監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
75歳以上のステージIII結腸癌患者における術後補助化学療法後の遠隔再発リスクの低下
van Eming FN., et al. Ann Oncol., 2013; 24 : 2839-2844
ステージIII結腸癌の臨床試験において、DFS、OSに対する術後補助化学療法の効果は確立しているが、日常臨床で半数以上を占める70歳以上の患者はその適格基準から除外され、登録されているのはわずか16%にすぎない。一方、RCTベースのpooled analysisでは、FOLFOXを用いた術後補助化学療法によるDFS、OSのbenefit は70歳以上と70歳未満で同等であることから高齢患者も臨床試験の適格基準に合致することを認めている。しかし、加齢に応じて化学療法の使用は減少しており、日常臨床においてこの結果を適用することに関しては問題がある。また、一般住民ベースの試験はその大半がOSに焦点を置いており、日常臨床における遠隔再発のリスクに関してほとんど知られていない。
そこで、一般住民ベースのデータを用いてステージIII結腸癌患者の遠隔再発のリスクに対する術後補助化学療法の効果を検討するとともに、75歳以上の患者が若年患者と同等のbenefitを受けられるかどうかを日常臨床の場から評価した。
Eindhoven Cancer Registry(ECR)から、2003〜2008年に南オランダでステージIIIの結腸癌との診断を受けた患者を抽出した。一般住民ベース試験の性質上、術後補助化学療法実施の有無で患者を比較する際に、バイアスが生じる可能性があるため、propensity scoreをマッチさせたサブグループを設定した。そして、患者コホート全体(全群)とpropensity scoreマッチ例(PS群)の両方について、Cox回帰解析にて遠隔再発の独立したリスク因子を特定した。
全群の解析対象は1291例で、そのうちPS群は466例であった。75歳以上は全群37%(475例)、PS群32%(149例)であった。以下、全群およびPS群の75歳以上群と75歳未満群を比較する。追跡期間の中央値は全群32ヵ月、PS群29ヵ月である。
全群の患者背景をみると、術後補助化学療法は75歳未満群の78%が受けていたのに対し、75歳以上群では17%と有意に少なかった(p<0.0001)。また75歳以上群は未満群に比べ女性(p<0.0001)、合併症の数(p<0.0001)、近位腫瘍(p<0.0001)、腫瘍分化度が低いか未分化(p=0.020)である頻度が高かった。75歳未満群の中では術後補助化学療法を受けた患者は受けなかった患者に比べ若年で(p<0.0001)、合併症の数は少なかった(p<0.0001)。75歳以上群では術後補助化学療法を受けた患者は受けなかった患者に比べ女性が多く(p=0.028)、若年で(p<0.0001)、社会経済状態が高く(p=0.034)、N2が多かった(p=0.048)。
一方、PS群で術後補助化学療法を受けたのは75歳未満群50%、75歳以上群51%と同等であった。75歳以上群は未満群に比べ合併症の数が多かった(p=0.015)が、術後補助化学療法の有無によるその他の患者背景の差はみられなかった。
術後補助化学療法と遠隔転移の関係について多変量解析を行ったところ、全群(化学療法実施群の非実施群に対するHR 0.55、95%CI 0.42-0.70)でもPS群(HR 0.46、95%CI 0.33-0.63)でも遠隔転移のリスクは術後補助化学療法を受けることによって低下していた。全群の年齢別にみても、75歳未満群(HR 0.50、95%CI 0.37-0.68)と75歳以上群(HR 0.57、95%CI 0.36-0.90)は同様にリスクが低下していた。また、T分類・N分類(早期)および腫瘍分化度(高/中等度)も遠隔転移のリスク低下に関連していた。年齢の再発のリスクに対する有意な影響は認められなかった。
すでに報告されている研究結果と同様、本解析でも高齢患者は術後補助化学療法を受けることが少なかったが、高齢患者も術後補助化学療法によって若年患者と同等の遠隔転移リスク低下が得られることが明らかになった。したがって、75歳以上のステージIII結腸癌患者に術後補助化学療法を行うことの正当性が認められたわけだが、余命や重篤な副作用など状況によっては化学療法実施を保留したほうが望ましい場合もあることを認識しておくことも重要であろう。高齢患者の評価は複雑であり、合併症・日常の活動・社会経済状況・臨床老人学的評価・多剤使用・栄養状態などを鑑みて行うべきである。
75歳以上のステージIII結腸癌患者にも、補助化学療法の効果あり
多くの臨床試験では高齢者は対象外であるため、高齢者大腸癌の術後補助化学療法のエビデンスは十分にあるとはいえず、実臨床での大腸癌術後の補助化学療法は症例ごとに臨床家の経験に基づいて実施の判断が行われていると思われる。
本報告は、南オランダの癌患者データーベースであるECRに登録された1291例のステージIII結腸癌患者を対象に術後補助化学療法の遠隔転移再発への影響を解析した。さらに、バイアスを軽減するために、propensity scoreを用いたサブグループ解析を行っている。
75歳以上の患者への補助化学療法施行率は17%と、75歳未満の78%と比較してかなり低かったが、遠隔転移再発リスクの補助化学療法施行群と非施行群との比較では全群内でHR 0.55, PS群内では0.46 と両群において良好で、高齢者においても術後補助化学療法が有用であるという結果であった。
本解析では、毒性に関しては、検討されなかった。併存症やADL、加齢による変化など、全身状態の複雑な高齢者に、補助化学療法をおこなえば、毒性の出現頻度が若年者よりも高くなりやすくQOLを損ないやすいので、患者選択基準の創設や安全性の評価が待たれる。
監訳・コメント:関西労災病院 下部消化管外科 向坂 英樹(副部長)
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