点で、この論文は実臨床上でのCTC検査の大腸内視鏡の代替療法としての有用性をエビデンスとして評価したものといえる。
主要評価項目である追加検査率がCTC群で3割以上であったのはかなり多いという印象を与える。女性は大腸病変がより少なく大腸内視鏡不完全施行率がより高いことから、追加検査が少なくなる母集団として取り上げられている。どちらの検査をファーストラインの検査として行うべきか否かは、症例に応じて総合的に考える必要があることが示唆される。過去の報告同様、大腸癌および10mm以上のポリープ検出感度は両群で同等であったことなどから、代替検査としてのCTCの有用性は大きいと考えられ、今後の検査方法の向上や、追加検査をすべき症例の絞り込みなどがなされれば、より臨床上有用な検査方法となる可能性が示唆された。
監訳・コメント:市立豊中病院 森田俊治(下部消化管外科部長)
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