監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
大腸癌におけるpanitumumab+FOLFOX4療法とRAS変異
Douillard J-Y., et al. NEJM 2013 ; 369(11) : 1023-1034
遠隔転移を有する大腸癌(以下、転移大腸癌)患者において、KRAS変異は抗EGFR抵抗性の予測バイオマーカーとして確立している。とくにexon 2にKRAS変異があると奏効せず、L-OHPを含む化学療法と併用しても予後は不良になる可能性がある。また、KRASまたはNRAS変異を示す遠隔転移を有する大腸癌も抗EGFR療法が奏効しなかったことが第III相臨床試験から指摘されている。一方、BRAF変異の遠隔転移を有する大腸癌患者についてはcetuximabまたはpanitumumab単独療法が奏効しなかったという報告があるが、BRAF変異の頻度は低く、予測マーカーとしての評価は困難であると言えよう。
本試験は、未治療の遠隔転移を有する大腸癌患者を対象に、panitumumab +FOLFOX4療法におけるKRAS/NRAS変異およびBRAF変異の生命予後に対する影響を前向き-後向きに検討した第III相ランダム化比較試験である(PRIME試験)。
KRAS exon 2に変異のない腫瘍標本を収集し、遺伝子変異はKRAS exon3(codon 61)、exon 4(codon 117と146)、NRAS exon 2(codon12と13)、exon 3(codon 61)、exon 4(codon 117、146)、BRAF exon15(codon 600)で特定した。
主要評価項目はPFS、副次評価項目はOSと安全性で、主な解析目的はKARS/NRASに変異のない群と、KARS/NRASおよびBRAFに変異のない群におけるpanitumumab+FOLFOX療法(P群)とFOLFOX単独療法(F群)との比較である。またRAS野生型群 vs RAS変異型群、RAS野生型群 vs KRAS exon 2野生型+他のRAS変異型群についても比較検討した。
1,183例をP群593例、F群590例にランダムに割り付けた。RAS変異状況が確認できたのは1,060例であった。P群、F群それぞれのKRAS exon2野生型は325例、331例、KRAS exon 2変異型は221例、219.例、RAS野生型は259例、253例、KRAS exon 2野生型+他のRAS変異型51例、57例、RAS変異型272例、276例、BRAF野生型は286例、280例、BRAF変異型は24例、29例であった。
初回解析(データカットオフ2009年8月)では、KRAS exon 2野生型群におけるPFS中央値は、P群9.6ヵ月に対しF群に8.0ヵ月(以下PFS、OSとも中央値)とP群が有意に優れていた(HR 0.80、95% CI 0.66-0.97、p=0.02)。一方、OSは4.2ヵ月改善されていたものの有意差は認められなかったが(23.9 vs 19.7ヵ月、HR 0.83、95%CI 0.67-1.02、p=0.07)、更新解析(データカットオフ2013年1月)では患者の82%が死亡しており、OSは23.8 vs 19.4ヵ月でP群が有意に延長していた(HR 0.83、95% 0.70-0.98、p=0.03)。
主要解析であるRAS野生型群でもPFSは10.1 vs 7.9ヵ月でP群が有意に優れ(HR 0.72、95%CI 0.58-0.90、p=0.004)、OSは初回(26.0 vs 20.2ヵ月、HR 0.78、95%CI 0.62-0.99、p=0.04)、更新時(25.8 vs 20.2ヵ月、HR 0.77、95%CI 0.64-0.94、p=0.009)ともP群で有意な改善がみられた。
反対に、KRAS exon 2野生型+他のRAS変異型群ではPFS(7.3 vs 8.0ヵ月、p=0.33)、初回OS(17.1 vs 18.3ヵ月、p=0.31)更新時OS(17.1 vs 17.8ヵ月、p=0.12)とも有意差はないものの、P群はF群に比べ劣っていた。
同様に、KRAS exon 2変異型群でもPFSは7.3 vs 8.8ヵ月(p=0.02)でP群はF群に比較して有意に劣り、初回OSは15.5 vs 19.3ヵ月(p=0.07)、更新時OSは15.5 vs 19.2ヵ月(p=0.16)で有意差はなかったがF群で延長が認められた。
RAS変異型群ではPFSも(7.3 vs 8.7ヵ月、p=0.008)、初回OSも(15.6 vs 19.2ヵ月、p=0.03)、更新時OSも(15.5 vs 18.7ヵ月、p=0.04)、P群が有意に短かった。
RAS野生型群とKRAS exon 2野生型+その他のRAS変異型群の交互作用検定を行ったところ、初回解析ではPFSは有意(p=0.04)でOSは有意ではなかった(p=0.07)が、更新解析では有意であった(p=0.01)。RAS野生型群とRAS変異型群との交互作用検定はPFS(p<0.001)、初回OS(p=0.004)、更新時OS(p=0.001)のすべてが有意であった。したがってKRAS exon2変異に加え、RAS変異もまた負の生命予後因子であることが示唆された。
次にBRAF変異について解析した。NRAS/BRAF野生型群ではF群に比べP群でPFS 1.6ヵ月(HR 0.68、95%CI 0.54-0.87、p=0.002)、OS 7.4ヵ月(HR 0.74、95%CI 0.57-0.96、p=0.02)の改善がみられた。NRAS野生型+BRAF変異型群では、PFS(HR 0.58、95%CI 0.29-1.15、p=0.12)、OS(HR 0.90、95%CI 0.46-1.76、p=0.76)ともにP群が優れていたものの有意差はみられなかった。BRAF変異はKRAS exon 2野生型群およびNRAS exon 3変異型群でOS不良と関連していた。
安全性に関して新たな有害事象はみられず、P群のNRAS野生型群における有害事象の頻度、タイプ、重篤度は以前KRAS exon 2野生型について報告されていたもの(J Clin Oncol, 2010 ; 28 : 4697-4705)とほぼ同様であった。
以上の前向き-後向き解析から、KRAS exon 2変異とNRAS変異転移を有する大腸癌患者は抗EGFR療法に不応であることが示された。panitumumabとL-OHPを含むレジメンをNRAS変異型遠隔転移を有する大腸癌患者に用いる意味はないが、これらの患者を対象から除外すればbenefit-riskは改善されるであろう。本解析結果はpooled trialあるいはメタアナリシスにて検証されることが望ましい。
抗EGFR抗体薬の新たなPredictive biomarker
今回、実臨床で現在行われているKRAS遺伝子のexon2に加えKRASの他の遺伝子変異とNRAS遺伝子の検査を追加し検討したPRIME試験により、PanitumumabのOSに関する意義がより明確になってきた。Panitumumabの使い分け対象としては、PanitumumabとL-OHPを含むレジメンをRAS変異型転移大腸癌患者に用いる意味はなく、全RAS野生型であれば抗EGFR抗体薬が1st-lineとして有用な選択枝となることが明らかとなった。これよりPanitumumabの適切な治療対象を確定するために、今後検査体制を全RAS解析に向けて再整備をする必要性が示唆された。
監訳・コメント:大阪労災病院 外科 廣田 昌紀(消化器外科・医長)
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