監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
II/III期結腸癌患者に対する新しい術後補助療法へ及ぼす年齢の影響 : ACCENTデータベースからの知見
McCleary NJ. et al. J Clin Oncol, 2013 ; 31(20) : 2600-2607
ACCENT(Adjuvants Colon Cancer End Points)はII/III期の結腸癌患者に対するfluorouracilベースの術後補助療法に関する米国、欧州、豪州、カナダの18試験から個々の患者データを集積したデータベースである。最近L-OHP/CPT-11静注または経口フッ化ピリミジン療法と5-FU静注+LV療法とを比較する試験が新たに7件追加された。この7試験では14,500例以上を登録しており、その18%は70歳以上である。術後5-FU静注は年齢に関係なく有効であることが報告されているが、現在の標準レジメンは5-FU+L-OHP/CPT-11併用または経口フッ化ピリミジンである。そこで、II/III期結腸癌患者において患者年齢が術後補助療法後の再発と死亡に及ぼす影響を、併用化学療法または経口フッ化ピリミジン療法と5-FU静注単独療法とで比較した。
対象は、II/III期結腸癌患者の術後補助療法として1997〜2004年に標準療法である5-FU+LV静注療法(以下、標準療法)と経口フッ化ピリミジン療法または5-FU+L-OHP/CPT-11療法(以下、併用療法)を比較した7つの第III相試験(MOSAIC、NSABP-C07、XELOXA、CALGB-89803、PETACC-3、NSABP-C06、X-ACT)に登録された患者である。
評価項目はDFS、OS、TTR(再発までの期間)で、2次原発結腸/非結腸癌はDFS、TTRのイベントに含めない。併用/経口療法の標準療法に対するそれぞれの項目のハザード比(HR)は性別・治療群・病期で補正したCox比例ハザード回帰モデルにて算出し、年齢と治療法とのP interactionには尤度比検定を用いた。
解析対象14,528例中、70歳以上は2,575例(高齢群)、70歳未満は11,953例(非高齢群)であった。高齢群 vs 非高齢群の主な背景因子は、男性55% vs 55%、II期19% vs 23%、治療は併用/経口療法48% vs 51%(標準療法52% vs 49%)で、両群に差はなかった。
7試験を合わせて解析したところ、HRは、DFSが高齢群1.05(95%CI 0.94-1.19)、非高齢群0.85(95%CI 0.80-0.90)(P interaction=0.001)、OS が1.08(95%CI 0.95-1.23)、0.87(95%CI 0.81-0.93)(P interaction=0.004)、TTRが 1.06(95%CI 0.93-1.22)、0.84(95%CI 0.79-0.89)(P interaction=0.002)で、高齢群では3項目すべてにおいて併用療法または経口療法によるベネフィットは得られず、非高齢群では有意な改善がみられた。
次に試験別の解析結果を示す。
L-OHPベースの3試験(MOSAIC、NSABP-C07、XELOXA)では非高齢群がすべての評価項目において有意に優れていたが、高齢群では有意な改善はみられなかった。また、高齢群ではL-OHP投与の有無にかかわらず治療後6ヵ月以内の死亡のリスクが高かった。
しかしHRが高齢群(1,119例)でDFS 0.94(95%CI 0.78-1.13)、OS 1.04(95%CI 0.85-1.27)、TTR 0.86(95%CI 0.69-1.06)であったのに対し、非高齢群(5,420例)ではそれぞれ0.78(95%CI 0.71-0.86)、0.83(95%CI 0.74-0.92)、0.77(95%CI 0.69-0.85)と非高齢者における効果を再確認する結果であったものの 、P interactionはDFSが0.09、OSが0.05、TTRが0.36で、年齢による有意差は3つの評価項目ともみられなかった。
そこで、高齢群におけるL-OHPの効果をさらに調べるべく、3〜6年の長期追跡を行った。非高齢群ではDFSとTTRのリスクに変化はなく、OSについては6年後にはさらにリスクが低下した。一方、高齢群ではDFSとTTRのHRは1に近づき、OSのHRは1を超えた。従って、高齢群におけるL-OHPの再発リスク低下効果がみられるのは短期間であって、術後3年以上経過すると他の原因で死亡する患者が増え、長期のベネフィットが失われるものと考えられた。
CPT-11ベースの2試験(CALGB-89803、PETACC-3)でも、高齢群に併用療法の効果はみられず、非高齢群ではDFSとTTRに有意な改善が認められた(高齢群と非高齢群のHRはDFSが1.19 vs 0.89、P interaction=0.02)、TTRが1.35 vs 0.88、P interaction=0.002)。しかしOSのHRは1.11 vs 0.90で、年齢による有意差はなかった(P interaction=0.13)。
経口フッ化ピリミジンの2試験(NSABP-C06、X-ACT)では、DFS(P interaction=0.13)、OS(P interaction=0.16)、TRR(P interaction=0.09)の3項目すべてで年齢による有意差は認められなかった。これらの試験は標準療法に対する経口フッ化ピリミジン療法の非劣性試験であるため、経口フッ化ピリミジン療法の効果は5-FU静注療法と同等であると考えられよう。
次に、III期患者のみについて解析を行った。DFSの標準療法に対するHRは経口フッ化ピリミジン療法1.06、CPT-11ベース1.21、L-OHPベース0.91だった。L-OHPベースの試験ではP interaction=0.15で(7試験を合わせたP interactionは0.002)、III期の高齢群では併用療法によるDFSのベネフィットは得られないものの、有意差はないことが示唆された。
さらに70歳以上の患者を70〜74歳(1,989例)と75歳以上(586例)に分けて解析すると、併用/経口療法の標準療法に対するDFSの HRは、全体では70〜74歳群1.09、75歳以上群0.97、L-OHPベースと標準療法の比較では70〜74歳群0.91、75歳以上群1.01、経口フッ化ピリミジンでは1.23、0.93であった。
以上のように、II/III期結腸癌患者においてL-OHPベースの術後補助療法の効果を標準療法と比較したところ、OSに関してベネフィットが得られるのは70歳未満の患者に限られていた。ACCENTデータベースに基づき2009年に実施した解析ではL-OHPベースの試験はMOSAICとNSABP-C07の2件のみで、L-OHPのDFSとOSに対する上乗せ効果のP interactionは非高齢群に対して高齢群は有意であった。しかしXELOXA試験が加わった今回の解析ではDFSに関する有意差はみられなくなった。このことは高齢患者がL-OHPによる術後補助療法からDFSについてはベネフィットを得られることを示唆している。一方でOSのベネフィットは前回の解析と変化なかった。今後さらなる研究を行い、L-OHPのベネフィットを受ける患者を同定することが必要であろう。また、同様に本解析データは経口フッ化ピリミジン単独療法が治療オプションとして適していることを示した。
L-OHPベースの術後補助療法は高齢者に対するOS延長効果なし
高齢者に対する結腸癌手術件数が急増している現在、高齢者に対する術後補助療法のエビデンスは注目度の高い重要なテーマである。ACCENTへ新たに追加された7つの第III相試験登録患者14,528例の長期追跡後のデータ解析の結果、L-OHPベースの3試験(MOSAIC、NSABP-C07、XELOXA)において、高齢者に対するL-OHPのDFS、TTR改善効果は短期的で、OSの延長には寄与しないことが示された。CPT-11ベースの補助療法も同様の結果であったが、経口フッ化ピリミジンでは、年齢によらず上記評価項目に関して5-FU/LVと同等の効果が確認されている。
本解析の結果からは、現時点における70歳以上の高齢者に対する術後補助療法の標準レジメンは、静注5-FU/LV(RPMIレジメン)と経口フッ化ピリミジンであると結論付けられるが、解析対象者は臨床試験へ登録された高齢者であり、欧米とは人口構成も異なるため、実臨床では慎重な適応判断が必要である。本邦では、大腸癌術後補助療法における個別化治療を目指す多施設共同大規模コホート研究B-CAST(Biomarker Cohort study:Adjuvant chemotherapy for Stage III colon cancer)が進行中であり、客観的判断基準の創設が期待される。
監訳・コメント:佐賀大学医学部附属病院 がんセンター 矢ヶ部 知美(助教)
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