論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

1月
2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

進行肝転移を有する結腸癌患者に対するconversion therapyとしてのpanitumumab+

L-OHP静注+経口capecitabine療法(MetaPan Study)

Leon F. et al. Cancer, 2013 ; 119(19) : 3429-3435

 肝転移を有する大腸癌では肝切除によりPFSが改善し、10〜20%の患者では治癒が望める場合もある。しかし肝切除が明らかに可能、可能性あり、絶対不可能の区別は外科医の経験と放射線や外科の革新的技術などの要素に影響されるため、治癒的切除術を成功させるための術前レジメンの最適化が緊急に求められる。標準的な化学療法不応の肝転移患者に対してcetuximabを化学療法と併用したところ切除率が上昇したという報告があるが、conversion therapyとしてpanitumumabの効果を調べた試験はこれまでにない。そこで、切除不能肝転移を有する結腸癌患者におけるpanitumumab+XELOX(P-XELOX)療法の奏効度と切除可能転換能を検討する前向きな多施設共同第II相試験を行った。
 対象は同時性肝転移(±周辺リンパ節転移)を有する18歳以上、PS<2(ECOG基準)の切除不能結腸癌患者とした。同時性転移のみを適格としたのは、過去の術後補助化学療法の影響を最小にすることと患者集団を極力均一にするためである。肛門縁から12cm以内と診断された直腸癌、肝以外の転移(辺縁リンパ節転移は除く)は不適格とした。2008年、遠隔転移を有する結腸癌でpanitumumabの有効性が認められるのはKRAS野生型患者であることが明らかになったため、同年11月以降はexon 2のcodon 12、13におけるKRAS野生型患者のみを登録することにした。なお転移肝は、複数および両側に同時に病変があり、健常肝50%未満、50%を超える病変が3ヵ所を超える、対側辺縁切除を含むmajor hepatectomyを要する場合を切除不能とした。
 まず全例に対し、panitumumab 9mg/kgとL-OHP 130mg/m2をday 1に静注、capecitabine 1,000mg/m2を1日2回day 1〜14に経口投与し、3週ごとに4コース繰り返した(P-XELOX療法)。4コース終了後奏効度を評価し、SDまたはPRではあるが未だ切除不能と考えられる患者にはP-XELOX療法をさらに4コース行い、切除の可能性を再評価した。CRを得た患者はP-XELOX療法を8コース続けた。手術可能と評価された患者には治癒的な転移巣切除術後、P-XELOXによる化学療法を4コース実施した。
 主要評価項目は奏効率で、ほかにPFS、OS、安全性を評価した。追跡期間の中央値は16.6ヵ月である。
 2007年11月〜2011年1月にイタリア国内6施設から49例が登録された。年齢中央値は60歳、男性40例、KRAS野生型は35例、変異型は5例、不明が9例、ECOG基準のPSは全例がPS 0または1で良好であった。
 P-XELOXは全例が1コース以上受けた(実施コース数の中央値は6.3コース)。
 P-XELOX療法の奏効率は評価可能46例でCR 4.3%、PR 50%、SD 30.4%、PD 15.2%であった。KRAS野生型患者のみで奏効率をみると、評価可能32例中CR 6.3%、PR 59.4%、SD 21.9%、PD 12.5%で疾患コントロール率(CR+PR+SD)は87.5%と全例の評価に比べて優れていた。
 転移肝切除術は15例(全例KRAS野生型)で行われ、うち結腸癌手術を受けていなかった11例は肝切除と同時に結腸癌の手術も受けた。10例は中央値3.5コースの術後P-XELOX療法を受けた。R0切除は10例で達成され、合併症による2次手術を受けた例および手術関連死はなかった。
 全例のPFS中央値は8.4ヵ月(95%CI 6.8-9.9ヵ月)、OSは21.9ヵ月(95%CI 13.3-30.6ヵ月)であった。PFS中央値は肝切除術を受けなかった症例(非手術群)7.3ヵ月に比べ受けた症例(手術群)14.7ヵ月と手術を受けた症例で延長がみられた(p=0.079)。OSは非手術群17.1ヵ月に対し、手術群は中央値未到達である(p<0.001)。延命効果はKRAS変異型群/不明群に比べ野生型群において改善がみられた(p<0.001)。
 副作用は消化管障害、皮膚障害、神経障害が高頻度にみられた。とくに下痢は全Grade 51%、Grade 3以上20.4%と重症例が多かった。悪心、嘔吐、粘膜炎、食欲不振はそれぞれ46.9%、14.3%、16.3%、12.2%にみられたが、大半がGrade 1〜2と軽度であった。主にpanitumumabに関連する皮膚障害は90%近くの患者で発生した。L-OHP特有の神経障害は61.2%で認められたが、Grade 3/4は6.1%に過ぎなかった。14.3%(7例)でアレルギー反応が生じ、うち4例では治療を必要とした。
 血液毒性は好中球減少12.2%、血小板減少12.2%で、Grade 3/4の好中球減少はなく、血小板減少も2%(1例)と全体に軽度であった。発熱性好中球減少はみられなかった。
 治療中止は副作用によるものが7例、手術関連のものが6例あった。
 本試験は、同時性肝転移のみを有する切除不能結腸癌に対するfront-lineでのP-XELOX療法を検討した試験として、著者らが知る限り最初の試験である。P-XELOX療法の奏効率は54.3%、切除不能から切除可能へとなったのは30.6%とともに高率であった。OSは実施例が有意に延長していたもののPFSに有意差はみられなかったが、通常再発は初回手術後に起こり、追加手術やsecond-line化学療法がこうした再発にきわめて有効であるためだと考えられる。予期しない副作用はなく、おおむね減量によって管理可能であった。本試験は途中でプロトコルを変更し、患者登録条件にKRAS野生型を追加したことから、KRAS変異状況の決定にかかる時間と治療の緊急性が相反し、登録が進まず予定していた患者数に達しなかったものの、切除不能な肝転移を有する結腸癌患者のfront-line治療としてP-XELOX療法は有望であることが明らかとなった。

監訳者コメント

XELOX+panitumumab療法はconversion therapyのための治療手段となり得るか

 切除不能の肝限局転移に対するconversion therapyの可能性についてはこれまでCELIM試験(FOLFOXまたはFOLFIRIへのcetuximab上乗効果の比較試験)やBOXER試験(XELOX+bevacizumabの単群試験)の結果が報告されているが、いずれの試験でも分子標的治療薬の併用による有用性が示唆されている。
 この報告はイタリアでの第II相多施設共同研究で、同時性切除不能肝限局転移に対するXELOXへのpanitumumab併用の有効性、安全性を評価したものである。このようなconversion therapyを評価する報告での大きな問題点の一つに、切除不能の定義が施設間や外科医間において異なることが挙げられるが、この報告では切除不能の定義が厳格に示されており、その定義は実臨床とも合致していると思われる。その上で奏効率54.3%、conversion rate 30.6%、さらにKRAS野生型に限ると奏効率65%、conversion rate 42.8%というのは、かなり良好な成績であろう。一方、安全性においてはGrade 3の下痢が20.4%というのが気になるのと、3週毎の通院では皮膚障害のマネジメントが難しいのではないかと危惧される。
 XELOXと抗EGFR抗体薬の併用療法の報告はまだ少なく、複数の試験もしくは第III相試験の結果が待たれるところである。

監訳・コメント:福井済生会病院 外科 斎藤 健一郎(医長)

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