監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
KRAS野生型で切除不能肝限局転移大腸癌患者に対するcetuximab併用化学療法のランダム化対照比較試験
Ye L-C., et al., J Clin Oncol, 2013 ; 31(16) : 1931-1938
肝転移を有する大腸癌患者の予後は不良である。しかし切除可能な肝転移患者は20%に満たないことから、現時点ではその最初の治療目標は根治的切除率を最大限向上させることにある。近年cetuximabと化学療法の併用が注目を集めており、その有効性が多数報告されているが、肝切除に対する影響を検討した研究は少なく、またcetuximabをベースとした試験に登録されている患者はアジア人(特に中国人)に比べて欧米人が多い。そこで、切除不能な肝限局転移を有するKRAS野生型大腸癌患者に対するfirst-line治療としてのcetuximab併用化学療法が肝転移の根治的切除に与える影響を検討した。
原発腫瘍切除術を受け、肝臓限局性に切除不能な同時転移がみられる中国人のKRAS野生型、治療歴のない大腸癌患者で、18歳以上75歳以下、PS 0〜1(EGOC基準)、余命3ヵ月以上の症例を対象とした。適格患者はcetuximab併用化学療法(A群)または化学療法単独(B群)にランダムに割り付け、初回手術から2〜4週の間に治療を開始した。
A群には、当初、cetuximabを開始用量400mg/m2、以降250mg/m2で週1回(Day 1)投与し、2011年以降は500mg/m2を2週ごとに(Day 1)投与した。cetuximab投与1時間後、mFOLFOX6またはFOLFIRI投与を行った。B群には化学療法のみを同じレジメンで実施した。mFOLFOX6またはFOLFIRIの選択はランダム化前に行い、治療は14日を1コースとして肝臓の転移巣が切除可能になるまで、または病勢進行、忍容しがたい有害事象がみられるまで継続した。
主要評価項目は肝切除可能率、副次評価項目は奏効率、OS、PFSで、そのほか安全性についても評価した。生存例のデータカットオフは2012年6月、全例の追跡期間の中央値は25.0ヵ月である。
2008年6月〜2011年12月に適格患者138例をA群70例、B群68例にランダム化した。
138例の年齢中央値はA群57.0歳、B群59.0歳、女性34.3%、38.2%で、化学療法については、mFOLFOX6実施が51.4%、45.6%、FOLFIRIが31.4%、30.9%で、17.1%、23.5%が両方を受けた。PFS中央値は7.3ヵ月、OS中央値は24.4カ月、3年OSは30%であった。
A群20例、B群9例が根治的肝切除可能となったが、A群2例、B群4例は患者の拒否などのため、実際にはA群18例、B群5例がR0切除術を受けた。したがって切除可能率は25.7%、7.4%で、A群が有意に高かった(オッズ比4.37、p=0.001)。
A群ではB群に比べ奏効率(CR+PR、57.1% vs 29.4%、P=0.001)、OS(3年OS 41% vs 18%、中央値30.9 vs 21.0ヵ月、HR 0.54、P=0.013)、PFS(中央値10.2ヵ月vs 5.8ヵ月、HR 0.60、P=0.004)のすべてで有意な改善がみられた。
肝切除術実施の有無別にA群B群を比較すると、切除術非実施例(52例、63例)ではOS(25.7ヵ月vs 19.6ヵ月、p=0.050)、PFS(7.7ヵ月vs 5.4ヵ月、p=0.028)ともA群が有意に優れていたが、切除術実施例ではOS(46.4ヵ月vs 36.0ヵ月)にもPFS(12.7ヵ月vs 16.5ヵ月)にも有意差はみられなかった。
次にA群、B群別に肝切除術実施の有無によるOSをみると、A群では実施例46.4ヵ月に対し非実施例25.7ヵ月(p=0.007)、B群では36.0ヵ月vs 19.6ヵ月(p=0.016)でどちらの群でも切除術実施例のOSが優れていた。A群ではmFOLFOX6、FOLIFORIによる違いはみられなかった。
BRAF変異はA群10例、B群7例で認められた。A群では変異型群 vs 野生型群の奏効率(40% vs 60%、p=0.31)、PFS(8.1ヵ月 vs 10.2ヵ月、p=0.30)は有意差なしだったが、OSは17.9ヵ月vs 34.3ヵ月で野生型群が有意に優れていた(p=0.043)。B群でも奏効率とPFSに有意差はなく、さらにOSも18.6 vs 21.5ヵ月(p=0.45)で有意差はみられなかった。
有害事象の大半は両群で軽微であり、cetuximabに起因する死亡はなかった。グレード3/4の副作用はざ瘡様発疹がA群で多くみられた(12.9% vs 2.9%、p=0.032)ほかは下痢、白血球減少/好中球減少、悪心/嘔吐、末梢神経障害等、同等の頻度であった。肝切除実施例では、周術期において化学療法またはcetuximabによる重篤な肝毒性はみられなかった。また、4コース終了前に治療を中止した症例を除くA群59例については、グレード2/3のざ瘡様発疹を経験した患者のほうが0/1の患者に比べ奏効率は有意に優れ、生存期間は延長する傾向にあった。
本解析では対象症例が少ないため、いくつかのサブグループ解析ができなかったこと、追跡期間も短く5年OSに達していないこと、また中国ではcetuximabは非常に高価で経済的な困難から治療を中止せざるを得なかった症例があったことなど、問題点はある。しかし、KRAS野生型で初回切除不能な肝転移を有する大腸癌患者において、FOLFIRIまたはmFOLFOX6療法にcetuximabを併用すると転移肝の切除可能率が上昇し、周術期の合併症はきわめて少なく、長期生命予後が改善するという結果が得られた。今後は中国内の多施設共同で臨床試験を行うことが望まれる。
切除不能の肝転移への抗EGFR薬併用で肝転移切除率を上昇させられるか
CELIM試験は切除不能の肝転移に対してのFOLFOXあるいはFOLFIRIへのcetuximabの上乗効果を奏効率でみたものであったが、この上海からの報告は同様の患者(今回は同時性肝転移でKRAS野生型)を対象に、ずばり、R0切除率を腫瘍評価項目に挙げたRCTとなっている。このような患者では化学療法のみで治癒に持ち込むことはできず、いかに肝切除に持っていけるかが重要になってくる。結果、切除率は25%で化学療法のみの7%より有意に良好というもので、さらに奏効率やPFS、観察期間が短いながらもOSでもcetuximabの上乗せ効果が示された。
今後、切除後の患者の経過を追跡する必要があるが、KRAS野生型の切除不能肝転移症例では1次治療にcetuximabの併用がよさそうである(前述のCELIM試験の長期予後も本年のASCOで示された)。ただし、この試験は単施設の第 II相試験相当と思われ、著者らも述べているように多施設での検証試験も必要であろう。また、併用する分子標的薬としてbevacizumabとの比較は現時点で決定的なものはなく、切除可能な肝転移症例ではcetuximabの上乗せ効果が否定されており(new EPOC試験)、一次治療に併用する分子標的薬を決めるにはまだもう少し悩みそうである。
監訳・コメント:東京女子医科大学東医療センター外科 吉松 和彦(准教授)
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