監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
4遺伝子(KRAS、NRAS、HRAS、BRAF)野生型で遠隔転移を有する大腸癌患者に対するFOLFOXIRIとpanitumumab併用のfirst-line治療 : Gruppo Oncologic Nord Ovest(GONO)による第II相試験
Fomaro L., et al. Ann Oncol, 2013 ; 24 : 2062-2067
遠隔転移を有する大腸癌の治療の中心は化学療法であるが、GONOが報告したFOLFOXIRIレジメンは、FOLFIRIに比べ治療効果が高いことが第V相試験で明らかにされている。一方、KRAS野生型患者のfirst-line治療においてはpanitumumab+FOLFOX4の有効性が報告されている。KRAS codon 12-13 、codon61、HRAS、NRAS、BRAF V600E変異は抗EGFR抗体に対する抵抗性を予測するものと考えられることから、これら4遺伝子が野生型で遠隔転移を有する大腸癌患者においてfirst-line治療としてのFOLFOXIRI+panitumumabの有効性と安全性を評価する第II相オープンラベルシングルアーム試験を行った。
対象は、KRAS、NRAS、HRAS (codon 12-13-61)、BRAF(codon 600)野生型で切除不能な原発性または遠隔転移を有する18〜75歳の大腸癌患者である。PSはECOG基準で、70歳以下は 0-2、71〜75歳は0を適格とした。そのほか、術後補助化学療法完了後12ヵ月以内の初回再発、転移大腸癌に対する緩和的化学療法歴、登録28日以内の手術、42日以内の放射線療法は対象から外した。
適格患者にはday 1にpanitumumab 6mg/kg、続いてCPT-11 150mg/m2投与後、L-OHP 85mg/m2とLV 200mg/m2を同時に投与、さらに5-FU 3000mg/m2の48時間持続静注を開始した。これを寛解導入療法として2週ごとに最大12コース実施した。その後は、維持療法としてpanitumumab±5-FU/LVを同じ投与スケジュールで病勢進行または忍容不能な副作用をみるまで続けた。なお 5-FUは最初の3例のうち2例で重篤な副作用(Grade 3の下痢、Grade 4の下痢+発熱性好中球減少)が生じたため、プロトコルを変更し、2400mg/m2に減量した。
主要評価項目はITT解析による奏効率(RECIST1.1に準じる)、副次評価項目はPFS、転移巣のR0手術実施率、OS、安全性、バイオマーカーである。追跡期間の中央値は17.7ヵ月であった。
患者は、2010年3月〜2011年10月に37例が登録された。患者の年齢中央値は63歳、男性21例、病変部位複数は17例、肝転移限局は12例にみられた。
中央放射線委員会の評価ではCR3%、PR86%、SD8%、PD3%で、奏効率は89%(95%CI 75-96%)であった。患者の54%で腫瘍が50%以上縮小した。肝転移限局例では全例がPRに達した。奏効までの日数は中央値で61日であった。
転移巣の2次手術は16例(43%)で治癒を目的として行われ、R0手術は13例(35%)で達成、うち3例(23%)が病理学的CRに到達した。肝限局転移例ではR0切除は9例(75%)で実施された。
解析時、維持療法中の3例以外は治療を終了していた。28例(76%)で病勢進行がみられた。全例のPFS中央値は11.3ヵ月(95%CI 9.7-12.9ヵ月)、肝限局転移例のPFS中央値は14.2ヵ月であった。死亡は9例(24%)で、OSの中央値には達していない。
プロトコル変更後、全357コース、患者あたり11コース(中央値)の寛解導入療法が実施された。相対的dose intensityは化学療法75%、panitumumab 81%であった。寛解導入療法中、Grade 3/4の血液学的副作用は18例(48%)に生じた好中球減少のみであった。発熱性好中球減少は2例(5%)でみられ、46コース(13%)でG-CSFの予防的投与が行われた。Grade 3/4の非血液学的副作用で10%以上の頻度で発生したのは下痢(35%)、無力症(27%)、口内炎(14%)、皮膚障害(14%)、悪心(11%)であった。
維持療法は149コースが実施され、Grade 3の皮膚障害(24%)、口内炎、末梢神経障害、好中球減少が各5%(1例)にみられた。
重篤な副作用は13例で19イベント発生し、うち2例は死亡した。1例は治療関連死と考えられた。
切除不能遠隔転移を有し、KRAS、NRAS、HRAS、BRAF野生型である大腸癌患者のfirst-line治療においてFOLFOXIRI+panitumumabは高い有効性と転移巣切除術率をもたらした。本試験で用いたFOLFOXIRIでは、下痢を考慮して5-FUとCPT-11の用量をやや減らしたが、それでも5-FUによる重篤な副作用がみられたため5-FUを減量したことで、安全性が高まった。本試験では症例数が少なくまた患者選択を厳密にしたため、得られた結果をKRAS codon12-13野生型の全患者に該当させるわけにはいかないが、FOLFOXIRI+panitumumab療法は上記患者集団にとって有望な治療法であると考えられる。今後は寛解導入療法の期間を短縮し、3剤併用の役割を2剤併用との比較によって明らかにすることが求められる。
本邦でもFOLFOXIRIが一次治療となり得るか?
GONOグループからはASCO 2013で、FOLFOXIRI+bevacizumabとFOLFIRI+bevacizumabを比較したランダム化第III相試験(TRIBE試験)の結果が発表され、 FOLFOXIRI+bevacizumabにおいて主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、奏効率も有意に良好であったことが報告された。また全生存期間(OS)は追跡期間が短く有意差は検出されないものの、FOLFIRI+bevacizumab の25.8ヵ月と比べ31.0ヵ月と生存予後への寄与も期待できる結果であった。また、FIRE-3試験(ASCO 2013で報告)ではKRAS野生型に対して一次治療として、FOLFIRI+cetuximabがFOLFIRI+bevacizumabに対して主要評価項目であった奏効率は有意差を認めなかったが、OSでは有意に延長しているという結果であり、切除不能進行再発大腸癌に対する一次治療からの抗EGFR抗体の使用による高い治療効果が報告されている。
本報告はEGFR抗体としてpanitumumabを併用したFOLFOXIRIの第II相試験で、KRAS野生型だけで分けられるグループよりもさらに抗EGFR抗体の効果が期待しやすいグループを対象としている。主要評価項目である奏効率(CR+PR)は89%、R0手術は35%で行われ、半分以上で腫瘍の50%以上の縮小を認め、他の臨床試験よりも高い奏効率と治癒切除率が報告されている。その一方で、重篤な副作用のためにプロトコルの減量が行われ、Grade 3以上の好中球減少が48%、下痢が35%と高率になっている。高い抗腫瘍効果やR0切除率の上昇を認めるためコンバージョンを目指す場合には検討すべきレジメンと考えられる。しかしながら、FOLFOXIRIは、Keyとなる細胞障害性の薬剤を一次治療で全て使用するレジメンであり、その後のメンテナンスや二次治療以降の治療に配慮が必要となる。また安全性の面からも本邦の臨床に導入できるかどうかは注意が必要であり、本邦での報告が待たれる。
監訳・コメント:大阪労災病院 外科 金 浩敏
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